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全世界で大ヒットしたiMacを、なぜアナリストたちは酷評したのか

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スティーブ・ジョブズはiMacでコンピュータの形を革新し、大ヒット商品となった。だが、アナリストたちは当初、「こんなものが売れるはずがない」とiMacを酷評していた。アップルでブランド戦略を担当した河南順一氏は「彼は自分の信じるものに対しては一切の妥協を許さずブレない人間だった。その“妄想”が最高のものを生み出した」と説く――。

※本稿は河南順一『Think Disruption アップルで学んだ「破壊的イノベーション」の再現性』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

Apple imac
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/juniorbeep

当時のユーザが求める「2つのもの」が欠けていた

破壊的イノベーションは視点が前向きになってはじめて起きるもの。過去の実績やデータをつぶさに分析し、市場の表面的なニーズを満たすことばかり考えていては、どうしても「常識」の範疇に収まってしまい、ありきたりの発想しか出てこないからです。

たとえば、1998年に発表されたiMacは、スティーブ・ジョブズの思い描く「インターネット時代にふさわしいコンピュータのあり方」が色濃く体現されていたものでした。それはあまりに未来志向で、その先進的なデザインや衝撃的な低価格を絶賛する人たちがいた一方で、一部のアナリストは「こんなものが売れるはずがない」とiMacを酷評しました。なぜなら、iMacには当時のユーザが求める最も大事なものが2つ欠けていたからです。

プリンタメーカーが慌ててUSBポートに対応した

1つはFDD(フロッピーディスクドライブ)でした。まだまだFDDユーザが多かった時代ですが、「そもそもインターネットの時代になれば、データの転送もインターネット経由で行われるようになる」という確信から、バッサリと切り捨てたのです。ちなみに、当時のインターネット普及率は、アメリカでさえせいぜい1割程度でした。

もう1つは、SCSIなどの標準的なインターフェース。その代わりに当時としては先進的だったUSBポートを採用しています。プリンタメーカー各社はコストを優先し、USBポートを搭載したプリンタを製品化していなかったため、「プリンタがつなげられないパソコンを誰が買うんだ」という声が上がりました。しかし、結果的にはiMacの発表から発売までの短期間で、反響の大きさに驚いたメーカーが急ピッチでUSB対応のプリンタを製品化。アナリストの予想は見事に外れたのです。

展示場で誰もがiMacを撫で回していた

iMacはデザイン的にも、前代未聞でした。従来のパーソナルコンピュータはどのメーカーのものもベージュ色で角ばっていましたが、iMacはおよそコンピュータらしくない、丸っこい半透明のポリカーボネート素材の筐体で、オーストラリアにあるビーチにちなんで名づけられたボンダイブルーの色をまとっていました。

河南順一『Think Disruption アップルで学んだ「破壊的イノベーション」の再現性』(KADOKAWA)
河南順一『Think Disruption アップルで学んだ「破壊的イノベーション」の再現性』(KADOKAWA)

余計なものを取っ払い、配線もスッキリした一体型のレトロフューチャーなデザイン。コンピュータに馴染みのないコンシューマをターゲットにした、インターネット時代を切り開くまったく新しいコンセプトのコンピュータでした。

iMacの発表が行われたフリントセンターや、日本での発表会場や、1998年8月のマックワールド・ニューヨークでの展示場を見ていて気がつきました。このエクスペリエンスを重視したデザインは、ほかのコンピュータには見られない特異な現象を生み出していました。iMacの展示には、どの会場でもひと目見ようとする人たちが長い行列を作りました。自分の番が来てiMacと対面すると、全員が共通してとる行動があったのです。

展示されたiMacに触れて、そのボディを撫で回すのです。まず両手でiMacを抱き込むようにして、上から後ろへ、横から下へ。ポリカーボネートの筐体のふっくらした曲面が滑面でないので、手のひらに残るかすかな抵抗も心地よかったのかもしれません。来場者の老若男女、人種、国籍、言語の違いに関係なく、大人も子供も、iMacをいとおしげに撫で回す表情には穏やかな笑みが浮かんでいました。

iMacは既存データや市場調査からは生まれなかった

ここで重要なポイントは、iMacは既存データや市場調査からは生まれなかった、ということです。既存データや市場調査に頼っていたら、きっとFDDやSCSIといったレガシーに引きずられていたと思います。

アップルは、自分たちが思い描く理想のコンピュータ像を愚直に追い求めた結果、業界とユーザを動かし、新しいコンピュータ時代の扉を開けたのです。

ジョブズがDMに「NO」と言った理由

スティーブのインターネット時代に対する強いこだわりは、私も当事者として体験しました。初代iMacの販売拡大のために日本で大きなキャンペーンを打つことになり、その一環として大規模なダイレクトメール(電子メールではなく、実際の郵送)を計画したときのこと。ローンチの日に向けて忙しく最終準備に追われていたとき、スティーブから、「インターネット時代を象徴するiMacのプロモーションに、前時代的な郵便物を使うとは何ごとだ」とストップがかかったのです。

私がクパチーノに出張した際、スティーブが参加するセッションで、この議題が上がりました。スティーブが難色を示す中、私は再度「日本ではダイレクトメールがいまだに効果的で、iMacのシェアを拡大するチャンスである」と説明しましたが、スティーブは「NO」の一点ばり。「そんなことは百も承知だ」という顔で、提案は却下されたのです。

スティーブはしばしば頑固者だと言われますが、言い方を換えると、彼は自分の信じるものに対しては一切の妥協を許さずブレない人間だということです。彼の、iMacでコンピュータのあり方を変えたいという信念は終始一貫していました。イノベーションを実現するためには、従来の手法を覆くつがえすことに一切妥協してはならないと学んだミーティングとなりました。

スティーブのリーダーシップを語る際に、「現実歪曲空間(Reality Distortion Field)」という言葉がしばしば使われます。現実歪曲空間とは、卓越したプレゼンテンーション能力によって、聴衆をイマジネーションの世界に引き込み、実現不可能に思えることを実現できると納得させてしまう場面や雰囲気のことです。

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