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商品券より日銀券――簡素で効率的な給付について考える - 中里透 / マクロ経済学・財政運営

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4月上旬にも決定が予定されている緊急経済対策のとりまとめに向けて、活発な議論が展開されている。中には和牛商品券(お肉券)や国産魚介券(お魚券)の発行を求めるユニークな提案もあって、これには批判の声も寄せられているようだ。

感染のさらなる拡大と景気の急速な悪化が懸念される中で、はたしてこのような議論をしていてよいのかということはもちろんあるが、とはいえ和牛券や魚介券のことを一笑に付すことはできない。

新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」という)の感染拡大をうけて不要不急の外出や宴会などの自粛が求められるようになったことから、飲食店の来店客が大幅に減少し、高級な食材に対する需要も大幅に減少しているからだ(3月9日に公表された2月分の景気ウォッチャー調査によれば、飲食店の業況判断DI(方向性)は39.8から16.0に急落している)。

有識者の中には現金給付などの「バラマキ」ではなく、真に支援が必要な分野に対象を絞ってきめ細かい対応をすべきとの提案がしばしばみられるが、和牛券や魚介券はそのような識者の意向に沿ったものということもできるだろう。

となると、問題はこのように個別の分野や地域に即した対応を、どこまでするのが望ましいのかということになる。和牛券や魚介券のような要望が幅広い分野から寄せられた場合には、分野ごとに商品券を出したり、補助金を交付したりするという対応が望ましいということになるのだろうか。

商品券によらず、現金給付を中心とする場合、給付にあたって所得制限をかけることは適切なのだろうか。以下ではこれら点について考えてみたい。

「対象を絞ったきめ細かい対応」の帰結は?

新型コロナの影響は、和牛や魚介類だけでなくより広範な分野の消費に及ぶ可能性がある。コメの需要は長期にわたって減少傾向にあるが、昨年は中食(持ち帰り用として購入される弁当など)と外食向けの需要が大幅に増加したことから、コメ全体の需要も前年比プラスで推移していた。こうした中、新型コロナの影響で飲食店などへの来店客が減少すると、おこめ券に政府が補助を出して内食(家で炊いて食べるご飯)の需要を喚起すべきとの声もでてくるかもしれない。

3月21日に開催された内閣府の会合(「新型コロナウイルス感染症の実体経済への影響に関する集中ヒアリング」)では、日本百貨店協会からクーポンや商品券など消費に直接回る対策を検討してもらいたいとの要望が寄せられた。政府・与党内には、観光客の減少で観光地が深刻な打撃を受けていることを踏まえて旅行券(旅行代金の一部補助)を推す声もある。

現時点では他の業界から具体的な提案はないようだが(ただし、自民党の議員から、おすし券も対象に含めるとよいのではないかとの非公式の提案がなされている)、特定の分野の商品券が「あり」となれば、各方面からさまざまな提案が寄せられることとなるだろう。

政府の補助を受けて発行される商品券などの提案については、その採否を決める客観的な基準を示すことができれば話は簡単だが、各業界にはそれぞれの事情があり、特定の商品券を推す人にはそれぞれ立場があるから、誰もが納得する形で採否を決めることは難しい(客観的な基準によるべきという規範的な判断はあるかもしれないが、ここでそれを持ち出すことは現実的ではない)。

そうなると、実際に採択されるのは、与党の支持団体の中で政治的な影響力が強い業界のものということになる可能性がある。あるいは、各業界、各方面に配慮してさまざまな商品券や販促のためのイベントが、大型の補正予算で確保された財源をもとに数多く実施されるようになるかもしれない。

このような調整の経過は絵空事ではなく、物品税(消費税が導入される前に採用されていた個別間接税)の課税・非課税の取り扱いをめぐって実際に展開されていたものだ。

日銀券の無償配布

特定の分野の商品券の配布は、その分野の商品やサービスを好む人にとっては好意的に受けとめられるものかもしれない。そうでない人は金券ショップで換金したり、ネットオークションで転売することもできるが(ただし、商品券の種類によっては違法性を問われる場合がある)、そのようなことを多くの人が行うのは明らかに非効率だ。また、商品券を紙や磁気カード・ICカードの形で発行する場合には、発行や管理のために多大な事務コストが生じることになる。

