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サラリーマンは” オワコン”なんかじゃない~オバタカズユキ×常見陽平×古市憲寿・三世代鼎談後編~

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「安定or自由」という無意味な二項対立


オバタ:だから、「流行なんだ」という自覚を持ってやりましょうということを提案したい。あと、こうした言説が生まれる背景には、「サラリーマン」というシステムの抑圧があると思うんですね。抑圧になってしまう原因は、システムの欠陥でなくて運用の仕方にあると思う。それは物理的な運用ではなくて、文化的な運用。

サラリーマンは、バブル期でも嘆いていたわけじゃん、サラリーマンの不満を。でも一方で10年以上たって「あの頃はよかった」って言っているんだよ。その当時は「報われない」とか文句こいて、不況になって「あの頃はよかった」って。それに対しては、「その当時言っておけよ」という思いがある。自分のやっている仕事の愚痴を言ってもいいけど、一方で仕事の楽しさも語れ。「仕事の何が面白いのか」を語る言い方やスタイル、文化がこの国には、一貫してなかった。

常見:そういう文化が唯一あるのは、採用広告という気持ち悪い世界だけですからね。採用広告の世界は唯一、かっこいいサラリーマンがいる世界。あとは日経ビジネスやプレジデントなどのビジネス雑誌に出てくる各社の広報が用意した「デキる」社員。

古市:IT業界の下請け仕事とかやらされて、安い料金で買い叩かれているけど、気分は「ノマド」っていうのも、バイク便ライダーやバス運転手と構造は変わらない。「気分は独立ワーカーだけど実際は搾取されてるだけ」っていうのと同じですよね。ただし、「気分」がないと、本当に単純なマックジョブが続く世界が待っているだけなので、それがいいか悪いかは別問題です。

常見:世の中って尾崎豊的な「自由になれた気がした」の連鎖じゃないかなと。例えばコンビニのフランチャイズに入ったら結構なお金が入るけれど、やはり結構なお金を本部に持っていかれる。モチベーションを煽っている会社の仕組みも同じで「オレ何個も受注決めたぞ」と言っても、結局はちょうどいいコストで使われている。だから、「自由になれた気がした」の連鎖モデルというわけです。

古市:そもそも資本主義って、差異から利潤を生むという仕組みですよね。搾取で成り立っているモデルなんで、それ自体はいいことでも悪いことでもなくて、当たり前と言うしかない。本当に最低限度のお金さえもらえていないならば問題だけれども、搾取だって批判してもしょうがないことが多すぎる。

常見:結局、そこで踊らされている。「企業社会ってそういうものじゃん」という話なんですよね。

古市:ただ「ノマド」論のポジティヴな面も指摘しておいてもいいと思います。日本の自営業者の割合の低さ、起業率の低さは、国際的に見ても事実。自分で会社起こすということが、非常に難しい社会というのも事実。だから「ノマド」っていう働き方自体は、もう少し肯定されてもいいと思う。「ノマド」本人よりも、「ノマド」を許さない社会構造を批判したほうが、建設的かなとも思います。

常見:「ノマド」の中で有名になった人って有名企業、大企業出身という事実がある。これは、1つの教訓だと思うんですけど、ある意味最低限のビジネスは学んでるんですよ。今の「ノマド界」って、「超優秀ノマド」か、「かわいそうなたたきたくなる下流ノマド」じゃないですか。だから、「ノマド」の可能性消しちゃいけないと思っているんですよ。子供が1人くらいいて、そこそこ食える「ノマド」的働き方というのが実現すればいいんですが。

オバタ:なんでここまで来て、「ノマド」擁護になるんですか。いっそこんな言葉はぶっ潰してもいいんじゃない?

古市:「フリーター」っていう言葉を使いにくくなったからじゃないですかね。言葉の新陳代謝。

オバタ:「脱サラ」でいいじゃん。「独立開業」とかさ。どうでもいい新しい言葉なんて、潰しちゃっていいじゃん。実態がないならさ。

古市:ただ実態がないからこそ新しい言葉が生まれると思うんですよ。佐藤俊樹さんが、情報社会論で同じようなこと言っています。情報化によって新しい社会が作られるということはずっと繰り返し言われ続けている。最近ではTwitterで社会が変わるなんて議論が流行しました。なんでそういうことが繰り返し言われるかというと、中身がないからです。実際は、何も示していなくて、かつそれが実現されていないから繰り返し語られ続ける。「脱サラ」が繰り返されるのも、実現されない見果てぬ夢だから繰り返されていると思います。

常見:確かに。BLOGOSの読者にはブックオフ、あるいはAmazonのマーケットプレイスで10年前、20年前の本を読んでみればいいと思います。大筋では言っていること変わらないから。

