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「ノマド」ってバブル期の「脱サラ・フリーター」と何が違うの?~オバタカズユキ×常見陽平×古市憲寿・三世代鼎談前編~

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左からオバタカズユキ氏、古市憲寿氏、常見陽平氏(撮影:野原誠治)
左からオバタカズユキ氏、古市憲寿氏、常見陽平氏(撮影:野原誠治) 写真一覧
「終身雇用・年功序列的な働き方の崩壊」が叫ばれて久しい。最近では組織に所属しない自由な働き方の概念として「ノマド」という言葉も話題になっている。しかし、「会社に縛られない」という意味では、かつて「脱サラ」や「フリーター」という言葉が世間を賑わせた時代もあった。「ノマド」とは新しい概念なのか。今後は、「ノマド」的な働き方が定着していくのだろうか。

こうしたテーマについて、『資格図鑑!』『大学図鑑!』シリーズなどの著書があり「働き方」のテーマを追い続けてきたフリーライター・オバタカズユキ氏(47)、雇用・就活関連の著作を数多く手がけている作家の常見陽平氏(38)、社会学者の古市憲寿氏(27)の三名による鼎談を実施した。その鼎談の様子を前後編2回に渡ってお伝えする。前編では、「バブル期の社会人は、どのような働き方をしていたのか」「『ノマド』と『フリーター』はどう違うのか」といった話題を中心に話が進んだ。(取材・構成:永田 正行【BLOGOS編集部】)

対談場所:ソーシャルアパートメント麻布十番












「ノマド」って「脱サラ」とどう違うの?


―オバタさんは、以前から「働き方」をテーマにした記事を数多く執筆してきています。今注目されている「ノマド」というものを、どのように見ているのでしょうか?

オバタカズユキ(以下、オバタ):数ヶ月前に古市さんから「ノマドってよくわからない」という話を聞きました。その時は、「そういえば佐々木俊尚さんの本にあったなぁ」と思い出しただけで、「ポストモダンブーム系の懐かしい専門用語」といった程度の距離感でした。ノマドのアイコンになっている安藤美冬さんも知らなかったですし。

「いつの時代にも一定数いる都会の変わり者の例外的な動きが、ウェブ社会で増幅されて話題になっているのかな」というのが印象なんですね。そこに込められているのは、おそらく「脱・会社」「脱・サラリーマン」みたいなことだろうけど。

でも、1971年に「脱サラ」っていう言葉がブームになったように、そうした概念自体は少なくとも40年前からある。高度経済成長期の終わりぐらいから続いている考え方とどこが違うんだろう、というのが「ノマド」に対する基本的な認識ですね。

常見陽平(以下、常見):僕は今大学院に通っていて、修士課程1年なんですが、今までよりも時間ができて昔の日本的経営の文献を読み返したり、自分が歩んできた人生を振り返ってみても、「脱・会社」、「日本的経営たたき」って何年かに1回流行るんですよね。

「自由な生き方ブーム」も何年かに一度、形を変えて流行っている。「それがまた繰り返してきたなぁ」というのは非常に感じていますね。60~80年代に書かれた様々な文献で「日本的経営は駄目だ」ということが言われている。しかし、結局誰もが「日本的経営」の実態を知らないまま、それを論じています。

いわゆる「論者」と言われている人も完全に間違っていることが多いし、学者の中でも解釈の違いがある。例えば、よく言われる「終身雇用」「年功序列」について、100人が説明した場合、一般の人はもちろん学者でも定義が違うんですよ。

オバタ:終身雇用制の崩壊みたいなことは、ここ10年間で声高に叫ばれている。ただ崩壊っていうけど、そもそも終身雇用、あるいは終身雇用幻想が本当にあったのか。実態としては、一部の業界や会社・業種にあっただけで、全体としてはそれほどなかったと思う。

常見:もともと大企業の工場を視察したアメリカの学者が「日本的経営」や「終身雇用・年功序列」を言い出した。でも、大企業と中堅・中小企業では実態も違うし、製造業とそれ以外の業種でも違う。

オバタ:例えば、銀行だと全く違う。銀行では40代半ばぐらいから子会社出向が始まるけれど、その多くは、事実上の転籍です。となると、支店長にならなければ、もうその先の雇用については、保証されていない。

