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特集
日本の見えない移民たち
日本が新たな在留資格「特定技能」を創設し、外国人労働者の受入拡大を開始してから今年4月で1年。在留外国人数は5年連続で過去最多を更新し、2019年末現在で293万3137人となりました。ともに暮らしているけれど、もしかしたら見過ごしてしまっているかもしれない。そんな日本の「見えない」移民たちの現在を追いました。

「外から見えぬところでブラック労働がまかり通っている」 入管法改正から1年、外国人労働のいま(前編)

  • 2020年03月31日 10:46
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外国人を就労者として受け入れるための新しい在留資格「特定技能」が創設されて、4月で1年。出入国管理及び難民認定法(入管法)の改正をめぐっては、「日本が外国労働者受け入れ拡大に舵を取った」と報道が増加したが、実際に受け入れをはじめた現場はどうなったのか。

外国人材受け入れに詳しい杉田昌平弁護士は、日本の法律や制度は非常に厳密である一方、「ブラックな職場環境」や「技能実習生の闇」はいまだに存在していると指摘する。その背景を聞いた。

目次
・日本の外国人材とは? 深刻な人手不足解消のために新たな在留資格

・外から見えない部分でブラックな行為がまかり通っている

・外国人材受け入れ制度の整備は急いでやっていいことではない

・手厚い保護の仕組み 現実的に機能するかは疑問

・法律通りにやれば労基法違反なんて出るわけがない

日本の外国人材とは? 深刻な人手不足解消のために新たな在留資格

まず、「日本で働く外国人」とはどのような人たちなのだろうか。

日本では外国人が在留する場合、上陸の際に審査を受け「在留資格」を取得することが定められている。現在、日本には29種類の在留資格が存在する。

入管法改正以前、外国人の「労働者」受け入れは

●ホワイトカラー・専門性の高い仕事=経営者、大学教授、エンジニア、医師など
→「高度専門職」や「技術・人文知識・国際業務」などの在留資格

●各産業分野での労働=農業・漁業や建設の現場、食品製造や金属工場での勤務など
→「技能実習」の在留資格

●コンビニエンスストアなどでのアルバイト
→「留学」の在留資格

といった区分で行われてきた。このうち、技能実習と留学の在留資格は本来、就労を目的とするものではない。

そのため、昨年の入管法改正では「深刻な人手不足対策」として、産業の現場を支えてくれる人材受け入れのため、「就労目的」の新たな在留資格「特定技能」が加わったのだ。

※特定技能1号は見込み人数/杉田弁護士の提供資料をもとに作成

今回の記事では、産業の現場をになってきた「技能実習」、そして新たな在留資格「特定技能」で日本に滞在する外国人について、主に取材した。

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外から見えない部分でブラックな行為がまかり通っている

日本の外国人労働者をめぐっては、メディアが劣悪な職場環境に置かれている姿を報じることが多い。なにが問題なのだろうか。

杉田弁護士は「技能実習も特定技能も法律・制度はしっかりしている」と指摘。「問題は人を使う側にあります。外から見えないところで、ブラックな行為がまかり通り過ぎている」と憤る。

2018年に全国の労働局や労働基準監督署(労基署)が監督指導を行なった外国人技能実習生在籍の事業場は7,334ヶ所。そのうち5,160事業所で労働基準関係法令違反が認められている。チェックが入った事業場のうち、7割以上で違反が見つかっているのだ。

ベトナム~日本のケース/杉田弁護士の提供資料をもとに作成

杉田弁護士は「外国人技能実習生が酷使されている現場では、非正規や立場の弱い日本人もまたブラックな環境に置かれているはず」と警鐘を鳴らす。

「技能実習生や特定技能の人たちは弱い立場に置かれやすいという構造はありますが、『外国人だから』と問題を片付けず、日本人労働者も含めてこういった状況を生み出している現実に注目するべきです」

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外国人材受け入れ制度の整備は急いでやっていいことではない

こういった課題を抱えながら、日本は新たな在留資格「特定技能」を創設し、外国からの労働者受け入れ拡大に踏み切った。外国人労働者の受け入れは、19年4月からの5年間で約35万5千人が見込まれている。出入国在留管理庁によると、同年12月末現在で、特定技能によって日本に在留する外国人は1621人。数字の上では受け入れは進んでいないのが現状だ。

入管法が改正された19年を杉田弁護士は「制度設計の年だった」と振り返る。

特定技能の在留資格を得るには

①日本語試験と業種別の技能試験に合格する
②約3年の技能実習を修了する

の2つの経路がある。①の試験合格パターンで在留資格を得た人は1621人中115人だった。

ベトナム−日本のケース/杉田弁護士の提供資料をもとに作成

杉田弁護士は「試験をどの時期にどの会場で、どうやって実施するのか、受験料を集める方法はどうするのかなどの細かい部分を、この1年で試験実施者が試行錯誤しながら設計してきたのではないでしょうか」と説明。

