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新型コロナで「テキヤは商売あがったり」 暴力団業界を支える「洋上シャブ密輸」というシノギ - 尾島 正洋

「若い衆が突然、何人もいなくなる」“分裂抗争”山口組組員が激減 暴力団業界で何が起きているのか? から続く

【画像】6代目山口組の司忍組長が目指す次の一手は?

「いま組織を支えているのはシャブ(覚醒剤)だ。シャブは重要なシノギだ」

 そう語るのは、6代目山口組系の2次団体で長年活動している古参幹部だ。

 バブル崩壊後、表経済が「失われた20年、30年」と低迷を続ける中、暴力団業界は暴力団対策法(1992年)と暴力団排除条例(2011年までに全国整備)などで規制が強化された。シノギ(資金獲得活動)が厳しくなり、前編で紹介したように離脱者が増え続けているが、それでも約2万8200人の暴力団関係者が活動を続けている。

 残された暴力団の組員たちが生き残りを賭けているのが、覚醒剤なのだ。

かつては“ご法度”だったシャブ

 全国の警察が押収する覚醒剤は急激に増えている。「シャブは重要なシノギ」との証言を裏付けるように、2010~2015年は年間300~400キロで推移していた覚醒剤の押収量は、2016年に約1500キロと急増、以後2018年まで毎年のように1000キロ以上の押収が続いている。そして、2019年の年間の押収量は2293キロと警察庁の統計で過去最多となった。


6代目山口組若頭の高山清司(中央) ©共同通信社

 これまで、暴力団業界の多くの組織では「シャブはご法度」とされていた。彼らに言わせれば「暴力団」という呼称は警察が勝手に押し付けた名称で、多くの組織は任侠団体を自認している。このため、社会を蝕んでいく覚醒剤に関与するのは「邪道なシノギ」であり、手を出さないことになっていたのだ。

 しかし、現状の覚醒剤の蔓延は、暴力団の介在なしには考えられないと、暴力団業界を長年ウォッチしているベテラン警察庁幹部は指摘する。

「海外からの覚醒剤の密輸入や国内での密売は、ほとんどは暴力団が関与しているとみられる。いまや暴力団業界の重要な収入源になっている覚醒剤を、業界に関係ない人間が大量に密輸したり、街で売買していたら、暴力団に即刻潰されるのは火を見るよりも明らかだ」

 覚醒剤は、ほぼ全量が海外から密輸されている。組織的に手荷物などに隠し入れて飛行機に乗り込み空港をすり抜ける方法のほか、近年流行のインバウンドに便乗し、国際宅配便で民泊先を届け先にする新手の密輸も発覚している。

シャブを洋上に投下、GPSで回収

 大量の覚醒剤押収の背景について、組織犯罪を担当している別の警察庁幹部は次のように語る。

「根強い覚醒剤の需要が存在しているのはもちろんだが、供給ルートとして、国際的な薬物犯罪組織が、暴力団を相手として取引を活発化させていることが考えられる」

 前出の山口組系の古参幹部は、入手ルートについて「大量に持ち込めるのは『瀬取り』だ」と明かす。

 瀬取りとは、洋上で船舶同士の荷物を積み替えることを指す。国連安全保障理事会の経済制裁によって物資に困窮している北朝鮮が、制裁の目をくらませて石油を密輸する手段としていることでも知られている。瀬取りで覚醒剤を密輸する場合は、手荷物とは違い、100キロ単位で一度に大量に持ち込めるため、効果が大きいという。

 かつても北朝鮮からの密輸が日本海で多く行われ、警察当局によって大量摘発されたケースがあった。1999年には当時としては過去最多の年間約2000キロの覚醒剤が押収されたこともあった。

 当時の取り引きと現在では、何がちがうのか。

「かつては、取引相手と洋上で合流するのが大変で、かなり不確実な取り引きだった。しかし、今は合流する必要がない。覚醒剤を梱包した荷物にGPS発信機を取り付けて、指定の海域に荷物を投下してもらう。受け取る側は発信機を追いかけて回収する。確度はかなり高いし、何より安全だ」(同前)

