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サラリーマンは” オワコン”なんかじゃない~オバタカズユキ×常見陽平×古市憲寿・三世代鼎談後編~

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「ノマド」を推し進めているのは国?


―起業、フリーランス、社会起業と一般的な「就職」以外に様々な選択肢、モデルケースが出てきています。その中で学生にとって「会社に入る」という選択肢がどれだけ相対化されてきているのでしょうか。

常見:そういったものって定量化できないんですよ。そのデータを見たことないし、極端な兆しが大袈裟に伝えられるということがある。先ほど言ったようにイメージと実態が乖離した状態で動いている。

僕も今フリーランスで働きながら大学院生やってるんですけど、結局フリーとして成功してる人って、実は有名大学、有名企業出身なんですよ。

古市:『週刊プレイボーイ』で特集されていましたけど、「ノマド」の実態って、ネットワークビジネスやっている人とか、IT系の下請けの人が多いようですね。体よく搾取される構造が出来上がっている。

常見:僕は最近、「ノマド」が集まりそうなカフェに潜伏したりして、色々取材もしたんですけど、「スターノマド」から「なんちゃってノマド」までいて、「ノマド」の中でも非常に階層化している。

古市さんの文章で面白かったのが、「ノマドってフリーランスと何が違うんだよ」って話です。フリーランスって家で仕事するのが嫌で、Wi-Fi環境が少しずつ増えてきたから、カフェで仕事したりする。フリーライターもそうだし、プログラマーだってフリーなら同じですよ。

あと、この前ラジオに出たときにサラリーマンで「ノマドだ」っていう人がパーソナリティだったんですけど、ほとんど会社行かずに外でいろいろなプロジェクトに入っているんですって。つまり組織・時間・場所の自由といいつつ、自由度の違いにより類型があるんじゃないかってことが一つ。さらに、任されている仕事もピンキリで、逆にハイクラスな層の「ノマド」ってノマド文化を煽って儲けているっていう部分があると思う。

オバタ:要するに、野外で端末たたいていれば「ノマド」なの?

常見:僕は時間・場所・組織からの自由っていうことだと思っているんだけど、どの項目がどれくらい自由なのかによって差がある。あと、古市さんが『新潮45』の原稿で書いていた精神的なもの。

古市:スタイルの話になっていると思うんですよ。個別の事情によって実態が違うにもかかわらず、「ノマド」という単一的なベクトルで見るから、どうしてもスタイルの話になってしまう。

大学卒業者の選択肢が増えたという言い方もできるかもしれないけれど、実は増えていない。「起業家になりたい」とか「ノマドになりたい」って、少し滑稽な言葉ですよね。本当はその中身が大事なはずなのに、どんな仕事をするかをすっ飛ばして、いきなりスタイルの話をする訳ですから。

オバタ:「ノマド」かどうかって、「あなたノマドですか?」と聞いて判断するしかないの?

常見:「ノマド」って名乗る人に聞けば、「そうですね」ってなるけど、本人はうまく説明できない。僕なんか「ノマド」以外の何者でもないですもん。大学通って、執筆しながら企業のプロジェクトにいくつか入っているし。

オバタ:今日は、「ノマド」知らずのまま、この鼎談に臨んでるんですけど、今まで話してきたとおり、「フリーター」という言葉は、リクルートが作った。『FromA』という雑誌が、自分たちの力を大きくするために、「市場をつくろう」という営利目的でやった。そういうのがはっきりあると思うんだけど、それに対して「ノマド」って、” 誰が得する言葉なの?”という疑問がある。

常見:1つの仮説なんだけど、「ノマド」を煽っているのは国なんじゃないかと。陰謀論ですけど。なぜかというと、今、国家戦略室のフロンティア分科会なんかで議論されている内容の議事録を見ると、2050年の日本の姿として、「ノマド」とは書いてないけど、「これ事実上ノマドじゃん」というようなことが書かれている。

古市:僕もフロンティア分科会の中の一つの部会で委員として関わっていました。企業人を中心に集めた部会、貧困研究者を集めた部会など、いくつかの部会があって、実は部会ごとに主張のニュアンスも違うんです。Webには、各部会の報告書も載っているんですけど、新聞報道などでは「40歳定年」という点がクローズアップされたみたいですね。実際は、雇用を流動化するなら社会保障をいかに充実させるかが大事だとか、そうったことも書かれているんですけど、確かに企業に縛られない行き方をポジティヴに描いていたことは事実です。

オバタ:なんちゃってポジショントークで、思いつきで言っているだけじゃないの?

常見:これはわからない。2000年代前半の「起業だ」って声高に言っているのと重なっている部分もあるんじゃないですかね。

―よくある議論として、「解雇規制を緩和すれば経済に好影響だからやるべきだ」というのなら理解できます。しかし、「ノマド」を増やすというのは、それとは別問題だと思います。何故そういう話が出てくるんでしょうか?

