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台湾のコロナ対策が爆速である根本理由「閣僚に素人がいない」

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新型コロナウイルスへの対応の速さで、台湾政府は世界的に評価を高めている。なぜそこまでスピーディなのか。台湾の政府系シンクタンクで長年顧問を勤めていた藤重太氏は、「日本は論功行賞などで素人でも大臣になってしまうが、台湾はその分野のプロでなければ大臣にはならない。この政治システムが最大の理由だ」と指摘する——。

「パソコンに触ったことのないIT担当大臣」など、台湾ではありえない――。台湾政治の中心、台北の台湾総統府。

「パソコンに触ったことのないIT担当大臣」など、台湾ではありえない――。台湾政治の中心、台北の台湾総統府。 - 撮影=藤 重太

「国民を守れる国」は何が違うのか

事態の悪化に先んじる迅速な決定、次々と打ち出される合理的できめ細やかな措置。厳格な防疫態勢、マスクの配給システムや国民への積極的な情報公開、さらに中小企業やアーティストへの支援策まで、台湾の新型コロナウイルス禍への対応は今や世界的に評価されている。

それは単に台湾の人口が少なかったり、国土が小さかったり、たまたますごい人物が政権の中枢にいたからではない。「強い政府、機能する行政、国民を守れる国」の秘密は、台湾という国家の仕組みそれ自体にあった。日本とはどこが違うのか。今回の記事では、その本質に迫りたい。

「たまたま優れた人材がいたから」ではない

今回の対コロナ対応で、台湾が迅速に決定を下し、行政が有効に行動できたのは、もちろん蔡英文(さい えいぶん)総統、陳建仁(ちん けんじん)副総統、蘇貞昌(そ ていしょう)行政院長(首相)、陳時中(ちん じちゅう)衛生福利部長(厚労大臣)、唐鳳(とう ほう)IT担当大臣など、素晴らしい人材の存在があったことは間違いない。また、2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)危機を経験した結果、必要な法整備がすでに整えられていたことも、あっぱれと言うほかない。

しかし、こうしたリーダーや法律があったから、台湾は今回の新型コロナウイルス禍に効果的に対応できたのだろうか。あるいは、中国と敵対していたから厳重な姿勢で取り組めたのだろうか。否、日本では誰も着目しない台湾の政治システムにこそ、強さの秘密があるのではないかと筆者は考える。

台湾では国民の直接選挙で選ばれる総統が行政院長(首相に相当)を決め、その行政院長が中心となって閣僚を任命する。最大の特徴は、「大臣」に相当する人々が誰ひとり「国会議員」ではないという事実だ。行政院長や部長・政務委員(大臣)は、立法委員(国会議員)ではないのだ。

「立法府の人間が行政府を兼任? それで監督できるのか」

日本では、組閣の際にはどの国会議員が入閣するのかが話題になる。大臣の過半数を国会議員から選ぶことが、憲法で定められているからだ。民間人から登用されることは、特殊なケースと言っていい。任命の決め手は政権与党の派閥力学や論功行賞。そんな慣習を、日本人の誰もが当たり前と思い、慣れっこになっている。

しかし、この事実を台湾の政治に詳しい友人に聞いてみたところ、「立法府の人間が行政府を兼任して、どうして正しい監督監査ができるのか」と逆に質問されてしまった。日本の議院内閣制と、台湾の半大統領制(総統内閣制)をそのまま比較することには無理がある。しかし、日本で当たり前だと思っていたことが、根底から覆されるひと言だった。「井の中の蛙、大海を知らず」「夏の虫、氷を笑う」とはまさにこのことだ。

日本の内閣府に相当する台湾行政院。現在の大臣相当ポスト21人のうち、立法委員(国会議員)経験者は3人しかいない。

日本の内閣府に相当する台湾行政院。現在の大臣相当ポスト21人のうち、立法委員(国会議員)経験者は3人しかいない。 - 撮影=片倉佳史

行政府(内閣)は、言うまでもなく国家の行政運営をつかさどるところ。行政府の中に省庁があり、地方行政との連携も含まれる。今回の新型コロナウイルス禍のような危機の際には、国民の安全と権利を守り、場合によっては国民に果たすべき義務の遂行を求めるといった、あらゆる「行政活動」の主体となる。

