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リーマン・ショック・コンフィデンシャル 追いつめられた金融エリートたち、アンドリュー・ロス・ソーキン、加賀山卓朗 (翻訳)

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リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上)追いつめられた金融エリートたち、アンドリュー・ロス・ソーキン、加賀山卓朗 (翻訳)画像を見る
リーマン・ショック・コンフィデンシャル(下)倒れゆくウォール街の巨人、アンドリュー・ロス・ソーキン、加賀山卓朗 (翻訳)画像を見る
Too Big to Fail: The Inside Story of How Wall Street and Washington Fought to Save the FinancialSystem--and Themselves, Andrew Ross Sorkin画像を見る

もう2年も前に出て、さまざまな賞を取った話題になった本である。あまりに厚い本なので、僕は2年も本棚に入れっぱなしで読んでいなかった。書評などを読んで、読んだ気になっていた。どういうわけか、最近、僕はこの本を読んでみることにした。登場人物も多く、簡単に速読できるような本ではなく、僕は全部読むのに、週末が2回、つまり4日はフルに必要だった。そして、発売から2年間も読んでいないことをひどく後悔した。著者は金融・企業買収などが専門のニューヨーク・タイムスのトップ記者である。アメリカの一流のジャーナリストが書く本は、時にすごいクオリティなのだが、この本は間違いなく、そういった本のうちの1冊だ。日本語版は2冊に分かれてるけど。

米国第4位の規模を持つ巨大投資銀行のリーマンブラザーズは、2008年9月15日に連邦倒産法第11章の適用を連邦裁判所に申請し倒産した。負債総額約64兆円という、人類史上最大の企業倒産である。この倒産は、金融市場に津波を引き起こし、瞬く間に世界最大の保険会社AIG、そして世界最大の銀行のシティバンクを飲み込んでいく。

結局、AIGには連銀が850億ドルという、シンガポール政府と台湾政府の国家予算よりも大きい金額を緊急融資し、救済することになった。AIGは保険会社であり、連銀が融資することは許されていなかったが、大恐慌の時に作られた、異例かつ緊急の状況にかぎり連銀が銀行以外の金融機関に融資することを認める唯一の条項である「連邦準備法13条の第3項」を使った。

その後は、米財務省のポールソン長官らが金融安定化法案を議会に提出し、不良資産買い取りプログラム(TARP: Troubled Assets Relief Program)により、なんと7000億ドルもの税金で金融機関への公的資金注入、不良資産の買い取りを実施しようとしたのである。7000億ドルというのは、アメリカが、イラク、アフガニスタンの対テロ戦争で費やした総額と同程度の金額である。

リーマンの破綻前の2008年3月には、米大手証券会社のベアスターンズが破綻し、政府が損失の一部を負担する形でJPモルガンに救済買収させている。その後、ファニーメイ、フレディマックという住宅ローン債権を買い取る政府系の金融機関が、やはり同9月にまたアメリカ政府に救済された。当然だが、ポールソン長官らは、こうした税金による救済に対して、厳しい批判に晒されていた。そこで、リーマンをどこかの銀行に救済買収させて、なんとか(表面的には)税金を使わずに乗り切ろうと、様々な画策をしていた。

英バークレイズがリーマン買収に動きかけ、ポールソン長官らはなんとかなると踏んでいたが、これには株主総会の決議が必要で、最低でも30日かかる。これを免除できる権限があったのはダーリング英財務相で、実際に、そのように話が進んでいると思っていたのだが、最後の最後に「イギリスの納税者の負担するリスクが大きすぎる」と梯子を外される。これでリーマンは資金が底をつき倒産した。結局、その後はAIG、メリルリンチ、シティバンクなど、なりふり構わず、米政府は税金で救済せざるを得なくなり、結局、大きな金融機関で倒産させられたのはリーマンだけだった。

実は、この本の主題はリーマンブラザーズの破綻ではない。リーマンブラザーズの破綻が引き起こした巨大な津波から金融システムと、彼ら自身―アメリカの巨大金融機関や規制・監督当局―を守るための、銀行経営者や政府高官らの人間模様こそが、この本の主題だ。

銀行経営者と、ポールソン財務省長官、バーナンキFRB議長、ガイトナーNY連銀総裁らの、緊迫したポーカーゲームのような際どい駆け引きが、めまぐるしい速度で進行していく。会話の一つひとつが膨大な取材に基づき忠実に再現されている。

どうやってこれだけの情報を集めたのか、僕には不思議だったが、あとがきによると、著者のソーキンがニューヨーク・タイムスの記者として築いた人脈を使い取材をはじめると、大勢の関係者が非常に協力的に情報提供してくれたそうだ。彼らは取材源の秘匿を条件に、機密のメモや書類、時には会議の録音などを著者に提供した。「歴史的瞬間の記録」と残しておくことが重要だと考えたからだ。

そして奇妙なことに、著者にとっての難題は、多すぎる情報を処理することだった。例えば、ひとつの会議について5人の情報提供者がいて、それらに矛盾したことがないか、どういう風に意思決定が進行したのかなど、注意深く再構築する必要があった。分からないことは、情報提供者に何度も聞きにいった。

ポールソン長官や、巨大銀行の経営者たちが、なんとか金融システムの崩壊を食い止めた立役者のように描かれていて、リーマンブラザースを空売りで売り崩し、倒産に追い込んでいくヘッジファンドを少々悪者に書いていたりする。そこは僕は賛成しかねる部分だった。最後は、ゴールドマンのブランクファインCEOまで、金融機関の空売りを禁止する規制を政府に働きかけていて、これなどとんでもないダブルスタンダードで、どうしようもない銀行業界だとしか言いようがないのだが、むしろヘッジファンドが悪者になっている。やはり取材対象に若干の肩入れがあるのは否めない。

しかし、それでもこの本が「歴史的瞬間の記録」に、確かになっているのは間違いない。金融関係者は一度は読んでおいた方がいい本だろう。

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