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特集
日本の見えない移民たち
日本が新たな在留資格「特定技能」を創設し、外国人労働者の受入拡大を開始してから今年4月で1年。在留外国人数は5年連続で過去最多を更新し、2019年末現在で293万3137人となりました。ともに暮らしているけれど、もしかしたら見過ごしてしまっているかもしれない。そんな日本の「見えない」移民たちの現在を追いました。

借金を背負う技能実習生の闇 入管法改正から1年、外国人労働のいま(後編)

  • 2020年04月01日 11:13
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2019年、出入国管理及び難民認定法(入管法)が改正され、就労目的の新たな在留資格「特定技能」が創設された。前編では「法律や制度は非常に厳密」であるにもかかわらず、ブラック労働を防ぎきれない現実を外国人労働問題に詳しい杉田昌平弁護士に聞いた。

後編は、その構造の背景にある外国人材の「借金問題」に焦点を当てる。なぜ外国人技能実習生たちは日本にくるために借金を負うのか、日本はその問題にどう向き合うべきなのだろうか。

【前編】「外から見えぬところでブラック労働がまかり通っている」 入管法改正から1年、外国人労働のいま


目次
・技能実習生の給料は月13〜14万円 コストは日本人より高い?

・実習生たちが借金を背負ってまで日本で働くワケ

・来日前に借金100万円 技能実習制度の闇

・子どもに借金させてでも早く仕送りがほしい親

・大切なのは日本側が健全なルートを選ぶこと

・日本国内で環境改善の兆し 違法企業の取り締まり件数が増加

・「日本人と触れ合う場所がない」「英語で話しかけないでほしい」

・見えない移民に支えられる日本 これからの課題は


技能実習生の給料は月13〜14万円 企業が払うコストは日本人より高い?

杉田弁護士が「技能実習制度の闇」と表現した借金問題を取り上げる前に、日本の外国人労働者の給与事情を見てみよう。

「外国人材=賃金が安い」と誤解を受けることもあるというが、技能実習法や特定技能基準省令では、外国人労働者に対し同じ立場の日本人と同等以上の賃金を支払うことが定められている。

公益財団法人国際研修協力機構編『2018年度版外国人技能実習・研修事業実施状況報告 JITCO白書』、杉田昌平著『法務・労務のプロのための外国人雇用実務ポイント』をもとに作成

企業が技能実習生に支払う賃金の平均額は月13〜14万円。これは「日本人の同じ学歴(高卒など)の人と比べると同等の金額になる」という。

しかし、技能実習生を雇う場合、企業は給料を払った上に、実習生ひとりにつき月5万円ほどを監理団体に契約料として支払う。その時点で確実に日本人よりも高くなる。特定技能も同様に、賃金に加えて登録支援機関に3〜5万円を支払い、招聘する時の航空券代や健康診断費用などがそこに加わる。

ベトナム−日本のケース/杉田弁護士の提供資料をもとに作成

「単純な賃金ベースで見たら絶対に高い」外国人材だが、採用の広告費などほかのコストを含めて考えると事情が変わってくるという。

例えば半年間、採用のための広告費を使って日本人ひとりを採用しても、すぐに辞めてしまうかもしれない。しかし、技能実習生の場合、基本的に3年間は就労してくれる。3年分の広告費や紹介手数料などといった採用コストまで含めて考えると、企業側の支出は日本人を雇う場合よりも低くなるのだ。

人手不足に喘ぐ企業が長期的な視点で雇用を検討した際、外国人材を雇うメリットが生まれる。現在では、受け入れ側の認識も変わりつつあるという。

杉田弁護士は「外国人材に来てもらう場合、企業側に『育てる』という気持ちがなければ厳しい。最初から日本語が完璧な人、技術が高い人は絶対に来てくれないのだから」と話す。

【関連記事】「私のパスポートを返して」 フィリピン人女性が横浜市の雇用先を提訴

実習生たちが借金を背負ってまで日本で働くワケ

Getty Images

では、技能実習生たちが借金を背負ってまで日本で働こうとする理由はなにか。2015〜17年の2年間、ベトナムの国立大学で講師をしていた際に耳にした現地の声を杉田弁護士が語ってくれた。

技能実習生を希望する人は高校卒業したての18歳くらいの人が多い。杉田弁護士は「若いベトナム人青年たちが自分自身の意思で進路を決めることはほとんどない」と話す。彼・彼女らの進むべき道には親の意思が色濃く反映されているという。