オバタ:それにはちょっと異論があるなぁ。見果てぬ夢っていうのは、見果てぬ夢であるような言葉を振り回すから、そうなっちゃうんじゃないかなあと思うわけ。実現できる方法とか分野もあるはず。

古市:高原基彰さんが言っていますが、日本の雇用に関する言説は「自由か安定か」の二項対立でしか語られてこなかった。「会社に属して安定だけど自由がない」もしくは「自由だけど安定してない」という二項間の揺れ動き。そうじゃなくて、オバタさんが言うような地に足が着いた議論をすべきなんでしょうね。

常見:「自由」か「安定」に限らず、そもそも二項対立っておかしいと思うんですよ。僕は、毎年就職活動する学生を見ていますけど、そこで言われていることは、いつも変わらない。

ベンチャーか大企業かという議論が私が学生だった約15年前から繰り広げられていて、一般論で語られる「安定」か「自由」かっていう話しです。でも、実際は、そんな判断軸じゃないと僕は思う。何にモチベーション置くかということであったり、5つぐらいのレーダーチャートになるんじゃないかと思うんですよね。そういう議論がなされず、非常にデフォルメされたイメージだけで語られる。多くの人は大企業に勤めたことないから、憧れで「大企業はいい」といったりする。一方で「大企業は終わる時代だ」とか言う人もいるけど、「テメー、東電もJALもつぶさなかったじゃねぇか」って思います。

しかし、サラリーマンってそんなに駄目なんですかね?

オバタ:だいぶ前だけど、『会社図鑑!』という本を書くために、石原壮一郎とサラリーマンコスプレして新橋の居酒屋をはしごしたことがあるんです。夜の新橋は、すごい面白い。オヤジが中心だけど声がすごくでかくてやかましい場所だよね。同じ安居酒屋でも中央線の店に比べて、声のハリが違う。ザ・サラリーマンは腹式呼吸してるね。みんな、「サラリーマンはダメだ」とかいうけど、基本元気な奴が多いということが、新橋行けばわかる。

常見:企業の中でも、うつの問題とか色々あると思うけど、サラリーマンって毎日が躁うつ状態なんじゃないかなと。僕は15年間サラリーマンやってて、なんか「元気な躁状態とうつ状態で動いているんじゃねぇか」って思いましたね。

ただ意外にみんな元気だし、もうそろそろリストラかっていうアラフィフのサラリーマンが新橋のカラオケボックスでZIGGYの「GLORIA」とかブルーハーツを歌ってますからね。

古市:学者とサラリーマンは別の世界で動いてますよね。日経新聞は読むけど、コラム欄といった文化的な記事は一切読まないビジネスマンもいる一方で、二次資料だけで会社の世界を捉えようとして、空転している議論もたくさんある。

オバタ:東大の連中と飲んでいても内向きで暗いもん。

常見:大学院入って一番思うのは・・・。大学の世界はサラリーマンを批判しすぎなんじゃないか、と。学者の世界だって教授、准教授、講師、ゼミの院生、学部生っていう徒弟関係で、サラリーマン以上に窮屈じゃないですか。

古市:理系なんて特に、学費を払いながら、教授の下働きみたいなことをさせられ、週7日でラボに通ったりと、ブラック研究室は多いなあと思います。

常見:そこで悩んで研究の世界をやめちゃった人っていますよね。理系院卒の友人・知人によると、窮屈な世界だな、と。それこそアカハラも構造的に起こっているのではないか、と。新聞でたたかれてるのは氷山の一角で「お前は飼いならされたブロイラーだ」って大学生の答案に赤ペンで書く先生も、90年代にはいましたからね。

オバタ:まぁ会社も色々あるけれど、アカデミズムよりもビジネスの世界の方が広がりがある場合もあるし、サラリーマンを一面的に見すぎている部分はあるよね。

―ノマドについては、もう少し地に足の着いた見方をすべきというのが一つ。あと、自分が「ノマド」であることを理由に単純な会社批判になってしまうと間違いになるというところですかね。

古市:日本人の8割が雇われて働いているのが現実ですし。

常見:「サラリーマン」を安易に「オワコン」とか言うなよと。一般のマスコミも馬鹿なんだけど、ネット上でも極端なこと、起こりかけた変化の兆しの兆しくらいのことを言うのを目的化しているのはどうなんだろう。

オバタ:タイトルの付け方を紙以上に過激にしないとPVがとれないからなぁ。クリック至上主義だから、テレビの視聴率主義を批判できないとこはあるよね。

「ノマド」でもサラリーマンでも多面性の負の部分って語りやすいから、いっぱい語られてきてて、もうお腹いっぱい。正の部分については、常見さんがおっしゃっていた会社の採用広告的なもので嘘を並べてるとなると、そっちもお腹いっぱいだよね。

