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焦点:迫る日本の医療崩壊、コロナ院内感染で人材ひっ迫


宮崎亜巳 中川泉 Ju-min Park

[東京 6日 ロイター] - 「当面の間、外来診療を休診とさせていただきます」。正面玄関のガラス扉に貼られた紙を見て、診察に来た高齢の男性は呆然としていた。

東京都台東区のJR上野駅からほど近い永寿総合病院は、下町で暮らし働く人が診療に訪れる地域の中核病院だ。しかし、新型コロナウイルスの感染発生が3月23日に伝えられて以降、院内では4月3日までに140人が感染。うち40人以上が医師や看護師、事務員などの職員で、病院は外来の受け入れを休止した。

「かかりつけ医師の診察を求めている患者がいるのに、病院が閉鎖され、他の病院を紹介してもらうこともできない、これは医療崩壊だ」――日本医師会の釜萢敏・常任理事はロイターとのインタビューでそう語った。

病院の前に立ち尽くしていた高齢男性は、警備員からその場を離れるよう促され、自身の「かかりつけ医」を後にした。

<第一波の制御に失敗>

日本ではまだ、米国や欧州のような爆発的な感染の広がりは起きていない。医療崩壊を危惧する医師会や、小池百合子都知事などから声が挙がっているにも関わらず、政府は「ぎりぎりの状態」だとの認識をずっと繰り返し、都道府県知事に強い権限を与える緊急事態宣言を出してこなかった。

それでも感染者は毎日着実に増えており、最も深刻な東京都では5日現在で累計1033人、入院中は951人、うち重症者は24人に達した。都は1000床を確保したとする一方、軽症者については借り上げたホテルに移すことを決めた。

台東区によると、院内クラスター(感染集団)が発生した永寿総合病院では、4月初旬の段階で感染者と非感染者が混在する形で入院していた。ここから慶應義塾大学病院に転院した患者から、新たな感染も発生している。

厚生労働省クラスター対策班で国内の感染状況の分析に当たる西浦博・北海道大教授(理論疫学)は、中国から直接持ち込まれたウイルスによる感染拡大を「第一波」と表現。「永寿総合病院は、感染第一波をコントロールできていなかった典型的な例だ」と、1日の会見で語った。

その上で西浦教授は、今は欧米などから帰国する日本人を始め、中国以外の地域からの入国者から感染が広がる「第二波」が懸念されると指摘。「感染拡大に歯止めがかからなければ、より強力な対策を考えねばならない」と述べた。

もし日本で欧州並みの大流行が発生し、さらに「都市封鎖」(ロックダウン)に類する措置などが講じられなかった場合、どのような事態が起きるのか。政府の感染症対策専門家会議は、永寿総合病院で集団感染が発生する3週間前の3月上旬に予測を出している。

比較的感染が抑制されているドイツの状況を前提とした場合でも、流行発生から50日目には1日100人に5人以上の割合で感染、最終的には8割近い人が感染するとした。流行62日目には100人に1人が重篤化し、現有の人工呼吸器の数を超えてしまうことが想定されるとしている。

<コロナ以外の患者をどうするのか>

東京都はピーク時に備え、入院治療が必要な重篤・重症・中症者向けベッドを4000床確保するとしている。「これまでに約1000床を確保しており、医療体制は確保されている」(東京都)としているが、まだ大きな開きがある。

首都圏の感染症指定病院のある医師は「すぐに対応は難しい」と話す。「感染症である以上、空気が外部に漏れないよう(室内の気圧を下げた)陰圧室を用意したり、個室あるいはフロア全体をコロナ病棟に利用しなければ院内感染が起こる。今入院している患者の移動も必要になる」と語る。

都内の別の大規模病院は、重症患者を中心に受け入れが可能か、シミュレーションを行なっている。それでも、新型コロナ以外の患者をどうするのか、難しい選択を迫られている。病院関係者は「他の疾患の重症患者もおり、高度医療の提供が必要であるため、バランスをみて決定する」と語った。

いずれの関係者も、医療機関の対応については口止めされているとして匿名を条件にロイターに語った。

こうした中、厚生労働省は3日、軽症や無症状の感染者に宿泊施設や自宅で療養してもらうようガイドラインを示した。これを受けて東京の台場で「船の科学館」を運営する日本財団は、軽症者滞在用に4月末までに1200床分、7月末には9000人分の施設を提供すると申し出た。全国で400以上のホテルを展開するアパホテルも、客室の提供に名乗りを上げている。

しかし、これらはあくまで軽症者向け。軽症者が医療機関にあふれないようにするという面では効果があるかもしれないが、重症・中症状向けの病床問題が解消されないことに変わりない。

ある都立病院の医師は、10―20人程度の重症患者を受け入れざるを得なくなった場合、廊下などのオープンスペースで患者を診るという状態になれば、医療従事者の安全を守ることができず、院内感染は避けられないと話した。

<深刻さを増した人手不足>

医療スタッフ、さらには人工心肺装置からマスクに至るまで、医療機器の確保にも問題がある。

病院や診療所、介護施設で働く人たちが所属する日本医療労働組合連合会が3月、新型コロナの感染者増加に絡んで職場アンケートを実施したところ、「休暇を取ることが難しい」、「人員確保ができない」、「時間外勤務が増加している」などの声が多く寄せられた。

クルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」の患者を受け入れたある社会保険病院は、医師と看護師が足りず、全国の社会保険病院に応援を要請した。しかし、要請に応じた病院ももともと人手が不足しており、「医療崩壊まではいかないにしても、かなり危機的な状況だ」と、医労連の森田進書記長は話す。

「これまでも医師や看護師の不足をずっと訴えてきたが、今回感染症の対応でより深刻さを増している」と、森田氏は語る。

重篤患者の命を救う人工心肺装置「ECMO」は、機器そのもの、さらにそれを扱う人材の不足が懸念されている。

東京都の場合、ピーク時に必要となる重篤病床を700床としているのに対し、ECMOの保有数は今年2月時点で196台に過ぎない(日本呼吸療法医学会・日本臨床工学技師会)。

大手医療機器メーカーのテルモ<4543.T>が先日、ECMOの増産を発表したが、日本集中治療医学会は1日の理事長声明で、ECMOを1台使用するには複数の医療従事者が必要であり、日本では扱えるスタッフも足りないと指摘している。

さらに同医学会は、ICU(集中治療室)病床の数がイタリアの半数以下であり、無理に収容すると感染防御の破綻による院内感染、医療従事者の感染、集中治療に従事する医療スタッフの肉体的・精神的ストレスが極限に達するとみている。

<明日は我が身>

一般の病院に勤務する30代の女性看護師はここ最近、医療用マスクを繰り返し使用するようになったと打ち明ける。

医療現場では通常、マスクは外すたびに破棄する。それが原則1日1枚に制限され、食事の際はビニール製の袋で密閉して管理、食べ終わったら取り出して装着する状況だという。

「米国でゴミ袋を防護服にしていた看護師が亡くなったという報道があった」と、その女性看護師は言う。「正直、明日は我が身なのかもしれない」。

(取材協力:斎藤真理、山光瑛美、Rocky Swift、村上さくら 編集:久保信博)

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