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新型コロナ・パンデミックでみえる危機時の国民への発信 - 本多倫彬 / 政策過程研究、国際協力論

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4月1日、日本政府がマスク2枚を全国に配布することが報じられた。

「1住所当たり2枚の布マスクを配布の方針 安倍首相」(NHK web、2020年4月1日)
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200401/k10012362911000.html

私自身も唖然としたが、エイプリル・フールのネタではないかとtwitterなどではお祭り状態となった。

新型コロナ・パンデミックは、国家安全保障上の危機時の対処を考えるとき、国民の反応や行動が重要な鍵であることをみせつけている。また、危機事態における政府の国民への発信のあり方について、課題をつきつけてもいる。

皆が不安に駆られる中、現在はノイズが多すぎる。このコラムもおそらくはノイズの一種になろうと思うので、要点だけ先に列挙しておきたい。

【政府の状況についての現在の認識】

・日本政府や東京都の対策は、国民一人ひとりを信頼しないという前提で進んできた。

・(その前提にたった)政府の発信は危機対応として有効ではない。

・政府の対応は、国民向け発信と専門的対応とは別である。

【一人ひとりの対応】

・政府が何を言おうとも、我々一人ひとりがやることは変わらない。
※行動変容、つまり「三つの密(密閉、密集、密接)」を避けることに尽きる。

・政府の国民向け発信をいちいち取り上げるニュースや「専門家」のノイズを遮断する。

・ニュースなど二次情報ではなく、感染症対策専門家会議などの情報に直接あたる。
※「新型コロナウイルス感染症について」厚生労働省ウェブサイト
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html#houshin

※とくに4月3日時点では、以下の9ページをぜひ見て頂きたい。
「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(2020年4月1日)」(新型コロナウイルス感染症対策専門家会議、2020年4月1日)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf

※新型コロナクラスター対策専門家(twitter)
https://twitter.com/ClusterJapan

※新型コロナウイルス感染症に関する専門家有志の会
https://note.stopcovid19.jp/n/na6699c836faf?fbclid=IwAR0XEzQZUU55X45ncQQ5Y2zY2bujUZlz5A77d7PEMC8CGOPort8gqQV2KTs

オオカミ少年になった都知事

3月末、小池・東京都知事が「感染爆発を抑止できるギリギリの局面」としつつ、東京都のロックダウン(都市封鎖)の可能性に言及した。

ところが4月2日になって同知事はテレビ番組で、公共交通機関も店舗営業も止めることもすべて自粛要請で、ロックダウンを使った意図は、「ショックを与える」ことにあったと明かした。

不安を煽ることで、人々の行動変容を促そうとした試みだったと率直に明かしたのだ。

ロックダウン、オーバーシュート等々、耳馴染みもなければすぐに意味を理解できるものでもない用語を乱発してきたのも、危機を煽って軽めの社会的パニックを誘発することで自粛させようとする試みだったことを前提に考えれば納得がいこう。

これを、強制力ある対応を都知事として取れないなかで、苦肉の策として編み出したなどと肯定的な評価もあるかもしれない。

安易な選択と言わざるを得ない。

仮にそうであるならば、せめて、ロックダウンは事実上選択肢にないなどと認めるべきではなかった。

今後、さらに感染が拡大してきたときにも、我々はもはや小池都知事の発信を素直に信じることはできなくなった。

非常事態における指導者の発信

非常事態において政治指導者は、危機の重大さを呼びかけ、一致団結して対抗するよう国民に求める。

最も有名なものに、第二次世界大戦の初期、負け続きで英国本土へのナチス・ドイツの侵攻が現実味を帯びる中、徹底抗戦を呼びかけたウィンストン・チャーチルの演説がある。

幾分強調され過ぎているきらいはあるが、2018年に日本でも話題となった映画『ウィンストン・チャーチル』のなかで、「我々は決して降伏しない」と呼びかけるチャーチルの姿を記憶している方もいるだろう。ナチス・ドイツを打ち破り、英国を守るために、英国本土が占拠される可能性まで強調しつつ、国民に結束を呼び掛けたのだ。

それは困難を率直に訴えかけ、その困難を共有する覚悟を示し、その上で団結して取り組むよう国民に向き合う指導者の姿だ。

これに対して今回、都のやり方は、国民(都民)を脅すものだった。

民は由らしむべし、知らしむべからず

これは、「(政治指導者は)人々を従わせることはできる。しかし、なぜ従わねばならないのか、その理由を納得させることはできない」という趣旨の論語の一節だ。

いくつかの解釈は存在するものの、ここにあるのは、人格的に優れた指導者がよく検討した結果を、人々が自ら受け入れることを理想とする統治の姿だ。

理屈ではなく、〇〇(指導者)のいうことだから従おうという人々の「自主性」を喚起する指導者の姿だ。国民の利益のために、間違った決定しかできない国民に代わって意思決定をしようという指導者像であり、パターナリズム(父権主義・温情主義)と呼ばれるやり方でもある。

概念を扱う場合に常に付きまとう問題として、やや乱暴な整理にはなるものの、都にせよ、また日本政府にせよ、基本的なスタンスはこれと同じだったとみてよい。

国民を守ろうとはしている。しかし国民一人ひとりに向き合う姿勢も意図もない。自分たちの言うとおりにしてくれれば少なくとも国民に委ねるよりはましだ、という前提だ。なぜそのようになっているのかは、現政権をみる興味深いポイントとしてある。また、パターナリズムが常に誤っているわけではない。ただ、ここではこの論点は脇に置いておきたい。

そうした政府方針が端的に表れたのが冒頭のマスク配布だ。

実際に、本コラム執筆のさなかにマスク配布について、「全国民に布マスクを配れば、不安はパッと消えますから」と、ある官僚が言い出したことが始まりだったことが報じられた。

「布マスクで『不安パッと消えます』官僚案に乗って炎上」(朝日新聞、2020年4月2日)
https://www.asahi.com/articles/ASN426G43N42UTFK00V.html

真偽はともかく、マスク配布問題は日本政府の対応への不安材料になっている。

将来来るべき新たな危機への対応を考えるとき、優れた判断力と責任を持つ政府に任せておきなさいという方針で国民に向き合うことが、現代日本社会の危機時にはどのように受け取られるのか、興味深い事例となってきた。

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