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ヨーロッパ・中国関係の変容?――COVID-19がもたらす影響 - 東野篤子 / ヨーロッパ国際政治

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はじめに

ヨーロッパと中国との関係は、紆余曲折を経ながらも徐々に進展してきた。EUは中国の人権状況などを問題視しつつ、中国との経済的相互依存を深めてきた。現在中国とEUは、相互に欠くべからざる経済パートナーの地位を獲得したと言っても過言ではない。

中国は「一帯一路」や、中国と一部のヨーロッパ諸国(多くは中・東欧諸国で、EU加盟国とEU非加盟国の双方を含む)との経済協力枠組みである「17+1」を通じて【1】、ヨーロッパへの浸透を図りつつあった。しかしEUは、こうした中国との経済協力枠組みがEUの規則やルールに合致していないとして懸念を募らせ、様々な対中措置を策定してきた。 こうした状況において、EUおよびEU加盟諸国の対中スタンスはしばしば混乱し、一貫性を欠くものともなってきた。5G(第5世代移動通信システム)導入に際しても、中国企業のファーウェイの製品を採用するか否かに関して、EU加盟国間での温度差が目立っていただけでなく、ファーウェイ製品の排除を強く要求する米国のトランプ政権との間でも、齟齬が目立ったことは記憶に新しい。

【1】2012年に中国と16カ国のEU加盟・非加盟諸国との間で開始された経済協力枠組み。長らく「16+1」と称されてきたが、2019年4月にギリシャの参加が決まったことにより、「17+1」と改称された。本稿では以下、時期的に「16+1」とすべき場合においても、現在の呼称である「17+1」を用いることとする。

こうした状況のなか、2020年に入り、ヨーロッパはCOVID-19(新型コロナウィルス)によるパンデミックの直撃を受けることとなる。これは、ヨーロッパと中国との関係を従来以上に複雑化することになった。本論では、まず前半部分で、主に2000年代以降のEUと中国との関係の経緯をごく簡潔に振り返る。そのなかで、EUを中心としたヨーロッパ諸国が、中国への経済的な依存を深めつつ、同時に中国への警戒を深めてきた経緯について論じる。後半部分では、COVID-19の感染拡大がヨーロッパにおいて医療崩壊などの危機をもたらしただけでなく、EUの自己イメージを大きく損なうことになったこと、そしてあたかもこの状況に乗じるように、中国の「マスク外交」がヨーロッパで顕在化しつつあることを指摘する。最後に、こうしたヨーロッパにおけるパンデミックとの闘いが、ヨーロッパと中国との関係をどのように質的に変えつつあるのかについて考察する。

EU・中国関係の展開――依存と懸念

EUと中国は、2003年に「包括的戦略的パートナーシップ」を結び、政治・経済関係の拡充に努めてきた。しかし、その後のEUにおいては、「重要な経済パートナー」であるという楽観的な対中認識と、EUの価値や規範、ルールを踏みにじる脅威であるとする認識の2つが共存していくことになる。

とりわけ2008年のリーマンショックや2010年のユーロ危機の時期において、こうした危機の直撃を受けた南欧諸国や中・東欧諸国は、経済的な対中依存を一気に強めることになった。中国は、ギリシャやスペイン、ポルトガルなど、財政問題を抱えるユーロ圏諸国から国債の買い増しを実施することを通じ、これらの国々の経済立て直しを支援した。また英国やドイツなどのEU域内の大国も、2010年代半ばまでは中国との二国間関係の強化に余念がなかった。

2016年以降、ヨーロッパと中国との関係はさらに複雑化の一途をたどる。すなわち、EUや一部の加盟国が中国に対する懸念を募らせる一方、南欧や中・東欧諸国は中国に対する依存をますます強めていくという、いわば分裂状態が進展したのである。

