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ロックダウンはするしないの二元論ではない。「する際の条件」こそが重要である。

東京はロックダウンすべきだ、とすでに述べた。これに対して「ロックダウンすると経済的損失が大きすぎる」という意見がある。

それは事実で、ロックダウンには多大な副作用が存在する。経済活動の巨大な縮小であり、これは経済リスクのみならず、人々の健康リスクにもなりうる。シンプルに言えば、金がなくなれば食べるものがなくなるわけで、飯を食わねば、人は生きていけない。

それでも。私は東京エリアのロックダウンを主張したい。政治家・官僚の方々にはぜひ「ロックダウンで人が飢え」たりしないよう、皆様の職能を最大限発揮していただきたい。感染対策的意思決定はプロに任せて。

繰り返すが、私はロックダウンという行政措置、政治的判断のプロではない。よって、どのようなロックダウンが現実的に可能で、かつ最適なのかは知らない。ロックダウンの原則は以前書いたように対象地域内外の人の出入りを止めることと、対象地域内で人が「家にいる」ことである。とはいえ、どの国、どの都市でも完全なるロックダウンを遂行しているわけではない。食料品店や薬局は空いていたり(例、米国)、医療者や警官は通勤していたり(ほとんどの国)、ジョギングのような他者との交流を伴わない外出は許容していたり(例、英国)、子供の散歩を許したりしている(例、イタリア)。要するに、ロックダウンと言っても「程度問題」なのである。

「東京」におけるロックダウンが東京23区なのか、東京都なのか、通勤圏内の千葉、埼玉、神奈川まで包括するものなのかは私は知らない。新幹線だけ止めるのか、医療者や警官たち特殊職務だけのコミューターを許すのか、すべての鉄道やバスをストップさせるのか、私には分からない。デリバリーや宅配便はOKなのか。私には断言できない。エボラ出血熱が流行していたシエラレオネでは町の外に出るのは禁止、夜間の外出は禁止、という比較的緩やかな「ロックダウン」をしていた。これもひとつのロックダウンの形だ。

要するに「ロックダウン」といっても、程度問題なのである。これが正しいロックダウンというロックダウンの雛形は存在しない。

しかし、「現状維持」から遥かにリープしたロックダウンはそれが、どのような形であれ必要だ。今からその根拠を述べる。

そもそもロックダウンは目的ではなく手段に過ぎない。「感染経路の遮断」という手段である。感染症の伝播には感染経路が必須である。感染経路を遮断すれば感染症の流行は止まる。これはパスツールの時代からの「真理」といってよいもので、ユニバーサルな原理である。その、感染経路の遮断方法の一亜型が「ロックダウン」なのである。現在、東京都知事が要請している「不要不急の外出の自粛」要請も感染経路遮断を目指した要請だ。要するに、現在都知事が言っていることの延長線上にロックダウンがあり、両者の違いは「程度問題」に過ぎない。

よく誤解されているので、ここでもう一度確認したいが、私は「ロックダウン派」ではない。そもそも、そのような派閥は感染症対策の議論では存在すべきではない。私は「感染症の流行が収まり、問題がなくなる」ことを一意的な目標とする一元論者(ジェネシャリスト)であり、感染対策において「マスクか、否か」「ワクチンか、反ワクチンか」「抗菌薬を出すか、出さないか」「検査をするか、しないか」といった二元論的命題はすべて「ナンセンスで議論に値しない」命題である。感染症のプロに「あなたは抗菌薬を出す派ですか、出さない派ですか」と聞いたら怪訝な顔をして「この人はなにを問いたいのだろう」と首を傾げることだろう。そのような二元論は存在しない。してはならない。それをさせるのはイデオロギーであり、サイエンスではない。

ロックダウンか、否かといった二元論もナンセンスである。あるのは「ロックダウンをすべきタイミングはどこか」という議論だけである。

では、ロックダウンすべきタイミングはどこか。それは、COVID-19のオーバーシュートが起きたとき、という回答は不正解だ。それでは遅すぎる。

ロックダウンは副作用が大きいため、平時の、感染規模が小さいときに行うのは悪手である。これは誰にでも分かる。

空の星の光は、実は何年も前に放たれた光である。同様に、本日PCRで何例COVID-19が見つかった、というのは10日とか14日前に起きた感染を観察しているに過ぎない。

