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世界的アーティストと触れあえる機会を与えることが子どもたちの未来への投資だと思う - 「賢人論。」第114回(前編)平田オリザ

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日本を代表する劇作家の平田オリザ氏による“演劇のまちづくり”が注目を集めている。場所は兵庫県豊岡市。城崎温泉で知られる人口約8万の地方都市だ。昨年、平田氏は家族とともに同市へ移住。この春、主宰する劇団『青年団』の移転も完了した。2019年9月には「5年でアジア最大、10年で世界有数の国際演劇祭を目指す」と意気込む「豊岡演劇祭」を開催。2021年には観光とアートを融合した国際観光芸術専門職大学(※)を開校し、自ら学長に就任する予定だ。矢継ぎ早に繰り出される前例のない地方発の文化プロジェクト。今、なぜ、東京ではなく地方なのか、話を伺った。※仮称・認可申請中

取材・文/木村光一 撮影/公家勇人

負の遺産を「アートの場」として再生
国内に限らず海外からの申し込みも

みんなの介護 東京生まれの平田さんにとって、地方移住や劇団の移転は大きな決断だったと思われます。一体、何があったのでしょうか。

平田 もともと豊岡市と縁はなかったんです。たまたま、僕が文化講演会で訪れた際、「城崎の温泉街のはずれに、ほとんど使われてないコンベンション施設があります。建設当時はさまざまな学会や労働組合の大会などを誘致することで周辺の旅館業も潤うだろうと期待されていたのですが、まったく稼働しなかったため県から市へ払い下げられてお荷物になっています。この施設を中貝宗治市長が劇団やダンスカンパニーなどに貸してみてはどうかと思いついたのですが、いかがなものでしょう?」という相談を受けた。それがそもそものきっかけでした。

みんなの介護 いわゆる“ハコモノ行政”の負の遺産の再生を平田さんが請け負ったわけですね。一体どのような施設に生まれ変わらせたのですか。

平田 幸いなことに、ダンスのカンパニーが大きな作品を創るのにも十分なスペースが確保できることがわかったので、地元の方たちも交えて協議を重ねた結果、今まで日本になかった舞台芸術の「アーティスト・イン・レジデンス」の施設をつくろうということで話がまとまりました。

そして、24時間いつでも自由に稽古できる6つのスタジオと、最大23名が泊まれる自炊設備付き宿泊施設を完備した「城崎国際アートセンター」(KIAC)が2014年にオープン。それまで年間20日くらいしか使われていなかった施設が、ほぼフル稼働するようになり、海外からも使用の申し込みが来るようになったんです。

アーティストと地元の方との触れあいの場を創造する

みんなの介護 利用者はどういった人たちなのでしょう。

平田 いずれも世界のトップクラスのクリエイターや将来を嘱望される若手ア―ティストたちばかりです。利用者は公募によって選ばれ、3ヵ月を上限に無料で滞在が可能。年間15団体くらいに滞在制作をしてもらっています。

利用したアーティストたちの口コミもあって、KIACの存在はわずか数年のうちに世界の演劇とダンス界に知れわたり、城崎は「世界的なアーティストが普通に歩いている街」になりました。はっきりした数字では言えませんが、2012年から2017年の5年間で40倍に伸びた城崎のインバウンドにも少なからず貢献しているとも思われます。

みんなの介護 つまり、文化に目を向けたことで、ハコモノ施設の収益以上のメリットを得たわけですね。

平田 そもそも城崎は長い間、文豪・志賀直哉の『城の崎にて』の舞台として全国に知られ、「温泉と文学のまち」としてほかの地域との差別化を図ってきました。かつては、それぞれの旅館が、有島武郎、泉鏡花、島崎藤村といった文人墨客を招き、掛け軸などへの一筆書きと引き換えに無料で長逗留(ながとうりゅう)させてきたという歴史もあります。

KIACを利用するアーティストにも「短期的な成果は問わない」代わりに、公開リハーサルやワークショップや地元の小中学校でのモデル授業などを行ってもらっています。

それらの結果として、城崎の小中学生は、つねに世界トップクラスのアーティストと触れあい、興行として招聘すれば1団体数百万円かかる劇団やダンスカンパニーの作品を無料で観る機会に恵まれることになったのですが、実は、このことこそが、観光の街・城崎の未来への大きな投資になるだろうと僕は思っています。

その点を兵庫県も評価してくれて、来年、日本ではじめて演劇やダンスを本格的に学べる県立の国際観光芸術専門職大学が豊岡市に創設されることになりました。僕が移住したのは、その大学の学長就任を依頼されたためです。

劇団の移転も生産拠点を移すだけのこと。作品は豊岡で創り、公演は今まで通り東京や大阪で行なえばいい。企業でいえば工場の移転のようなものです。

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