EUの対中懸念は、ノーベル平和賞受賞者の劉暁波の中国当局による監禁(後に死去)や、チベットやウィグルにおける人権状況の悪化、南シナ海における人工島の建設、中国を拠点とするとみられるサイバー攻撃など、複合的な要因によって深まっていった。これに加えて、2016年に国際的な耳目を集めた中国によるヨーロッパのインフラや企業の大型買収も、EUの対中懸念に拍車をかけることになった。同年4月に、中国遠洋海運集団有限会社(COSCO)がギリシャの最大の港であるピレウス港の株式の67%を取得したことや、同8月に中国の家電大手の美的集団がドイツの産業用ロボット大手メーカーのクーカ(KUKA)を買収したことなどが、その一例として挙げられるだろう。

さらにこの時期においては、中国と中・東欧諸国の経済協力枠組みである「17+1」と、その枠組みで実施される中国によるインフラ投資等が、従来のEUの規則やルール、規範を軽視するものとして、ブリュッセルから問題視されるようになる。とりわけ欧州委員会は、中・東欧諸国が「17+1」の枠組みを通じて中国からの投資を受け入れる際に、本来最優先されるべきEU単一市場における調達や投資の規則が軽視される傾向が生じてきたことや、中・東欧諸国が「身の丈」に合わない巨大投資を受けることにより、返還不能となる「債務の罠」に陥る危険性が出てきたことに対し、警戒感をあらわにするようになった。

こうして、「17+1」を通じてヨーロッパへの浸透を図る中国を「トロイの木馬」と見なすEU諸機構およびドイツなどの加盟国と、中国との経済関係構築こそが自国の経済の救済策であるとする中・東欧諸国との間で、無視できないレベルの齟齬が生じるようになってきた。これと呼応するように、EUの共通外交政策において、中国関連の案件に関する共同行動が非常にとりにくい事態も散見されるようになった。南シナ海における中国の活動に関する2016年7月の国際裁定や、中国の人権状況に対する2017年6月の国連報告書等に対し、EUが共同声明を出すことができなかったのは、まさにそうした背景によるものである。

最近のEUによる主要な対中(関連)戦略文書としては、2016年6月の「EUの新たな対中新戦略の要素」【2】や、2018年9月の「ヨーロッパ・アジアのコネクティビティ(連結性)戦略」【3】、2019年3月の「EU・中国 戦略概観」【4】などが挙げられる。いずれも、中国に対する名指し批判は避けながらも、中国がヨーロッパで展開する投資のあり方が、透明性に欠け、ルールを遵守しておらず、持続可能なものではないことを間接的に非難する内容となっている。しかし、こうした戦略文書に基づいて、EU諸国が中国に対して統一的なスタンスをとる見通しは明るくはなかった。とりわけ、対中依存を深めるギリシャやイタリア、中・東欧諸国などと、中国への期待と懸念の間で模索するドイツやフランスなどの諸国との間には、埋めがたい差異が生じていたのである。

【2】http://eeas.europa.eu/archives/docs/china/docs/joint_communication_to_the_european_parliament_and_the_council_-_elements_for_a_new_eu_strategy_on_china.pdf

【3】https://eeas.europa.eu/sites/eeas/files/joint_communication_-_connecting_europe_and_asia_-_building_blocks_for_an_eu_strategy_2018-09-19.pdf

【4】https://ec.europa.eu/commission/sites/beta-political/files/communication-eu-china-a-strategic-outlook.pdf

さらにEUは2019年9月、日本との間で「持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ」【5】と題する文書を取り交わしている。これも、インド太平洋や西バルカン、アフリカ諸国などに対する中国の現在の投資手法に対し、日本とEUが連携してアンチテーゼを提示したものとして、国際社会からは受け止められていた。しかし、すでに世界全土に広がっている中国の投資を越える構想を、EUと日本が連携してヨーロッパ近隣地域に提示できるか否かは未知数であり、同パートナーシップに対する国際的な関心は現在のところ残念ながら高くはない。COVID-19の爆発的感染は、まさにこうしてEUが、中国に対するアプローチをすでに数年にわたって試行錯誤していた最中に生じたものと言える。

【5】https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000521612.pdf

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