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ヤフーと正反対の意味での「ニコファーレ」の凄さと巧さ

ニコニコ動画の新サービス「ニコファーレ」の発表会中継をみた。たぶん、会場にいたほとんどの記者は「勢いのあるネットの会社がカネかけて、派手な新事業を始めた」とか「最新のCG技術はすごいな」くらいにしか思っていないかもしれない。けれど、わたしはネットでのコンテンツビジネスとしての「凄さ」と「巧さ」。その2つを強く感じました。

「凄さ」とはリアルでの体験とネットでの視聴をビジネスとして結び付けようとしていること。さらに、短期的な収益にとらわれず、かなり攻撃的に自らの手で挑戦しているところです。

「なんでもタダが当たり前」のネットの世界で、ニコファーレは果敢にも課金に挑もうとしている。とはいえ、ネット空間で完結する課金は現状ではどうしても大したことがない。そこで「ニコファーレ」はリアルな空間での課金に乗り出している。しかも、リアルな空間でしか体験できない、ライブを軸にして。ライブでしか体験できない会場の雰囲気、熱気、出演者や会場の観客との一体感。それとネットでの試聴でしか味わえない気楽さや、時間と空間の制約を超えた大勢の視聴者とのつながっている感覚。リアルでの体験とネットでの視聴の異なる機能をしっかり見据えたうえで、リアルとネットが一体となった、ひとつのコンテンツを生み出そうとしている。

しかも、従来のネット配信でもときどき見られた既存メディアであるテレビ局や音楽会社のイベントに乗っかる形ではなく、自前でやろうとしているところに「凄み」を感じる。既存メディアのイベントに乗っかるとネット配信事業者は費用は抑えられるけど、当然ながら既存メディア最優先の枠組みになってしまう。「続きはDVD買ってね」、あるいは「放送で見てね」といった具合に。ネット視聴者には残尿感のようなものが残ってしまう、やるせなさがあったわけです。これまで鳴り物入りで始まったコンテンツ配信にしても、動画配信でも電子書籍でも、既存のマスメディア業界の蓄積をそのままネット空間に「輸入」するというものでした。輸入したコンテンツに「好きな時間に見られる」とか「コメントを書き込める」という機能を追加して。「ほら、既存のメディアより便利でしょ」と売ろうとするものがほとんどだった。けれど、それだと利用者の根本的で素朴な疑問に答えられない。「ハードディスクに録画すれば、タダで大画面でテレビ見られるんですけど」。

既存メディアのコンテンツに乗っかるだけの問題点は、実はコンテンツ自体の性質にもあります。それは、既存メディアのコンテンツは、その既存メディアで見ることに最適化して作られているということ。テレビ番組であれば、人気番組のほとんどはある程度大きな画面で見ること、そして大勢な人が同時に見るためにわかりやすさを重視してつくられています。PCやスマホの小さな画面で、ひとりで見るという状況とは真逆なのです。なので、ネットでのコンテンツ配信が新しい地平に乗り出すには、いつか既存メディアに乗っかる形ではなく、自分たちの枠組みのために、オリジナルなコンテンツ製作に乗り出す必要があった。今回、ネットの事業者として初めての本格的な挑戦に乗り出しているようにみえる。

しかも、明らかに短期的な収益は度外視。都内の一等地でのまとまった空間の1年間の賃料。人件費や光熱費などの維持費。さらにCGを駆使するための設備費用。どう考えても、年間億単位はかかっている。億単位の投資をしてでも、新しい独自コンテンツの地平に挑むあたりにも「凄み」を感じるのです。