となれば、どのような商品・サービスとも交換可能な「全国共通商品券」、すなわち日銀券を配布することが一番効率的な方法ということになるだろう。もちろん、日銀券の無償配布には一定の財政措置を要するから、どのような目的で、誰を対象に、どのような方法で配布を行うのかという点について秩序立った整理が必要となる。

目的については所得補償なのか景気対策なのかが、対象者については所得制限の有無が、配布の方法については減税によるのか給付措置(現金の交付)によるのかがこの場合のポイントということになるだろう(基本的な枠組みや背景となる考え方の詳細は「消費減税か現金給付か」(https://synodos.jp/economy/23398)をご参照ください)。

これらの点を踏まえ、以下では簡素で効率的な給付の具体的な方法について考えてみることとしよう。

所得制限はかけられるか?

日銀券の無償配布、すなわち現金給付を所得補填措置(新型コロナの影響で家計が急変した人などに対する給付)として行う場合には、技術的に可能であれば対象者を特定して給付を行うことが望ましい。利用可能な財源には限りがあるから、対象者を特定した方が、支援の必要性が高い個人や世帯により手厚い支援を行うことができるからだ。もっとも、このような所得制限を適切な形で速やかに行うことができるかについては慎重な検討が必要となる。

このような所得制限をかける際にしばしば用いられる基準は世帯主所得だ。これはいわゆる標準世帯(サラリーマンの夫と専業主婦の妻と子供2人)が代表的な世帯であった時代には一定の有効性のある基準であった。

だが、女性の社会進出と多様な働き方のもとで共働きが一般的となっている現在では、世帯主所得による線引きを行うことは不公平をもたらしてしまうおそれがある。たとえば世帯主所得が500万円という水準で給付の有無の線引きをすると、共働きで夫と妻の所得がともに450万円(世帯収入900万円)という世帯は給付を受けることができる一方、片働きで世帯主所得が550万円(世帯収入550万円)という世帯は給付を受けられないことになるが、このような取り扱いは適切とはいえないだろう。

そうなると、給付の可否を判断する際には、世帯主所得ではなく同一生計者全体の所得のデータをもとに、世帯ごとに所得金額を集計する作業が必要ということになる。

所得制限を行う際にしばしば利用されるもうひとつの基準は、住民税非課税世帯だ。住民税非課税世帯は国民健康保険料の減免や高等教育の無償化などの基準として広く利用されている。だが、新型コロナの感染拡大の経済的影響を緩和するための措置として給付を行う場合、住民税非課税世帯であるか否かを給付の基準とするのは、今回の給付の趣旨になじまない。

というのは、住民税非課税世帯には公的年金と貯蓄の取り崩しで生計を営んでいる世帯も含まれており、このような世帯については新型コロナの影響で収入が大きく変動した可能性は高くないと考えられるからだ(もちろん、一般的な福祉施策として給付を充実させるべきということはあるかもしれないが、これは新型コロナへの対応とは分けて検討すべき課題である)。

現在、政府内で検討されている案として、新型コロナの影響で収入減が生じた世帯を対象に給付を行うというものが報じられているが、もし仮にこのような形で所得制限をかけて給付を行う場合には、実際に給付が行われるのは早くとも来年(2021年)の春ということになる。

というのは、収入の減少を確認するために必要な情報(2020年の課税所得金額)が、確定申告の終わった来年3月後半以降にならないと利用できないためだ(もちろん、年の途中で源泉徴収票を発行して所得の確認をすることは可能であり、この場合にはより早い時期の給付が可能となるが、この場合は受給の申請をもとに個別に所得の状況を審査する形での対応となることから、給付対象者を極めて限定的なものにしないと対応が困難であろう)。

このようにみてくると、所得制限をかけて給付を行うことにこだわる場合には、給付を行うまでの準備にこれから半年ないし1年程度の時間がかかり、実際に給付が実施できるのは今年の秋以降あるいは来年の春以降ということになりそうだ。もちろん、現に生活に困窮する人や世帯もあるから、その対応は急ぎ実施する必要がある。給付について所得制限をかける場合は、給付に向けた作業が遅れ支給が後ずれする分、生活福祉資金貸付制度の大幅な拡充などによる応急措置を強力に実施することが必要となる。

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