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教師は学校を守るもの

いじめ火傷痕多数、学校はその子に自主退学要求(読売新聞)

 仙台市の私立高校2年の男子生徒(16)が、同級生からたばこの火を腕に押しつけられるなどのいじめを受けたとして6日、仙台東署に被害届を出した。

 同署は傷害事件として捜査を始めた。生徒側によると、傷痕が他の生徒に動揺を与えるとして、学校側から自主退学を求められたという。

 男子生徒の母親らによると、生徒は昨年11月頃から、同級生4人にいじめを受け始め、殴る蹴るの暴力を受けたほか、今年5月下旬には、4人のうちの1人から計22回にわたり「根性焼き」と呼ばれるたばこの火を押しつける行為を受けたという。生徒の左腕には今も傷痕が残っている。

 生徒と母親は6月に学校に相談したが、いじめは止まらず、担任の前で暴力を受けても、何も対処しなかったとしている。今月3日に学校側と話し合い、同級生らはいじめの一部を認め、生徒に謝罪。その後、生徒部長を務める教諭から口頭で「傷痕が尋常ではなく、ほかの生徒に動揺を与える」などとして退学を求められたという。


 まぁ学校ってのは校則違反にうるさい先生がいても、法律に触れる行為にうるさい先生は少ない印象がありますね。暴行、傷害、器物破損、恐喝に窃盗は学校生活の一部みたいなものだと思います。でも、そうした学校の外では犯罪に相当する行為が表に出てくることは滅多にありません。たぶん、大学なんかよりも小中学校、高校の方が格段に自治の精神が強いのでしょう。時には警察の介入を待つより、自分たち(学校内)で対処しようと取り組むのも好結果を生むかも知れませんけれど、学校の場合はそれが行き過ぎているのではないかという気がします。

 なお、いじめ問題が盛んに取り上げられるようになった発端とも言える大津市の件に関しては、これを公立の学校の問題だとして、私立ではそこまで大きな問題にはならない、私立では教職員の権限も強くて生徒の行動に介入できる(退学させる等々)から深刻化するまでに対処できるみたいな世迷いごとを述べていた人もいたものです。しかし、今回の警察沙汰にまで発展した事件は私立の高校で起こっています。まぁ、日本で最も人気のある新人研修機関の一つであり、いわば社会人の学校とでも呼ぶべき自衛隊でも暴行死やいじめとの関連が濃密に疑われる自殺は起こっており、かつ調査資料を隠蔽するなどもあったわけです。公立だから云々、思春期特有の云々という類の議論は、いじめ問題を語る上では色々と的外れに思えますね。

 「いじめられている君へ」とか銘打った愚にも付かない連載記事があったりもしますけれど、ある意味で「いじめられている君」を最も勇気づけたのは、大津市の自殺した少年の方じゃないかという気がします。自殺して世間に大きな印象を与えた人がいた今だけが、世間がいじめ問題に関心を寄せている希な時間ですから。いじめとは、ずっと昔から変わらず受け継がれてきた謂わば伝統のようなものです。普段は、当たり前のように見過ごされてきたものであり、被害を訴えたとしても黙殺されるものだったのではないでしょうか。それが今、おそらくは決して長い期間にはならないにせよ、気まぐれな世間は被害者の訴えに耳を傾けようとしているわけです。今回の仙台の高校生もどうでしょう、いじめの問題に世間の関心がある今だからこそ、警察に被害届を出すという強い手段を選べたように思います。警察もまぁ、大津市で「手遅れ」にしてしまった記憶が共有されている内は訴えを無碍にもできないでしょうし。

 大津市の件では被害者に暴行を加えている場面が目撃されても、教員は「やり過ぎるなよ」などと声をかけるだけで特に制止はしていなかったそうです。その他、後追い的に続々と報道された「いじめ」に関しても似たような事例は何度となく伝えられています。今回の件もまた例外ではなく、「担任の前で暴力を受けても、何も対処しなかった」と訴えられているわけです。挙げ句の果てには「傷痕が尋常ではなく、ほかの生徒に動揺を与える」との理由でいじめ被害を被った生徒は自主退学を迫られたとか。これに憤る人も多いようですが、ただ我々の社会通念上、教員側の対応が常識外れなものであるとは言いがたいようにも思います。それは日本の社会人としては当たり前の考えに沿ったものではないかと。

 我々の社会では、個人よりも組織が優先されがちです。国家が国民を守ると言うより、国民が国を守るべきだという考えも相当に強いのではないでしょうか。極右層の夢想する国防論や徴兵論議は極論として退けるとしても「普通」の人だって結構な組織優先思考です。国や自治体の財政危機が叫ばれる中で、国民あるいは自治体住民の生活はとかく蔑ろにされがちでもあります。国や自治体が破綻してしまっては住民の生活も何もないと、財政優先の福祉切り捨て(公的負担から自己負担への単なる付け替え!)論が「未来にツケを残すな!」などと称して何の疑問もなく持ち上げられているのが我々の社会です。そうでなくとも、財政が悪化すれば公務員の労働条件は再現もなければ合意もなく自由に不利益変更して良いもの、そうすべきものと大半の人は信じている、組織を守るために「個」が犠牲になるのが当然視されていると言えます。

 この辺は民間企業においても同様で、ちょっと経営状況が傾けば人員整理や賃下げなども当たり前のこととして受け入れるのが筋だと、我々の社会では幅広く信じられています。あるいは(多くは国内の)競合他社との不毛なコスト削減競争に生き延びるため云々でも然りですね。会社なくして社員なし、会社が潰れてしまっては元も子もないのだからと、従業員の生活なんて無視した労働条件の引き下げや生活保護水準以下での雇用が横行しているのが我々の社会なのです。他にも、罪に問われたアスペルガー症候群とされる被告に「許される限り刑務所に収容することが社会秩序の維持にも役立つ」と称して、求刑を大きく上回る懲役の判決が下されるなんてこともあったばかりです。そこに属する人々、その組織を構成する人々を個別に守るのではなく、組織そのもの、組織全体を守ろうとすることをこそ是とするのが我々の社会通念であり、その過程では罪なき人々が切り捨てられるのも正当化されてきました。いじめ問題において垣間見られる教職員の振る舞いもまた例外ではないように思います。

 つまり、学校の先生が守ろうとするのは生徒ではなく、学校であり、学校の秩序なのではないでしょうか。いじめがあっても、いじめられる側の生徒が泣き寝入りしてくれる限り、学校側は痛くも痒くもありません。それは学校側にとって「正常」な状態です。ただし暴行によって死に至らしめたり、隠し通せないような重傷を負わせたり、あるいは被害生徒側が警察に訴えるなどの強い手段に出るとなるや、学校側も危機意識を募らせてくるわけです。むしろ、いじめという継続的に存在するものを抑え込もうとすることで既存の学校秩序を揺るがすよりも、被害者側の泣き寝入りによって「平穏無事」な状態が保たれることが望まれている、だからいじめの現場を見ても「やり過ぎるなよ」と一声で終わってしまうと言えます。「傷痕が尋常ではなく、ほかの生徒に動揺を与える」との理由で自主退学を迫った教員もまた、学校の秩序を守ろうとしただけなのでしょう。他人の目にも容易に分かってしまうような傷跡は「ほかの生徒」だけではなく学校組織を動揺させるものです。だから学校を守るために学校の秩序を脅かす存在(=いじめの問題を表沙汰にすることで事を荒立てる人)を排除する、それは組織ありきで個人を犠牲にすることを当然と考えがちな我々の社会において、決して特異な決断ではないはずです。

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