古市: 解雇規制が厳しいか緩いか、というのは業種や職種によって違うと思うんですが、「自由な市場を徹底させたい」「新自由主義が途中で頓挫したから、それをもっと押し詰めたい」という思いはあるでしょうね。

常見:流動化って、どういう状態を流動化と定義しているんですかね、そういう人たちは。これも、実は「終身雇用・年功序列」同様、言葉が一人歩きしている。あと、性善説で語っていますね。この前、海老原嗣生さんの本を読んでいて、「これは最近の人のスピーチとかブログの内容かな」と思ったものが、実際は1960年の池田勇人の所得倍増計画だった。それこそ「年功的な側面を廃す」とか言っている。

古市:ちょうど60年代までは、企業側も日本型雇用に批判的だったんですよ。むしろそれは日本の前近代性の残滓だと考えられていました。70年代から日本の景気がよくなったので、日本型経営が礼賛され始め、経団連も「日本型経営を守りましょう」と言い出した。ちょうどその転換期なのかもしれない。70年代80年代に日本型経営が礼賛されて、それが批判にさらされながらも、90~2000年代まで生き残ってきた。これを反転させたいという意図があるのかも知れません。

オバタ:推理としては異論もないし面白いんだけども、これまでの話をちょっと引いて見ると、「ノマド」という言葉を「フリーター」と対比させるのに違和感を覚えるんです。何故なら、インパクトの差がありすぎる。「ノマド」ってすごい小さなところで起きているイメージがあって、それこそ俺は古市さんから聞くまで知らなかったわけですよ。Twitterをハードにやっている一部の層だけが知っている言葉じゃないかなぁって。

常見:同感ですね。「ノマド」の人数って誰にもわからない。フリーランスの数も個人事業主の数とイコールではないですから。だから、ノマドやフリ-ランスがどれだけ広がっているのかは、正確にはわからない。東京都内で目立っている現象がネットを中心に盛り上がっているのかなぁと。

オバタ:お二人を非難するわけではなく、相対化したいんですけど、お二人は「ノマド」を批評なさってるじゃないですか。それは非常に「速いな」と思う。「ノマド」という言葉が世間に知られる前に、まず批判から出てきている、というイメージ。批判されているのを見て、「へ~そんな流行があるんだ」と認知している人は俺を含めて相当数いると思う。

これは例えばフリーターとは全く違う。何年もかかって、いろんな状況も変わって、2003年にたたかれ始めたのがフリーター。規模も含めて、それとは全く違うわけですよ。

常見:「ノマド」というムーブメントに名前がついてブレークしたのは、まさに2012年なんですよ。やっぱりマス媒体であるテレビの『情熱大陸』で安藤美冬さんが取り上げられたというのが大きい。佐々木俊尚さんの『仕事するのにオフィスはいらない』や、中谷健一さんの『「どこでもオフィス」仕事術』みたいな話は数年前からあって、ノマド的な働き方は事実上はあった。だから、ブレークする前に、古市さんや常見が批評したっていうのはあったと思いますね。

オバタ:言葉の消費が、本当に早くなったというのが一番の印象ですよ。議論の是非は別として、相当ドライブかかっているぞってことは、「ノマド」に関わる文章を読んだり、発信する人は自覚していた方が、頭のいい議論になると思う。

常見:ネット界とリアル界は全然違いますからね。世の中は普通の人で動いている。色々なものが消費されるのが早くなって、Twitterも以前ほど流行らないし、facebookもバカと暇人のものになっている。

古市:堀井憲一郎さんは、「実家の母親に聞くと本当のブームかどうかわかる」と本の中で書いてますね。ちょうど、僕の親が60代なんですけど、iPadも使うし、HDレコーダーも使うけど、Twitterはわからないし、facebookも使わない。同世代だけど、僕の妹とかTwitterとか全くやらない。だけどLINEはしている。年代とか学歴とか業界でセグメントがあるわけですから、実際問題として「ノマド」が話題になっているのは、Twitter界隈の一部の人だけじゃないですか。

オバタ:「ノマド」の講演会では、ノマド先駆者が演壇に立ち、ノマド志望者が客席に着くわけでしょ。その後の懇親会が、先駆者も志望者もお待ちかねでね。要するにそこで金が回るわけじゃん。「たこの足くい」的なことをやるわけでしょ。

例えば、中小企業診断士っていう古い国家資格があるけど、これが似てるなあって思うんだよね。ほとんどの有資格者は企業勤めの自己啓発組なんだけど、たまに勢いづいて独立しちゃう人もいるわけですよ。そういう人たちは、地域ごとにいる中小企業診断士のボスの傘下につくわけですよ。その人が出る講演会の段取りとか、著書のゴーストライトをやっていたりする。だから中小企業診断士で本当にコンサル的な業務で食ってる人はほとんどいない。

常見:ノマドも全く同じで、「お布施ビジネスじゃん」って思うんですよ。ネットワークビジネスそのものじゃんと。「会社勤めが嫌だからノマドやる」というのも、ある意味矛盾している。何故なら結局、仕事って企業とおっさんから商売とってくることだから。それ無しじゃうまく金にならない。

あと、組織・時間・場所の自由っていうじゃないですか。その言葉って90年代後半の、カンパニー松尾が撮ったAVで聞いたことがあるんです。それはアムウェイをやっているソープ嬢を撮るという企画だったんですけど、その中で女の子が延々とカンパニー松尾に「組織・時間・場所の自由がある」と滔々と語るわけです。それに対してカンパニー松尾が「俺はこういう哲学を語るこの女が嫌いだ」と字幕で言ってるんですけど。

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