新型コロナウイルスの感染拡大の防止を理由に多くの国家が市民のスマホや医療のデータを吸い上げようとしていて、今は公衆衛生のために仕方ないにしても国家とはいったん手に入れた監視の権限を手放したくないものでパンデミックが収まっても監視を続けかねないという内容の報道が相次いでいます。
公衆の安全か、プライバシーの保護か。アメリカではグーグルやフェイスブックなどが難しい立場に置かれているそうです。
New York Timesは、As Coronavirus Surveillance Escalates, Personal Privacy Plummets(コロナウイルス感染拡大による監視強化によって、個人データ保護が急低下)の中で、いま感染拡大を防止するためのデジタル追跡の権限を得た各国政府は、パンデミックが収まってもその権限を手放さず監視社会になりかねないと伝えています。韓国では監視カメラ、スマホの位置情報、クレジットカードの購入履歴を使ってコロナウイルス感染の追跡をしていて、イタリアではスマホから発せられるデータを分析して都市封鎖やソーシャルディスタンスなどのルールが守られているかを監視しているほか、イスラエルでは本来テロ対策に使う予定だったスマホの位置情報を使ってウイルスに感染した可能性のある市民をピンポイントで特定する試みを始めるということです。
各国政府が感染拡大を防止するためにデジタル監視技術を使って自国民の監視しようとしていて、公衆の安全と個人のプライバシーの保護という難しいバランスを問いかけているということです。
いったん監視の権限を得た政府は国益の名のもとにそれを手放すことはなく、国際協調のないままデジタル監視が進んでいると警告しています。
アメリカでは、ホワイトハウスがグーグルやフェイスブックに対してスマホを使ったデータを使ってウイルスを追跡することを提案した一方で、一部の下院議員がアメリカ国民の健康情報などを保護するよう政府に求めたということです。
メキシコではウーバーのライドシェアの利用者のひとりが感染したと保健当局がウーバーに連絡したところ、会社はこの男性を乗せた2人のドライバーのアプリを停止しただけなく、この2人のドライバーが運転する車を利用した200人についても一方的にアプリを停止したということです。
FTは、中央ヨーロッパのスロバキアの政府が通信会社から個人のスマホの位置情報を活用することを認める法律を可決し、外出自粛などを守っているかどうかの監視に使うと報じています。
シンガポール、韓国、台湾などで行われたデジタル追跡を参考したそうですが、プライバシーの侵害を心配する国民から不満が出たことで、感染拡大のために一部のデータを使うに過ぎないとあわてて釈明したということです。
一方、同じヨーロッパでも冷戦時代に東ドイツで監視を経験したことを踏まえてドイツではとりわけパンデミック下であっても慎重だそうです。
The EconomistはThe state in the time ofcovid-19(パンデミック下の国家のあり方)の中で、今後、政府が新型コロナウイルスの感染拡大の阻止を理由に自国民から医療データとスマホのデータを吸い上げるだろうと伝えています。
ほとんど議論されることなく政府の権限が急速に強くなっている理由として、新型コロナウイルスが森林火災のように一気に広がっているからだと指摘。一時的には必要な措置だとしながらも終了期間を明確にするサンセット条項を法律に盛り込むなど、市民が声を挙げなければならないと締めくくっています。