常見:80年代でも、すでに「若者は3年で3割辞める」と言われていた。大企業の場合は2割なんですけど、753っていう傾向(※編集部注:中学、高校、大学卒業後、3年以内に離職する割合が、それぞれ約7割・5割・3割となっている傾向)は当時と変わってない。大卒の層が35%ぐらいに上がっているんだけど、辞める若者の割合は、あまり変わっていない。

「会社に縛られない自由な生き方」にしても大きなところで言えば、過去にフリーターブームというものがあった。90年代半ばリクルートがアントレプランナーにちなんだ『アントレ』という雑誌を創刊して、編集記事とかもそれなりに掲載しているけれど、結局はフランチャイズ募集雑誌だった(笑)。僕は、フリーランスブームも90年代後半にリアルタイムで見ているし、2000年代前半には、インディペンデントコンストラクターブームなんてものもあったわけです。

さらに、ノマドの前にマイクロ企業といって、2~3人だとか1人で小さく起業するみたいなものがもてはやされた時期もありました。今思うと僕が『とらばーゆ』(※主に女性を対象としたリクルート発行の求人情報誌)編集部にいた2001年ぐらいは最高に「派遣煽り」で、派遣ですら自由な生き方だと言われていた。「正社員辞めて派遣になろう」みたいな編集記事がガンガン掲載されて、「煽ってるなあ」って。

古市憲寿(以下、古市):お二人とも歴史の当事者であり、観察者であって、僕が付け加えることはほとんどないんですね。ただ一応、鼎談ということで、写真にだけ映っているのは変なので、少しだけ捕捉しておきます。行政用語で「標準労働者」という言葉があります。学校を卒業してから1つの企業に勤め続けている人が「標準労働者」と呼ばれているんですけど、「標準労働者」のちょうど55~59歳ぐらいの層を見れば「終身雇用」と呼ばれる人がどれくらいいるのか推測できます。データを確認してみると、2000年代後半で大企業大卒の男性で標準労働者は4割ぐらい。高卒だともっと減るし、中小企業だともっと減る。しかも、女性はほとんどいません。

オバタ:リアリティのある数字だよね。

古市:実際には「終身雇用」なんて、所詮その程度のものにも関わらず、それでも「日本型経営」って非常に堅牢なイメージがありますよね。まるでバブル崩壊前まで、日本人はみんな終身雇用で、年功序列だったみたいな。そんな働き方をしていたのは男性の数割、しかも時間的にも数十年間のことに過ぎません。

常見:ウェブに詳しい友人に聞いたのですが、ネット上で盛り上がるネタって、原子力、北朝鮮・韓国、若年層を中心とした雇用なんですよね。雇用の話題は、Twitter上でも結構盛り上がる。「フリーターたたきネタ」、「ノマドネタ」、「就活辛いネタ」とか。でも、そういう話題ってイメージと実態が乖離していて、皆イメージで議論している印象があるんです。

古市:「脱サラ」が流行った1971年というのは、ちょうど日本の企業社会が、ある程度完成した時期だと思うんです。大企業がどんどんできて、高度成長によるインフレで自由業者になることが難しくなった時期。つまり、実際にはブルーカラーが独立してお店を持つことが困難になった時期が脱サラブームのタイミングと重なるんです。

それ以降の日本では、雇用者・雇われる身が増えて、自営業者が減り続ける。「雇われる」ということが当たり前になっていく中で、「見果てぬ夢」として会社に雇われない働き方が喧伝されてきたのだと思います。

常見:60年代、『ALWAYS 三丁目の夕日』の頃は自営業がとても多かった。

古市:社会学者の佐藤俊樹さんが「主ルート」と「副ルート」という言い方をしているんですが、かつて日本には、上昇のための「主ルート」と「副ルート」の2つがあった。「主ルート」はサラリーマンで出世する。「副ルート」はブルーカラーで独立していく。こうした2つの道があったけれども、だんだん「副ルート」は閉ざされていきました。

60年代まで自営業的な働き方の人が非常に多かったし、それ以前は自営業で働くことが当たり前だった。サラリーマンになれるのは一部のエリートだったので、それ以外の人は農業をするか、都市に出てきてもいくつかの仕事を掛け持ちして、ノマド的に働かざるを得なかった。もちろん、その当時の「ノマド」は肉体労働が中心で、全然格好いいものではありません。

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