もし、感染の爆発的、指数関数的増大が観察されたとき(オーバーシュート)、それは10日とかそれ以前に起きた現象の観察だ。よって、「そこから」対策を始めても、もう手遅れなのである。「今はまだ持ちこたえている」「感染の爆発的増加はまだ起きていない」という見解が意味を成さないのはそのためだ。

東京都では毎日感染者数の増加が見られている。検査数が極端に少なかった日曜などの例外を除けば、3月23日あたりからずっとそうだ。これが偶然的なクラスターの重なりと考えるのは不適切で、増加していくトレンドと捉えるのが正しい。

現状の日本の対策はクラスターを察知して、追いかけて、クラスターを封じ込めるやり方だ。いわば、起きた感染症を後ろから追いかけて捕まえようというのである。先を行く相手に追いつくのは難儀だが、やってできないことでもない。現に日本ではずっとそうやって追いかけて、追いついてきた。

が、東京ではそれが追いつけなくなっている。そして、ある日、1日で数千人という感染者が検出されるようになったらもう追いかける相手ははるか先を行き過ぎていて、とても手が届かないところに行ってしまっている。

だから、オーバーシュートが起きる直前、あるいは起き始めた萌芽の時点で抜本的な作戦変更、プランBが必要だ。ロックダウンは、感染者を追いかけるのではなく、感染者がもう発生しなくなるような環境の最適化を図る、「感染の前を走る」やり方なのだ。

長い間、感染症のアウトブレイクと取っ組み合ってきたが、事態がどんどん悪くなる中で、「現状維持」というオプションをとって自然に事態が改善に転じた感染症アウトブレイクなど経験したことがない。通常は、仮説を立て直し、データを見直し、現状を批判的に吟味し、作戦を立て直して、「昨日までとは違うこと」をする。ステイタス・クオーはありえない選択肢なのである。

「ロックダウンは大きな経済的損失を伴う。だから、反対だ」という意見があるが、ではその根拠に基づいてロックダウンを回避した場合、先に待っているのはなんだろうか。

おそらくそれは、「もっと巨大なロックダウン」である。感染が手を付けられないくらいに拡大した状態でのロックダウン。それはより広範囲の、より厳密な、より長期間のロックダウンである。「ロックダウン」の代替案は「もっと巨大なロックダウン」であり、「もっと巨大な経済損失」である。どっちがましなプランであるかは、火を見るよりも明らかだ。腹腔鏡下手術で皮膚に傷がつくのが嫌だ、と拒んでいると、待っているのはより大きな病巣になってしまい、もっと大きな皮膚切開を伴う開腹手術なのだ。

もちろん、岩田が間違っている可能性もある。ロックダウンをしたあとすぐに感染者数がミラキュラスに減少に転じ(それはロックダウン「前」に始まった現象だからロックダウンの功績ではない)、どんどん感染者がいなくなっていくというシナリオだ。そんなスーパー楽観論を信じる気はないが、現実世界では、ときとして人間の予想を超えた事象だって起きる。では、そのときはどうすればよいのか。簡単である。ロックダウンを解除すれば良い。損失は最小限に抑えられる。そのときは、みんなで間違えた岩田を嗤ってくれればいい。市民の顔に笑顔が戻り、いいことづくしである。いや、本気の本気でそっちのシナリオの方を望みたい。

私は予測の専門家ではないから、予測はしない。するのは尤度を考慮して「ありそうなシナリオ」を可能性が高い順に全部並べておくことだけだ。そして、どのようなシナリオがやってきたときも妥当性の高い最適解を希求する。これは毎日患者を見ていてやっていることだ。ゲーム理論である。臨床行為とは日々予測不可能な患者の推移を「どのシナリオであっても対応できる」判断をするゲーム理論の運用である。我々はゲーム理論にかけては相当な修練を積んだプロなのだ。

ゲーム理論を運用すれば、将来どのようなシナリオがやってきたとしても、「もっともましな解答」はロックダウンである。しかも、今すぐのロックダウンである。繰り返すが、ロックダウンの運用は様々だ。が、形骸的で実効性の低い「ロックダウンしたふり」ではだめだ。形式には興味はない。必要なのは結果を出すことだけだ。

もちろん、もっとベターな解があるのであれば、ぜひ拝聴したい。繰り返すが岩田は「ロックダウン派」ではない。ベターな解の提示によるアウフヘーベンは望むところである。が、「ロックダウンにはこんな欠点が」という「出来ない理由」をいくら羅列されても、それはなにもよいものはもたらさないのである(もっと悪いものをもたらしたとしても)。そういう意見には今は耳を傾けるべきときではないのだ。

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