古市:ただ難しいですよね。肯定でも否定でも、「ノマド」について発言してる人は、結局ノマド的に働いてる人が多い。ノマド論に興味を持つなんて、評論家なり、ライターなり、雇われずにフリーで働いている人が多い。ということはノマド否定論は、「自分はできるけどおまえはできない」という物言いになってしまう。一方で、「ノマド」ではない人が「ノマドなんて無理だ」と言っても、「お前だから無理なんだろ」という話になってしまう。結局、ノマド的に働いている人が「君でも僕みたいにノマドになれる」と発言するのが一番説得力を持ってしまうのではないでしょうか。

常見:僕は、ある意味、無敵だと思ってて。「ノマド」って、会社批判もできるし、叩かれたら「自分たちはかわいそうだ」「夢を追っているから凄いな」だとか、開き直ることだってできる。

オバタ:それはでもウェブ上の話でしょ。実際の会社員で安定している奴は口の端で笑って終わりだよ。

古市:世代差があるんじゃないですか。給料も少ないし社員寮もないし、世代間格差を会社内で見せつけられた結果、ノマドに憧れるような人が出てくるというのは、理解できる。

常見:それは若者が3年で辞める理論と全く同じですよね。ソリティアばっかりやってる「Windows2000部長」とかもいますから。窓際なのに年収2千万円もらってて仕事の遅い部長。

オバタ:仕事で本田直之さんの『ノマドライフ』読んだけど、あれ読んだら憧れないよ。「コイツ異常だからできんじゃん」って思った。

常見:あの方は奥さんが大変稼ぐ方ですよね、マイクロソフトの営業部長だった方ですし。あとはなんか地に足ついてない印象が・・・。僕はハワイで働きたくないですしね。

古市:あと、ものすごく凄い規則正しい人が多い気がします。佐々木俊尚さんも、非常にストイックですし。

常見:僕もストイックですよ。毎朝5時に起きてるし、毎日5千字以上書いてますしね(笑)。

でも、僕は「職場」って言葉が好きなんですよ。何故なら仲間もいるし一体感もあるし、自分の苦手なことを補填しあえるから。

最近、フリーランスライターで相当稼いでる人と「常見さん、会社って良かったですね」っていう話になりましたよ。会社だったら上司がいる、後輩がいる、仲間がいる、健全なライバルがいる。そして、困ったときに拾ってくれる人がいる。小さい会社だろうと「会社員でよかった」と僕は思いましたね。

オバタ:それはまったく同感。90年代にSOHO(※Small Office/Home Officeの略。パソコンなどを利用して、小さなオフィスや自宅でビジネスを行う事業者をさす場合が多い)の時代といわれたけど、結局広がらなかった。理由は色々あると思うんだけど、自宅で一人仕事するっていうのは、きついよ。俺は、20年近く一人で仕事してたからわかるけど、単純に寂しい。

ほとんどの労働者は、仕事に共同体を求める部分があると思う。共同体の大きさも形も色々あっていいんだけれど、そこをはずして考えるのは「違うだろう」と。そもそも「ノマド」っていう言葉も遊牧民でしょ。遊牧民だって、共同体。複合家族、お互いを支えあって暮らしている小集団なんですよね。

プロフィール

おばた・かずゆき1964年東京都生。コラムニスト。上智大学文学部社会福祉学科卒業後、2カ月間の出版社勤務を経てフリー。硬派な社会批評からペットエッセイまで、幅広く執筆・編集活動を行う。著書に『何のために働くか』などがある。また、『大学図鑑!』『資格図鑑!』の各年刊シリーズ(いずれもダイヤモンド社)も手がける。




常見陽平(つねみようへい):著述家、株式会社クオリティ・オブ・ライフフェロー、HR総合調査研究所客員研究員。1974年宮城県生。株式会社リクルートで、「とらばーゆ」編集部などに在籍。2005年に玩具メーカーに転じ、2009年に株式会社クオリティ・オブ・ライフに参加。2012年に退社し、フェロー就任。一橋大学大学院社会学研究科修士1年にひっそりと在籍中。執筆・講演の専門分野は就活、転職、キャリア論、若手人材の育成、若者論、サラリーマン論、社畜論、ノマドワーク、仕事術など。就活、キャリアに関する著書多数。
Twitterアカウント:@yoheitsunemi



古市憲寿(ふるいち のりとし):1985年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。著書に、「絶望の国の幸福な若者たち」、「希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想 」、「上野先生、勝手に死なれちゃ困ります 僕らの介護不安に答えてください」など。
Twitterアカウント:@poe1985



資格図鑑!2013
posted with amazlet at 12.08.13
オバタ カズユキ
ダイヤモンド社



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