暴力団経由の供給過多で「値崩れ」

 国内で覚醒剤が大量に流通していることを裏付けるもう一つのデータがある。それは「末端価格」だ。

 警察庁によると、近年の末端価格は1グラムあたり6万円前後とされている。覚醒剤の一般的な1回の使用量は0・03グラムとされ、1グラムを購入すれば約30回分に相当する。

 覚醒剤の末端価格は、2009年ごろには1グラムで約9万円だったが、2010年ごろから下落し始めて、2019年には約6万4000円とされている。

 末端価格の推移について、前出のベテラン警察庁幹部は、「供給過多の状況が懸念されている。覚醒剤使用者の需要に比べて暴力団サイドからの供給量が多いため、数年間にわたり徐々に値崩れしているのが実態ではないか」との現状分析を示す。

 暴力団が海外の薬物犯罪組織などから仕入れる覚醒剤の原価は1キロあたり800万~900万円とされている。ちなみに、年末年始は空港や港、沿岸部でも警察や税関などの取り締まりが強化されるため、密輸が困難になって供給量が減少することから、1キロあたり1000万円以上に跳ね上がることもあるという。

 こうした値段で仕入れた覚醒剤1キロを2019年の末端価格で売りさばけば6400万円となる。原価率は15%ほど。利益は莫大だ。過去最多となった2019年の押収量約2300キロが街で売買されたら、末端価格1グラム6万4000円で計算すると、売り上げは約1472億円、利益は1200億円以上となる。

「うまく仕事をすれば、短期間で大きな稼ぎになる。客は街のどこにでもいる。サラリーマンや家庭の主婦、街中の若い連中などいくらでもいる」

 前出の山口組系幹部がそう明かすように、街中で覚醒剤が確実に売れる一つの理由として、使用者の再犯率が高いことが挙げられる。

 近年の覚醒剤をめぐる使用や所持などの事件での摘発人数は年間1万人前後で推移し、再犯率は6割を超えている。一度でも使用したサラリーマンや主婦など一般市民らが繰り返し暴力団から覚醒剤を手に入れることになり、安定した顧客になってしまう背景もある。

 警察庁が4月に公表したデータのうち、注視すべきなのが大麻の蔓延状況だ。2019年の大麻事件の摘発者数は前年比743人増の4321人と過去最多を記録した。その約6割が、未成年か20代の若年層だ。

 大麻は、覚醒剤など薬物乱用につながる「ゲートウェイドラッグ」とされている。暴力団はその売買にかかわるだけでない。近年増加している「栽培」容疑で摘発された164人のうち、4人に1人は暴力団関係者だったという。

新型コロナがヤクザ業界に与えた影響

 暴力団業界が活路を見出す覚醒剤に対して、警察はより一層、摘発に力を入れている。一方、暴力団業界は振り込め詐欺などの「特殊詐欺」のテクニックに磨きを掛け、IT技術を駆使した「インターネットカジノ」など新たなシノギにも手を出している。

 シノギは、いつの時代も表社会の経済状況に左右される。

 今春、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化していることから、祭りやイベントで飲食を提供する屋台で商売をしているいわゆる“テキヤ”を稼業としている暴力団は収入が途絶えている。

 関東でテキヤをしているある暴力団幹部は、「花見シーズンはあがったり。これからはゴールデンウイークの書き入れ時だが、どうなるか。さらにコロナ騒動が続いて夏祭りなどでも商売が出来なければ死活問題になる」と不安気な表情を見せる。

 暴力団にとっては正念場だ。だが、さらに暴力団を追い詰めることが出来るのかどうか、このあと数年は警察にとっても正念場である。(敬称略)

(尾島 正洋/Webオリジナル(特集班))

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