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迷走する新型コロナ対策 日本政府の意思決定が遅い理由

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法改正までの悶着から、一斉休校、自粛要請、「和牛券」「お魚券」の登場まで、様々な施策の検討・実施がされている新型コロナウイルス対策。政策の一貫性について疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。今回はこうした迷走がなぜ起こるのか、外交官としての経験もある前衆議院議員の緒方林太郎氏に解説していただきました。

新型コロナウイルス(COVID-19)についての日本政府の対応について、「遅い」、「混乱している」から「よくやっている」というものまで、様々な見解が表明されています。私は医療面での専門家ではありませんが、政治・行政の観点から私見を述べたいと思います。

習主席訪日と東京オリンピック 日本政府が後手にまわった2つの原因

当初から、私は「出来るだけ大事件にしたくないのだろう」という雰囲気を政府に感じました。理由は2つ。習近平国家主席の国賓訪日と東京オリンピックが念頭にある事は強く見て取れました。外交的に見て、昨年半ばくらいから「何故、こんなに習近平主席訪日を謙って懇願しているのだろうか」と思う事が多かったのです。中国との間には、これまで1972年、1978年、1997年、2008年と4つの文書が交わされていて、今回、安倍総理は対中外交のレガシーとして習近平主席訪日と第5の文書にこだわったと言われます。

安倍首相は習近平国家主席の訪日にこだわったといわれる AP

しかし、あれだけ武漢市でコロナウイルスが猛威を振るっている中、4月の国賓訪日など到底無理である事は想像に難くなかったと思います。結局、引っ張るだけ引っ張って3月5日に国賓訪日延期を発表、同日に中国からの入国制限が発表されました。政府は「偶然」と言っていますが、それを信じる人は少なくとも私の周囲には(政治信条を問わず)居ません。中国のご機嫌を損ねて、国賓訪日が潰れる事のないよう中国側に精一杯の忖度をしたのでしょう。国民の安全安心と外交上の成果を天秤に掛けるやり方はどうだったのか、と思います。

東京オリンピックも然りです。3月24日に延期が決まるや否や、東京において矢継ぎ早に様々な措置が講じられるようになりました。緊急事態宣言までもが取りざたされるようになるに至っては、突然、危機の度合いが上がったように受け止めた方も多かったのではないかと思います。

今回の意思決定の中で、COVID-19と関係のない別の成果と天秤に掛ける事で、色々な意思決定に遅れが出たという面は否定できないでしょう。「科学」の要素よりも優先された事があったわけですから、対応が科学に基づかないものになっていくのは当然の帰結でした。今後の対応では、COVID-19関係で取るべき措置と「他の分野での成果」とを天秤に掛けた対応は厳に慎むべきです。

東京五輪も新型コロナウイルスの影響で延期に AP

法的根拠も法的義務もない「要請」連発は無理筋な手法

さて、法律面の対応でも非常に違和感の多い事が続きました。

まず、最初に行われた1月28日の感染症法の政令では非常に重要なポイントが隠されています。それはCOVID-19が同法上の「指定感染症」だと定義づけられた事です。その結果として、「(強い措置がとれる)新型インフルエンザ等対策特別措置法」の対象にならない事が確定していたのです。感染症法における「感染症」には様々なカテゴリーのものが含まれますが、その中で「指定感染症」と「新感染症」は別物です。そして、新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象となるのは「新感染症」のみでした。COVID-19が現行法で読み込めるかどうかという議論は有益ではありませんでした。

また、総理が記者会見で「要請」した外出自粛、イベント自粛、休校といった内容には、何の法的根拠もありませんでした。総理が述べる「要請」は政治的には重みがあり、無根拠で乱発するのは法治国家のあり方としては正しくありません。一方、「要請」は何処まで行っても「要請」でしかなく、その法的効果は相当に限定的です。国民側からすれば従う法的義務はありません。その効果を支えるのは「緊急事態なのに従わないとはけしからん」という社会の同調圧力でしかありません。そして、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法で緊急事態宣言を発してやれるのも「要請」なのです。改正新型インフルエンザ等対策特別措置法で緊急事態宣言を出しても、今以上の事は大して出来ないのです。

「要請」を繰り返すも強制力はない AP

諸外国の状況を見て、より強い法的措置の必要性に政府も気付いたのだと思います。今になって、政府は感染症法の政令を再改正して、商業施設やビルなどで集団感染が確認され、いくつかの条件と緊急性が認められた場合に限って、都道府県知事は建物の封鎖や立ち入りの制限をしたり、建物に入れないよう周辺の道路などを遮断できるようにしました。ただし、この措置は限定的なので真の緊急事態には対応できません。東京を始めとする関東が厳しい局面になってきて、政府はあたふたしているように見えます。

新型インフルエンザ等対策特別措置法改正の時点で、指示、命令を伴う私権制限を可能とする強い法律を作っていれば、今になってあたふたする必要は無かったはずです。勿論、人権制限をするわけですから、対象、期間を厳格に絞り込んだ上で、国会承認も(事後で良いので)盛り込んだ法律とすべきでした。こういう時だからこそ、野党はきちんと人権擁護と感染症押さえ込みの必要性のバランスを取った案を出して、それを強く政府に訴えるべきでした。人権制限というのは非常に辛い判断ですが、私の肌感覚では多くの国民は理解してくれただろうと思います。

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