外国人材の問題に携わり始めた当初、杉田弁護士は「正しい技能実習制度を現地の候補者に伝えれば健全化する」と考えていた。しかし、現地を視察してすぐに、自分の認識が甘かったことに気が付いた。

ベトナム人実習生に、日本で働くことを決めた理由を尋ねると、多くが「家族のために」と口にする。だが、それは実習生の自発的な行動ではない。「親の意思に沿ってのことです」

ベトナムの場合、実習生は100万円ほどの借金を抱えて来日するケースが多い。3年間、手取りで月11万円を受け取ると、月当たりの借金返済額が3万円弱。残り8万円のうち、約半分の4万円ほどを母国の親に仕送りしているパターンが多い。その場合、実習生本人は月4万円で、日本での生活を送らないといけない。

「この制度のもとで得するのは基本的に親なんですよ」と杉田弁護士。「親は4万円×36ヶ月、確実にもらえるので万々歳。でも、実習生には、ほぼお金が残らないんですよね」

来日前に借金100万円 技能実習制度の闇

なぜ実習生は借金を背負うのか。

国際協力機構(JICA)によると、送り出し機関は大きく【人材プール型】と【テーラーメイド型】に分けられる。

人材プール型は1年分の食費や国が定めた手数料などはかかるものの、基本的に無料で教育を行う機関や送り出し国が定める規定の上限以内で費用を徴する場合が大半で、実習生の経済的負担は少ない。

一方、テーラーメイド型は契約時又は内定した際、手数料80万円などが求められる。さらに、送り出し機関は各国の都心部にあることが多いが、実習希望者は地方にいることが多い。そのため、機関を紹介する仲介者を頼むことになる。例えば2人の仲介者を挟んだとすると、紹介料10万円×2を支払わなければならない。そうやって日本に来る前に、計100万円ほどの借金を背負うことになるのだ。

子どもに借金させてでも早く仕送りがほしい親

以上の背景を知った杉田弁護士は、なぜ経済的負担がなく充実した教育を受けることができる人材プール型ではなく、高額な借金を背負わないといけないテーラーメイド型を選択する人が多いのか疑問に思っていたという。

しかし、ベトナム現地で話を聞いて浮かび上がってきたのが、「早く仕送りの月4万円がほしい」という親たちのニーズだった。「親の優先度は子どものためになるかどうかではありません。借金を抱えても、それを返すのは子ども。それよりもすぐに仕送りがほしい。だから、テーラーメイド型を選ぶ人が多くなるのです」

そのニーズに応える送り出し機関があって、借金返済できるような日本の給与水準があるという構造がずっと続いてきた。

大切なのは日本側が健全なルートを選ぶこと

こういった現状を変えるには、どうしたらいいのか。

杉田弁護士は「需要サイドにある日本企業側が、『100万円の借金をしてくる人を受け入れていいのか?』という疑問を持たないといけません」と訴える。

技能実習生をめぐって、変えるべき部分は多くある。しかし、「制度や日本企業のブラック体質を批判しているだけだと、本質的な闇に触れないままになってしまう」

「技能実習法に定められている通りにやったら、100万円の借金なんてしないはずなんです。しているのならば、受け入れている過程のどこかに違法があるということ。日本企業は実習生が借金をしている実態にうすうす気が付いているはずなのに、疑問を抱いてはいません」

日本企業が健全な外国人材受け入れを確立するために必要なのは、「まっとうなルートで来日する人だけを採用する」という姿勢を明確に示すことだ。一方、急な切り捨てを行うと、「いま借金を背負ってまで日本に来ようと頑張っている候補者が被害にあう」と杉田弁護士は指摘する。大切なのは長期的な展望でルートの健全化を図ることだ。

日本国内で環境改善の兆し 違法企業の取り締まり件数が増加

ここまで、外国(送り出し国)ー日本(受け入れ国)間の問題を見てきたが、日本国内で外国人材をめぐる環境を改善しようとする動きが最近、活発化しているという。

法務省と厚生労働省が所管する監督機関「外国人技能実習機構」の行政処分のペースが増加している。

同機構は実習生の保護を目的として2017年1月に設立された。技能実習法にもとづく行政処分を見てみると

設立当初は年に数回だった行政処分のペースが、19年9月以降は月1〜2回のペースに増加している。杉田弁護士は「非常に良い傾向です」と処分数の増加を支持した上で、処分の中身に注目する。

「当初は過労による自殺者や、勤務中のケガ人などが出たケースが処分の対象でした。事故などが起きて、罰金処分を課すという形です。しかし、19年9月以降、外国人技能実習機構は長時間労働や賃金不払いなど、実際の実習の内容に踏み込み始めました。働き方自体が処分の対象となったのです」

