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現金給付の政府案について考える――複雑で手間のかかる制度設計の成果は? - 中里透 / マクロ経済学・財政運営

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緊急経済対策が閣議決定された。焦点となっていた家計支援策(個人向けの現金給付)については、いくつかの制限を付したうえで自己申告(申請)をもとに給付が行われることとなったが、この政府案についてはさまざまな疑問や批判の声が寄せられている。緊急経済対策の原案の了承を得るために開かれた自民・公明両党の会合においても、対象者や給付の方法をめぐって数多くの異論が示されたと報じられている。

そこで、本稿ではパブリックコメントの意味合いも込めて、現金給付の政府案について点検をしてみたい。

あらかじめ本稿のメッセージを要約すると

・ひとまず一律給付を行い、給付金を課税所得扱いとしたうえで、所得が一定の基準を上回る場合には事後に所得税で給付金相当額を回収する方法をとれば、今回の措置と同様のことが、より簡単に低コストで実施できる

・給付の基準となる収入(所得)の指標として「世帯主の月間収入」を利用することは適切でない(共働きなど多様な働き方の世帯が増えているため)

・2月~6月の収入の状況をもとに年間の収入を見通すことができるか疑問が残る

・給付の可否の線引きがあいまいなため、給付金を受けとることのできた世帯とそうでない世帯の間に大きな不公平感が生じるおそれがある

・所得の確認において簡便な方法が採用されることから、収入の状況について不適切な申告が行われたり、給付を受けるために意図的に就業時間の調整がなされるなどの問題が生じる可能性がある

となる。以下、これらの点について順をおってみていくこととしよう。

政府案の概要

まず、家計支援を目的としてなされる現金給付の政府案の内容をまとめておくと、

・受給を希望する人(世帯)からの申請をもとに審査を経て給付

・給付額は1世帯当たり30万円

・対象者は、世帯主の月間収入(本年2月~6月の任意の月)が、

①新型コロナの感染が発生する前と比べて減少し、年収に換算すると個人住民税均等割非課税水準となる世帯

②新型コロナの感染が発生する前と比べて半分以下となり、年収に換算すると個人住民税均等割非課税水準の2倍以下となる世帯など

・給付に関する事務は各市町村において行う

・受給を希望する人(世帯)は収入を証明する書類を付して市町村に申請を行う

ということになる。

「住民税非課税水準」というのはあまり見慣れない言葉であるが、住民税の課税の際に収入(必要経費控除後)から差し引くことができる控除(基礎控除・配偶者控除・扶養控除など)を適用して所得(課税所得金額)を算定した際に、住民税が非課税となる世帯のことだ(今回の給付措置では住民税のうち均等割が非課税となるケースが住民税非課税水準とされている)。

以下ではこの点を踏まえたうえで、政府案の制度としての問題点や、実施にあたって混乱が予想される点などについて整理してみることとしよう。

世帯主の所得を基準とすることは適切か

今回の給付措置においては、給付の可否を判断するうえでの所得要件として世帯主所得(世帯主の月収)が用いられている。だが、世帯を単位として給付がなされる今回の措置において、給付の基準となる所得に世帯主所得を利用することには大きな問題がある。世帯主所得を基準にするという発想は、標準世帯(サラリーマンの夫と専業主婦の妻、子ども2人)を全国の世帯の代表例として用いることが一定の妥当性を持ち得た時代のものであり、共働きが一般的となった現在の状況にはそぐわないからだ。

今回のように世帯単位で給付を行う場合には、世帯主所得ではなく同一生計者全員の所得をもとに給付の可否を判断することが適切となる。家計(世帯)の経済力は世帯主の所得だけでなく、配偶者などそれ以外の家族の所得の状況にもよることを踏まえれば、このような対応をとるのは当然のことだ(失業手当を受給している人がいる場合には、その給付額も含めて世帯の「所得」を算定することが必要となる)。

日本の個人所得課税(所得税・住民税)は世帯ではなく個人を単位として課税がなされているため、現時点では世帯全体の所得を行政があらかじめ悉皆で把握することのできるシステムはないが、今回の現金給付の政府案は申請をもとに給付を行うという制度設計になっていることを踏まえると、同一生計者全員の収入の状況に関する証明書類の提出を求めることは十分に可能である。したがって、世帯主所得を給付の基準とすることには合理的な理由がないということになる。

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