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「"人間関係を活用した金融の仕組み"は新たなセーフティネットにもなり得る」~『ソーシャルファイナンス革命』著者・慎泰俊氏インタビュー~

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写真左が『ソーシャルファイナンス革命』の著者である慎泰俊氏
写真左が『ソーシャルファイナンス革命』の著者である慎泰俊氏 写真一覧
現代社会の問題点を改めて提示する新感覚のインタビューシリーズ「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」。第8回目のテーマは、新たな金融の仕組みとして注目を集めている「ソーシャルファイナンス」。ソーシャルファイナンスとは、ソーシャルメディアなどのテクノロジーを活用し、小口で広く出資や寄付を募る金融の仕組みを指します。ソーシャルファイナンスを普及させるための課題や、その未来図をNPO法人LIVING IN PEACEの代表で、『ソーシャルファイナンス革命 ~世界を変えるお金の集め方 』の著者である慎泰俊氏に聞きました。【取材・執筆:永田 正行(BLOGOS編集部)】

※本シリーズは、SYNODOSに寄稿している論者のインタビュー記事を掲載した後に、その記事への疑問や異論・反論に対する回答記事を掲載するという方式を採用しています。記事へのご意見は、コメントフォームおよび議論ページにお寄せください。締め切りは8月13日(月)正午とさせていただきます。次回の記事掲載日は22日(水)を予定しております。

「人間関係」を活用した新しい金融の仕組み


―「ソーシャルファイナンス」という言葉に、あまり馴染みがない方も多いと思います。まず概要を教えてください。

慎泰俊氏(以下慎氏):この分野は、言葉が乱立している状態です。ソーシャルファイナンスという人もいるし、クラウドファンディング(多くの個人からの資金調達)、P2Pファイナンス、ソーシャルレンディング(共に個人から個人へのお金の貸し付け)などという人もいます。私はそれらを一つにまとめて「ソーシャルファイナンス」と呼ぶようにしています。「金融の今後」を占うという意味では、この「ソーシャルファイナンス」という名称が一番いいと思っています。そして、ソーシャルファイナンスの定義は、「人間の社会関係を活用した金融の仕組み」であるというものです。

この仕組みの歴史自体は非常に古く、日本であれば「頼母子講(たのもしこう)」という連帯責任でお金を貸すことで、借り手に「なんとか返さなければいけない」という動機づけを与え、高い返済率を実現する仕組みがありました。また海外でも、同じようなムラ社会的な共同体に基づく人間関係を使った金融の仕組みが結構あったんです。今でもムラ社会的な共同体が残っている途上国では、こうしたファイナンスの仕組みが生き続けています。一番有名なのが、マイクロファイナンス(主に途上国で利用されている小額の金融サービス)と呼ばれているものです。

ただしソーシャルファイナンスは、途上国と先進国でその形や仕組みが異なってきます。途上国と先進国では、基盤となる人間関係のあり方が異なるからです。途上国の人間関係というのは、共同体に根付いたものが非常に強い。よって、金融も強固で数が少ない人間関係に基づいたものになる。しかし、先進国の場合、都会に住んでいれば知り合いの数は100人や200人になると思いますが、そこには途上国のムラ社会のような強い結束があるわけではない。そうした幅広くて、強固ではない人間関係をベースにした金融のあり方、つまり小口で多くの人から集めるという形が、先進国の望ましいソーシャルファイナンスではないかと考えています。

―ソーシャルファイナンスという言葉は、比較的新しい言葉だと思うのですが、こうした仕組みが注目を集めはじめた背景は何でしょうか?

慎氏:日本では震災が大きなきっかけとなっていますね。震災のときにインターネットを通じたお金の動きが一気に増えました。「Music Securities」というファンドの出資を募るプラットフォームは、震災後に「セキュリテ被災地応援ファンド」を販売し8億円ほど集めました。「JustGiving」というプラットフォームもかなりの金額の寄付を集めましたし、ここがひとつの転機になったと思いますね。

―ソーシャルファイナンスは、単純な出資や寄付とどのように違うのですか?

慎氏:種類はいろいろあって、まず出してもらったお金が、返すことが前提の「貸し借り」か、利益を分配するタイプの「出資」か、金銭的な見返りを求めないものかで異なります。また、金銭的な見返りを求めないものの中にも、配当の代わりにサービスなどを提供する「購入型」 といった、寄付とは違ったタイプのものもあります。

また純粋な寄付であっても、先ほど名前を挙げた「JustGiving」のように、ちょっと変わった仕組みを採用しているプラットフォームがあります。「JustGiving」は、「私たちはこれこれのチャレンジします。このチャレンジを応援してくれる人は寄付してください」とサイトで寄付を募り、集まった寄付をその団体に届けるという仕組みなんです。累計で既に9億円ぐらいの寄付を集めています。

―いわゆる「寄付」行為の背後にある「善意」ではなく、「共感」や「応援」といった感情を動員しようとするわけですね。

慎氏:「JustGiving」には他にも、「ダイエットに挑戦します」といって寄付を募っている事例もありますね。

「JustGiving」は2001年にイギリスでスタートしたサービスです。日本でのサービスインは2010年。他にも「KIVA」というサービスがあって、2005年にスタートし、これまでに300億円を集めています。こうした成功の背景には、英語のプラットフォームなので利用する人口が多いというのもありますし、英語圏の人々は投資や寄付に対する心理的ハードルが比較的低いためにお金が集まりやすいということもあります。

―これまでのような寄付や既存の金融機関のほかに、ソーシャルファイナンスが必要な理由は何でしょうか?

これまでよりも効率的に、お金を必要としているところに、お金を届けることができるようになります。人間関係というのは人の満足感に大きな影響を与えます。そしてそれを投資に含めることができると、投資の際に求められるリターンが変わってきます。金利などのような、投資する側から求められるリターンを「資本コスト」と呼びますが、人間関係を含んだ投資の場合、資本コストを低く抑えることができ、その結果、これまでは届かなかった場所にもお金を届けられる可能性が出てきます。

例えば「CAMPFIRE」というクリエイターが出資を募るプラットフォームがあります。通常は、アーティストが作品を作るため100万円必要だったとしても、普通の金融機関から借りるのはかなり難しい。仕方なく消費者金融から年率13%で借りざるをえないということになる。そうなるとお金を借りるハードルがあがって、結局、必要なところに必要なお金が届きにくくなるわけです。

しかし、「このアーティストを応援したい」という気持ちを組み込むならば、お金を出してくれる人が出てくる。中には、「金利はいらない」という人もいるでしょうし、「リターンゼロ、寄付でもいいよ」というような人も出てくるでしょう。人間関係を含めれば「資本コスト」が下がるというのはこういうことです。これがソーシャルな関係性がもたらす力なんです。

人間関係というのは人のモチベーションに非常に強い影響を与えます。誰かに応援されていると思う人は頑張ることができるし、それは結果として、高い投資リターンにもつながるはずです。現在のようなソーシャルメディアの時代に、こうした人間関係を活用した金融の仕組みはきわめて適合的だし、とても大きな可能性をもっていると思います。

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