さらに、ベトナムやフィリピンなどの送り出し国側においても、法律を整備することが必要だった。

「現段階でベトナムでは法律が完備できていません。フィリピンでも手続きの受付ができるようになったのが12月頭です。想定よりも特定技能で人材がなかなか入ってこないじゃないかという批判があるが、外国人の送り出しと受け入れの制度を新しく作るのは、拙速にやっていいことではありません。整備するには1年くらいかかってもしょうがないと思うし、むしろ1年でよく整えることができたなと思います」

手厚い保護の仕組み 現実的に機能するかは疑問

1年で、受け入れるのための制度は整ってきたが、日本で働いている間、外国人労働者が弱い立場に置かれやすいという課題もある。保護の仕組みは整っているのだろうか。

まず、特定技能のサポート体制を見てみよう。

特定技能では「登録支援機関」が生活のサポートや定期的な面談を行い、技能実習では「監理団体」が適正に実習が実施されているか監督する役割を与えられている。

特定技能は技能実習を3年以上した後に移行するケースと、試験に合格して在留資格を得る2パターンがあることは先述したが、試験合格パターンの場合、日本語能力検定のN4レベルに合格する必要がある。

杉田弁護士は「例えば、私たちが英検4級しか持っていない状態で、サポートなしにアメリカで働くことになったとしたら大変だと思います。だから、『企業はN4レベルの人を採用してもいいですが、生活支援もちゃんとしてくださいね』ということで導入されたのが登録支援機関という存在です」と解説する。

登録支援機関は空港の送り迎えやオリエンテーション、行政手続きのサポートや住宅確保、日本語勉強の機会提供に加えて、3ヶ月に一回の本人、上司との定期面談などを行う。

杉田弁護士の提供資料をもとに作成

面談の際、労基法違反などが発覚すれば登録支援機関は労基署などに通報するシステムになっている。

「制度上はかなり手厚い保護の枠組みがあります」と杉田弁護士。しかし、現実的に機能するかどうかは別の話であるという。

登録支援機関の利用は各企業の任意であり、利用する場合は企業が機関に委託料を支払う。つまり、登録支援機関にとって企業はクライアントとなるのだ。杉田弁護士は「お客さんのことを簡単に労基署に通報できるでしょうか」と疑問を呈する。

登録支援機関を使わない場合も、自社で起きている違反を社員が通報するだろうか。制度としては存在するが、構造的にブラック労働を防ぐシステムとして働くとは言い難い。

技能実習制度では、生活支援などのサポートは、「監理団体」が行うことになっている。送り出し機関と協定を結んでいる監理団体が、最初の1年は1ヶ月に1回、実習生のもとを訪問。それと並行して、3ヶ月に一回、企業を監査する。もし違反行為があった場合、指導をして管轄の労基署に報告するという義務がある。特定技能における登録支援機関と似たシステムになっているが、過酷な環境に置かれている実習生の存在が今でも報じられているのは、このシステムがうまく働いていないからではないだろうか。

また、技能実習と特定技能の大きな違いのひとつとして「転職が可能になったこと」があげられるが、この制度も現実的に機能するかはわからない。

企業の就労環境に不満があるときなど、特定技能であれば別の職場に転職することができる。しかし、手続きには大量の書類を用意することが求められる。日本の制度を理解し、複雑な書類手続きを外国人がひとりで行うことは簡単ではない。いまのところ、特定技能を対象にした転職支援の会社やエージェントなどの機関はないという。

法律通りにやれば労基法違反なんて出るわけがない

Getty Images

こうして技能実習制度や特定技能の法律・制度をみると、しっかりとした人材保護の仕組みが確立されているのがわかる。技能実習制度に関しては日本人よりも先に同一労働・同一賃金が導入され、賃金も日本人と同等額以上と定められている。

「法律通りにやれば、違法な残業や賃金未払いなどの事例が起きるはずがないんです」と杉田弁護士は強調する。

しかし、本来厳格に定められているはずの制度が現実的には機能していない。

「それが技能実習から特定技能に移行したからといって、突然クリーンになるわけではないでしょう」

在留資格が切れると外国人労働者は国に帰らないといけない。しかし、多くの技能実習生が日本に来る過程で、送り出し機関などに借金をしているという事情がある。借金返済のためには、途中で帰ることはできない。「日本企業の言いなりにならざるをえないという依存度の高いシステムになっている」と杉田弁護士は指摘する。

依存度の高さは特定技能でも変わらない。制度上設けられた転職システムは簡単には使用できず、一年に一回、在留資格を更新しないといけない。更新時には受け入れ企業の協力が必要であるため、労働者は企業に対して弱い立場に置かれてしまうのだ。

借金を背負う技能実習生の闇 入管法改正から1年、外国人労働のいま【後編】に続く

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