一方の立法府(国会)は、国家管理に必要な法律の制定と、行政院がつくる予算の審議、そして行政活動の監督と会計監査をするところだ。予算が立法院で通過すれば、行政機関は予算を計画通り遂行する。もし結果が悪ければ、立法院(国会)で厳しく質問監査され、行政責任が追及される。教科書にも乗っている、当たり前のことだ。

建前上は、日本もそうである。しかし、今回のコロナ“有事”に対する日本の対応をみると、その当たり前が出来ていただろうか。最も重要な書道の水際対策などでは、少なくとも台湾と大きな差があったことに異論はなかろう。台湾にある国家システムは、行政府が有事においても、そうした当たり前の事を当たり前に行える仕組みが完成されていたのだ。

台湾の「防疫ヒーロー」たちはどこから来たのか

では、今回活躍した台湾の優秀な閣僚たちは、どこから来たのだろうか。

対コロナ対応で獅子奮迅の活躍をした台湾の高官の筆頭が、衛生福利部部長(厚労大臣に相当)であり中央伝染病指揮センターの指揮官でもある、陳時中氏(67)だ。彼は立法委員ではなく、本来の職業は歯科医師である。41歳の時に歯科医師会全国連合会の理事長になり、台湾の歯科治療の保険制度推進などに尽力。その後、行政院衛生署副署長、総統府国策顧問などを経て、2017年2月に64歳で衛生福利部(厚生労働省)の部長(大臣)に就任している。民間での活動で能力が認められ、行政府に引き上げられた人材だと言っていい。

台湾を「マスク生産大国」にした男

一方、マスクの輸出禁止や増産体制などを整え、マスク不足問題の解決に活躍したのが、沈栄津(ちん えいしん)経済部部長(経産大臣に相当)だ。彼は台湾国内におけるマスクの増産体制を作り上げるため、全国の工作機械組合、精密機械センター、マスク生産業者、紡績所、その他研究団体など30以上の企業と国家組織をまとめて、構築に3カ月から半年かかるといわれた60本のマスク製造ラインを、わずか1カ月で完成させた。

現在、台湾は1日1300万枚の生産量を持つ、世界第2位のマスク生産大国になっている。 先日、蔡英文総統はそのマスクを米国に200万枚、イタリア・スペインなどヨーロッパに700万枚、国交のある国々に100万枚送ると発表している。

この沈経済部部長も、立法委員ではない。電気工学やオートメーション化技術を学び、経済部に入省した官僚出身者だ。経済・産業行政を担当する官僚として地道にキャリアを積み上げ、科長、組長、局長、次長などを経て、大臣にあたる部長にまで登り詰めた。経済官僚として培ってきた人脈と経験が、今回のプロジェクトの成功に大いに役にたったことは間違いない。

ワールドクラスの逸材がごろごろ

全国のマスクの在庫一覧システムを作るための情報を民間IT企業に公開し、政府の情報を国民に効率よく伝えるために活躍したのが、唐鳳政務委員(無任所大臣、IT担当大臣)だ。8歳からコンピュータープログラミングに興味を持ち、ずば抜けて知能が高く、逆に既存の学校教育になじめずに14歳で中学校を中退。高校にも大学にも進学しなかったが、独学でプログラミングを学び、16歳で液晶ディスプレイやプロジェクターの世界的大手、台湾明基公司(BenQ)の顧問になるなど、IT関連企業の要職を経験。33歳のときに一度アーリーリタイアを宣言している。

その後、行政院国家発展委員会のバーチャルワールド発展法規調整計画の顧問に就任し、デジタル社会での国家の役割や可能性などについてアドバイス。その1年数カ月後の35歳の時に、行政院政務委員(内閣無任所大臣)に任命された。台湾のIT・デジタル社会構築政策を担うにふさわしい、余人をもって代えがたい才能の持ち主だと、国家(任命したのは行政院長)が判断したからだ。

さらに副総統の陳建仁氏も、公衆衛生学の分野では世界トップの米ジョンズ・ホプキンズ大学公衆衛生大学院で博士号を取得した人物であり、2002~2003年のSARS危機の際には、行政院衛生署長として大活躍した。この陳副総統も、前述の唐鳳氏も、立法委員ではない。

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