「これまでは『赤信号もみんなで渡れば怖くない』という感じで、ルールを甘く見ていた企業が多くありました。監視の目が厳しくなることで、違反してはいけないということに気が付き始めるのではないでしょうか。健全化の第一歩だと思います」

一方、特定技能には「外国人技能実習機構」にあたる機関はない。

特定技能の外国人たちは労働者として来日するため、日本人労働者と同じく労基署が監督することになる。技能実習生ほど監督監視の目は強くないと言える。

「日本人と触れ合う場所がない」「英語で話しかけないでほしい」

技能実習や特定技能のビザで来日する外国労働者の就労環境は少しずつ変化が起きている。では、「労働」で接する以外の日本人や日本社会の受け入れ態勢はどうだろうか。

残念ながら整っているとは言い難い。

杉田弁護士は「異文化を受け入れて、フェアに一緒に暮らしましょうとマインドセットを変えることが一番難しい」と語る。「変化のためにはまず、地域レベルで触れ合ってもらわないといけませんが、交流の場があまりないのが現状です。実際に触れ合うことで衝突は起こるかもしれませんが、多様化のためには実体験が必要です」

杉田弁護士が技能実習や特定技能の外国人たちから聞くのは「日本人と触れ合う場所がない」「もっと話したい」といった声だ。

また、「英語で話しかけないでほしい」という意見が上がることもある。研修で日本語は学んだが、英語は話せないという人は多い。「外国人=英語が話せる」といった先入観も、当事者と意見交換すれば現実に沿っていないことがわかる。

そうやって「今後、労働面以外で少しずつ相互理解を深める必要があります」とする杉田弁護士だが、他方、「今回の法改正は、いままで光の当たらなかった外国人労働者に人の目が集まる良い機会になった」と口にする。

「経済的な仕組みを含めて、日本の外国人人材市場を全て見つめていこうという風潮が生まれた。人の目が集まれば、異文化に対する興味も生まれますし、企業は違反できなくなります」

見えない移民に支えられる日本 これからの課題は

Getty Images

最後に、日本の外国人労働者に関する「今後の課題」を杉田弁護士に聞いた。

「これから日本で働く外国人は増えていきます。3〜5年で帰ってくださいという現在の仕組みから、徐々に長期的に日本で暮らす流れに変わってくる。その時にお子さんや配偶者の受け入れなどはどうするのかを考えないといけません」

現在の制度では、技能実習も特定技能も「家族帯同」は許可されていない。

杉田弁護士は「今後、日本社会がどこまで移民社会に舵を切るかが問われる」と指摘する。現在、日本政府は特定技能の新設で外国人材の受け入れを拡大しながらも、「移民政策ではない」としている。

「外国から人が来てもらわないと、日本の社会はもはや成り立たないのが現状です。それなのに、移民ではないと目をそらすのはおかしい。きちんと直視して、お互いが良い方向になるような受け入れ方を考えていくことが必要です」

そう訴える杉田弁護士は「コンビニや飲食店などの営業、農業や漁業、水産加工などの第1〜2次産業、ホテルの清掃など日本社会の生活・経済は見えない移民によって支えられています」と続ける。

「例えば現在、世界的に感染が拡大している新型コロナウイルスの影響で、4〜5月に来日することを予定していた人たちが来られなくなった時、野菜の収穫をしてくれる人たちをどうやって探せばいいのでしょうか。影響はすごく大きい。

そうやって初めて、自分たちの生活が外国人に依存していることを知る気がします。日本人がやらない仕事を外国人がやっているので」

【関連記事】「外国人は奴隷じゃない」 震災後の気仙沼市でインドネシア人労働者と生きる日本企業

コンビニエンスストアで働いている外国人が増えていることに多くの人が気づいている。しかし、なぜ増えたのか、そこに問題があるのかどうか、を考える人はどれくらいいるのだろうか。

杉田弁護士は「みんな立ち止まって、疑問に思ってほしい」と訴える。

「借金問題も含めて一度、外国人材に関して見過ごしてきたこと全てに光を当てるべきです。極端に悪い部分と良い部分をメディアがセンセーショナルに報じても、透明度が高くなるとは思えません。それは氷山の一角であって、その下に眠っている根本的な問題を議論しないといけない」

「私は、これからもう一度、制度改正がされるのではないかと思っています。現在の技能実習制度でこのまま耐えられるのかということも疑問ですし、受け入れ企業側が変わるというムーブメントがあってもいいと思うんです」

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