もうひとつ感じた「巧さ」というのは、課金方法の巧みさ。スタジオジブリの新作「コクリコ坂から」の主題歌を歌う手嶌葵のライブが、ニコファーレの会場だと4000円でネット視聴だと1500円。ネット視聴が高いかなと思うが、価格を下げたくないアーティストとの「大人の事情」もあるのでしょう。恐らく、暫くしたら相応の価格に落ち着いてくるものと思われます。「巧さ」を感じたのは、2次的な課金方法。いわゆる「アイテム課金」のようなもの。ニコファーレのライブには、ファンからアーティストあてに花束を贈ることができます。実際の花ではなく、デジタルのアイテムとしての花なのですが、注文先は日比谷花壇。リアルの有名花屋に電話で注文しないといけない。ネット空間で完結するものには、どうしてもおカネを出したくない利用者の心のハードルを下げるため、リアル空間の価値観を醸し出そうとしている様が見て取れる。

課金以外で「巧さ」を感じるのは、利用者層のすそ野を広げようとしているのがはっきり見てとれること。ニコファーレが、かつてのバブルの殿堂で高い知名度を誇るベルファーレの跡地につくられたこと、あるいは開始当初のライブが東方神起やAKB48といったメジャーどころを並べたところ。現在のニコニコ動画の支持層を意識しながらも、徐々にすそ野を広げようと腐心しているのが窺える。

以前、iモード立ち上げに関しての記事で、最初に狙ったのは銀行だったというのを思い出した。そのココロは他のコンテンツ提供者も「銀行が参加するんだったら、うちも」という雪崩現象を狙ったからだとか。まず最初に、大御所からはじめるというのは、対利用者へのアピールだけではなく、既存のメディア業界へ参加を促す狙いがあるのかもしれない。このあたりは、夏野さんのiモードの成功体験が盛り込まれているのかも。

短期的な収益度外視で、リアルとの連携を強く意識した独自コンテンツをつくろうとしているニコファーレ。これって実は、日本のネット業界の最大のプレーヤーであるヤフーとは正反対の路線です。ヤフーは短期的な収益、4半期決算での数字を重視せざるをえないので、どうしても短期的な収益を無視した挑戦はしづらい。クリック単価を増やすために、PVを増やすために、という固い路線での拡大の発想になってしまう。あるいは、損ができないので石橋を叩いてからやっと新規のサービスに乗り出すということにもなってしまうのだろう。こそして、ヤフーは独自コンテンツをつくらない。ヤフーニュースは既存メディアのコンテンツを輸入し、上手に再編集してビジネスとして成功した代表例だろう。既存メディアでのコンテンツ製作者から安く輸入できたからこそ、成り立ったビジネスだが、いまや「輸入元」が疲弊してしまっている…。ところがニコファーレは成功すれば、既存メディアにとっても、ライブの売上、ネット視聴での売上、試聴によって誘引されるグッズ販売と、既存の売上を食うのではない、ネットの配信事業者と双方が儲かる正の循環、生態系をつくる可能性すら併せ持っている。

ヤフーはネットでおカネを生み出す仕組みとして、資本主義社会の会社として、最高傑作に近いすごい会社だと思っています。けれど、新しい「何か」を生み出すという意味ではどうだったか。それはネット企業の第一世代とでもいうべき人々のほとんどの人にとっては、ネットは事業を拡大しやすい手段として最も有利だから選んだのであって、ネットサービスそのものが目的ではなかったのであろう、ということにも関係しているのかもしれない。しかも、日本のネット広告費の6割以上握っているという。後続の会社の多くはヤフーを目指した。日本のネットの発展において、間違いなくヤフーの功罪というか正の部分と負の部分があったとおもう。その負の部分は間違いなく、圧倒的に資金も人も余裕のある会社が果敢に挑まなかったということ。○期連続増益を最重視する環境では大胆な手は打ちにくいのではないだろうか。そして、負のもうひとつの部分は輸入元の既存メディアをどんどん細らせていく仕組みだということ。ニコファーレはその負の系譜にも挑んでいるように見えるのです。

日本のネットのコンテンツサービスで凄いなと思うことはなかなかないのですが、これは珍しく驚いた。わたしはドワンゴにもニコニコ動画にも全く関係のない人間ですが、「なかの人」になったら面白そうだなと思える存在の登場でした。

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