初の著書「『反権力』は正義ですか」―ラジオニュースの現場から―を上梓したニッポン放送の飯田浩司アナウンサー。後編では「ラジオ」というメディアについてじっくり聞いた。【撮影:大本賢児 取材:大竹将義・田野幸伸】
・前編はこちら→「『反権力』は正義ですか」ニッポン放送・飯田浩司アナウンサーがマスコミの報道姿勢に疑問
スポーツアナウンサー志望だった
―ニュースをやりたくてアナウンサーになったのですか。
最初はスポーツアナウンサー志望でした。実況をやりたくてアナウンサーを目指したので。ニュースに触れたきっかけは、2012年にスタートした『ザ・ボイス そこまで言うか!』(ニッポン放送)という番組です。この番組でアンカーマンを務めるまで、ニュースにはほとんど触れたことがなく、現場取材もしたことがありませんでした。
当時はまだ民主党政権。消費増税を行うかどうかで、朝の4時頃まで議員会館の地下の会議室の廊下でずっと待っていたこともありました。
―アナウンサーが普通そこまで取材しませんよね。ともすればニュース番組のアンカーマンですら、取材しないで喋る人なんてザラにいます。その中でも飯田アナは国会の討論を見に行ったり、公開情報を調べたり、ジャーナリストの動きをしている。そこまでするのはなぜですか。
マニアックな性格なのかも知れないですね。どうしてこういうことが起こるのかと疑問に思うと、調べずにはいられないのかも知れません。法律に従ってしかこの人たちは動けないんだと知ると、その根拠はどういう法律なんだろうと徹底的に調べます。ある意味、趣味の鉄道好きと共通する部分かも知れません。
―香港デモの取材も自腹で行ったと聞きましたが、それは自分の目で現場を見たかったからですか?
そうですね。元々、香港がすごく好きというのもありました。好きだった香港が変わってしまった。そこでなにがあったのかと。本当はもっと早く行きたいと思っていました。区議会議員選挙の後に行われた最初の大きなデモをなんとかギリギリ見に行くことができました。
今回の本のタイトルを見ると、「政治的な右左」の話のように取られがちですけれども、実は違っていて。
現場取材を大事にするのは、「事実に対して」真ん中の存在でありたいというのが基本にあります。取材の後、ラジオで放送する時に、自分たちが現場で感じたことを、どういう言い方をしたら一番正しく伝わるか、表現を含めてかなりスタッフと話し合っています。
被災地や災害現場もそうですけど、事実の真ん中に立つことを忘れた放送をしたくありません。だからこそ取材現場に行く必要があります。
たとえば、2019年10月、北朝鮮の漁船が水産庁の船にぶつかって沈没。水産庁が流された北朝鮮の人たちを救助しましたが、その後彼らを帰した、ということがありました。「(北朝鮮の船員を)全員しょっぴいてくればいいだろ」と勇ましいことを言う人もいますけど、実は法律の縛りがあってそういうことはできません。
それに、船に乗せるとしても北朝鮮の60人相手に、逮捕権限がある職員が一人しかいない状況で、そんな危険を冒せるのかと。それなら水産庁の人員を増強しなくてはいけない。そういった事実をおきざりにして、印象だけで勇ましいことだけを言ってもしょうがないでしょうよと。
この件に関しては現場に行けないものですけど、現場に近い人に話を聞けば、法律の制約含めてわかります。結局はソースに当たれということになりますね。
―ニュース番組にはコメンテーターがいて、自分とは異なる意見が出てくることも多々あると思います。現在放送中の『飯田浩司のOK! Cozy up!』は何人のコメンテーターとやっているんですか?
週替りの人もいますけどレギュラーで8〜9人です。僕が賛成できる・できないというより、発言に筋が通っているか、ちゃんとしたエビデンスがあるのかが大切です。それはコメンテーター選びの部分からきちんとやらないといけません。感想だけに終始するのではなくて、きちんとロジックを説明できるとか、なぜこう思ったという部分を言える人をコメンテーターに呼ぶというのが基本姿勢です。
じっくり話せるラジオの強み

―新聞もテレビも雑誌もネットもある中で、ラジオの一番の武器はなんですか。
放送の尺は一つの大きな武器かなと思います。(テレビに比べて)出演者が少ないので、一つのニュースに対して、ほとんど1対1で5分から10分喋ることも珍しくありません。テレビでは絶対にもたないし、新聞でそれをやろうとすると一面丸々その話題になってしまいます。
―ラジオで良かったなと思う部分は。
取材をするのが楽。どこにでも行けます。一方でマスコミとしては老舗の看板があるので、昔ながらの記者クラブにも非常駐でありながら一応は加盟しています。
ラジオは大きな組織ではないので、オール遊軍みたいなところもあります。色々な所へ行けるのはとてもありがたいですね。沖縄基地取材の一方で、福島の被災地にも行く。地震があれば熊本にも北海道にも行きますし、国会取材にも行きます。新製品の発表会を見に行くこともあります。大手マスコミでは、そういう動きはできそうでできないと思います。
―原発関連の取材は経済部なんて縦割りもあります。
私は報道部所属でもないので、どこへでも興味の赴くまま取材ができます。しかも番組パーソナリティでもあるので、自ら「こういう番組なんですよ」と取材先に声をかけると「どうぞ取材をしてください」となることもあります。
また身軽さで言うと、熊本地震の時に発生から一週間後くらいに取材へ行きました。まだ土砂崩れの行方不明者を捜索している頃でしたが、南阿蘇の避難所に行ったら、すごくみなさん元気よく、みんなで乗り越えよう!となっていて、「この様子を伝えたい」と思ったので、責任者の方にお願いして、「ザ・ボイス そこまで言うか!」の生放送をそこからやりました。
現場には私と桐畑という番組ディレクターの2人しかいなくても、小さな機械があれば、避難所の脇のテントの中で立ちながら放送ができます。特に災害時などは、放送によって現地の方々に負担をかけない、これもラジオのメリットだと思います。
マスコミはうなだれた被災者の画を撮りたがりますけど、私が足を運んだ現場は、被災者のみなさんが本当に和気あいあいとしていたんです。みんなが公民館で味噌汁を作っていて「うまそうだろー、お兄ちゃんも食っていきなよ」とすごく元気でした。
北海道の地震の時もそうでしたけど、現場の人たちはイメージと違ってとても元気だったりします。もちろん、カラ元気もあるかも知れませんけどね。そういうことも現場に行かないとわからないことだし、ラジオという身軽なメディアだからこそ、どこからでも生放送ができます。