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大手メディアの記者が原発周辺や紛争地帯に入らない理由

震災報道は原発問題に絞られてきたようだ。だけど原発問題についてのニュースは、東京電力の救済方法や原子力保安院の記者会見、専門家の解説など、東京にいたままで書けるものばかり。原発の立ち入り禁止区域ギリギリまで近づいた現地取材を見ることは、まずない。

実は原発問題に限ったことではない。イラク紛争のときも、イラクに入った報道機関はほとんどなかった。現地入りしたのはNHKと共同通信くらいだった。イラク紛争で現地の様子を伝える中継。テレビ画面をよくみると「クウェート」の文字が。紛争現場のイラクではない、その隣国。しかもアメリカ軍に守られながら、アメリカ軍が発表する情報を伝えることになる。

クウェートは隣国ではあるが、紛争地帯そのものではない。そこには何もない。湾岸戦争を「クウェートで」取材した記者に話を聞いたことがある。毎日毎日、暇で暇で仕方がなかったという。何もない隣国なのだから当然だ。一日中ホテルで過ごす。昼間はホテルのプールサイドでくつろぐ。たまにアメリカ軍の会見があると顔を出す。そんなリゾートのような、快適な生活だったという。

なぜ、大手マスメディアの社員記者は危険地帯に入らないのか。理由は簡単で危険だから。危険を顧みず、突入しようという気持ちがないからだ。組織としても、個人としても。仮に熱意あふれる、志の高い社員記者が危険を冒しても取材しようとすると、どうなるか。そこには3つの敵がいる。ひとつは上司。まずは、直属の上司の許可がいる。直属の上司は当然ながらすでに一線を退いている。現場の感覚や熱意からは距離を置く立場になってしまっている。社員記者が危険地帯に入る熱意を訴えても、管理職としてはどうしても自分の部署の危機管理を優先してしまう。「もし危険地帯に社員が入ってトラブルが起きたら、許可した自分の責任になってしまう」。

それでも直属の上司を何とか口説き落としたとする。直属の上司は、管理職といっても数年前まで現場に立っていた人も多い。保身一辺倒ではない人もなかにはいる。だが、もっと難敵がいる。次の敵は部門の責任者、局長だ。局長というのはマスコミ企業独特の役職名で、一般的な会社でいうと事業部長に当たる。執行役員、あるいは取締役といった経営幹部の仲間入りが目前まで来ている、出世争いで色気満々にして、さらに上にいけるか正念場の人たちだ。経営幹部入りを狙うには、不祥事は致命傷になってしまう。しかも局長というのは大体が50代。現場を退いて、20年近い。許可する理由はまずないのだ。

直属の上司、部門長を奇跡的にクリアしても、最後の関門が待ち構える。労働者の味方、労働組合だ。マスコミ企業というのは労働組合が極めて強い社がほとんど。社員を危険地帯に送り出すとは何事かと、経営陣に訴える。そうして、危険地帯に突入する熱意に燃える現場の記者が危険地帯ではなく、社内で「殺される」のだ。よく考えれば危険地帯に行っても行かなくても、給料は変わらない。社内で波風起こして、自分の身を危険に晒してまで、行くことはないではないか、と。

ときおりテレビや新聞でも危険地帯の潜入取材を見る。だが、そのすべてといっていいほど、フリーといわれる、大手マスメディア企業に属していない記者によるものだ。危険地帯を映した映像んには、必ずといっていいほど「提供:アジアプレス」といったフリーの記者の属する組織名や個人名そのものが出てくる。数百人の取材体制を擁していながら、危険地帯に入るのは社外のスタッフなのだ。フリーの記者は映像やネタをとって、はじめておカネになる。一方の社員記者はネタを取ろうが取るまいが、生活は保障されている。誰もわざわざ行こうとはしない。危険すら外注されているのが、報道の取材現場の実情なのだ。危険にまつわる業務を外注化し、組織が硬直化しているのは、なにも東京電力だけではないのだ。

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