- 2020年04月08日 10:57
米、中国の虚偽情報に反論せよ
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古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
【まとめ】
・中国政府、米軍による「ウイルス持ち込み説」を明言。
・米議会上院議員3名、虚偽情報への特別対策機関をトランプ政権に要請。
・米中間の対立は益々激化する見込みである。
アメリカ議会上院の有力議員3人が連名でトランプ政権に対して「中国政府の新型コロナウイルスに関する虚偽情報に反論する特別機関を政府部内に設置することを求める」という書簡を送った。中国側の一部の政府高官が「今回のコロナウイルスは米軍が中国に持ち込んだのだ」と言明したことへの反発だった。ウイルス感染をめぐってはアメリカ側では中国へのさまざまな非難や憤慨が広がっており、こんごもその種の米中衝突は激しくなるとみられる。
アメリカ上院の共和党のマルコ・ルビオ、ミット・ロムニー、コーリー・ガードナーの3議員は連名で3月末、「中国政府の悪意ある虚偽情報に反論し、論破するための特別機関をトランプ政権の国家安全保障会議内に新設することを求める」という趣旨の書簡をトランプ大統領あてに送った。
これら3議員はいずれも与党の共和党内で影響力の強い政治家たちで、ロムニー議員は2012年の大統領選挙では共和党の指名候補となった。

同書簡は次のような骨子だった。
・中国政府はいまのパンデミック(全世界的に大流行する伝染病)を利用して、その原因がアメリカ側にあるとする虚偽の情報を拡散しているが、その言動はアメリカの国際的な立場を弱めるだけでなく、アメリカ国内のウイルス感染の抑止対策を妨害する悪質な謀略情報の流布だ。
・中国はそんな虚偽情報の拡散により、グローバルなウイルス大感染の責任を不当にアメリカに押しつけ、自国がそのウイルスを拡散した真の責任を逃れようとしている。その結果、国際的にもアメリカの立場を低くして、中国自身の影響力を強めようと意図している。
・アメリカ政府はマイク・ポンペオ国務長官らが個別に反論してきたが、政府としての公式の体系的な抗議や非難がないため、国家安全保障会議に特別の対策機関を新設して、対応し、中国側のその種の陰謀説的な言辞に継続して反撃する政策を確立すべきだ。
書簡の要旨は以上のようだった。
その背景には中国の武漢で発生した新型コロナウイルス感染のグローバルな拡散に対してアメリカ側官民にはまず習近平政権がその感染症の発生自体を一ヵ月以上も隠したことへの強い非難の声があった。習政権が感染症の広がりを隠蔽せずに情報を開示して、早期に対策をとれば、これほどの大感染にはならなかった、という非難だった。
なおこのあたりの当時の実情を私は中国事情に精通する産経新聞前北京特派員の矢板明夫記者との最近の共著『米中激突と日本の針路』のなかで詳しく解説している。

中国の武漢でこのウイルス感染症が昨年12月ごろから爆発的に広がり、習近平政権もついに隠しきれず、今年1月20日ごろにはその拡散の事実を公式に認めて、武漢市全体の封鎖など大規模な対策を次々に取り始めた。
その当時は中国政府も非公式に新型コロナウイルスが当初、武漢市内の海鮮物市場で発生したことを認めていた。
ところが今年の2月ごろから中国側の民間で「このウイルスはアメリカが中国への細菌戦争として広めたのだ」とか、「アメリカの軍人が昨年秋に武漢に危険なウイルスを持ちこんだのだ」という陰謀説的な怪情報が流れ始めた。
武漢市では確かに2019年10月に「世界軍人陸上競技大会」というスポーツイベントが開かれ、各国の軍人が参加したなかに米軍将兵約170人がいた。しかしその「ウイルス持ち込み説」にはなんの根拠もなかった。

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