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「どんどん仕事をチェンジして、生き残るのが武士の本分」戦国時代に学ぶ“日本人の仕事観”とは?――出口治明×呉座勇一歴史対談 中世はビジネスチャンスの宝庫だった!- 「文藝春秋」編集部

 愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ――。ドイツの宰相、ビスマルクがこの言葉を残してから100年以上が経過した。昨今の日本では、学校教育における歴史の授業を「暗記科目」と捉える声も多く、歴史を学ぶ意義が見えづらくなっているのではないだろうか。

 今回、立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏とベストセラー『応仁の乱』の著者である国際日本文化研究センター助教の呉座勇一氏が日本中世の魅力から、歴史を学ぶ意義について語り合った。

呉座勇一氏 ©文藝春秋

中世の日本人は活力に溢れていた!

呉座 中世は下剋上、すなわち実力主義の社会です。とくに応仁の乱以降の戦国時代は、戦前の歴史家、内藤湖南が指摘したように、庶民にとってチャンスの時代でした。現代社会は閉塞感に覆われていると言われますが、いまこそ、ダイナミズムに溢れた中世社会の姿を知ってほしい。

 私たちは「日本人は、こうあるべきだ」という固定的な自画像に囚われがちです。例えば、「日本人は閉鎖的な島国の中で秩序を重んじて生きてきた保守的な民族だ」と。でも、中世社会を見ると全然そんなことはありません。

出口 いまのおとなしい日本人とはむしろ対極でしょう。佐々木道誉をはじめとした異類異形の「バサラ大名」や、軍勢を動員した守護大名が将軍の邸宅を包囲して異議申し立てを行う「御所巻き」など、言葉を聞くだけでもワクワクしてきます。

呉座 なるほど(笑)。中世というと源平合戦や応仁の乱など、戦争ばかりの暗いイメージを持たれるかもしれませんが、実は人々の活力に溢れた時代なんです。

そもそもはバクチだった茶道

出口 現代に通じる茶道の作法が確立したのも中世ですが、お茶といっても上品なものではなくて、最初はお金を賭ける博打だったんですよね。いまの茶道とはずいぶんイメージが違います。

呉座 闘茶ですね。お茶を飲んで産地を当てたりして、勝敗を競っていました。こうした現代人とは全く違う中世人の姿を知ることも歴史を学ぶ意義です。日本人としてのアイデンティティも固定的なものではなくて、時代とともに変わっていく。それを知るためには、中世はうってつけだと思います。

出口 中世には、ビジネスのヒントも山ほど転がっていますよね。僕は、若い人によく、「上司が気に食わなければ『御所巻き』をやればいい」と話すのです。上司を連れてみんなで飲みに行って、その場で吊るし上げにしてしまえ、と。御所巻きの伝統を知っていれば、「よし、いっちょ意見を言ってやるか」という発想も出てくる。ビジネスチャンスはこうした自由闊達な議論から生まれるものです。

呉座 そういうことを知らないと、「日本は武士道の国だから、上司に逆らってはいけない」という話になってしまいます。

「七度主君を変えねば武士とはいえぬ」

出口 「武士道」もビジネスマンに誤解されがちな言葉ですよね。

呉座 そうなんです。日本は転職率が低いといわれますが、その背景には、「武士道は『二君に仕えず』だから終身雇用で」という思い込みもあるのではないでしょうか。

出口 戦国時代の武士に忠義などまるでないですよね。それどころか、「どんどん仕事をチェンジして、生き残るのが武士の本分」と考えていた。僕の育った伊賀市は、江戸時代には伊賀上野藩でした。これは津市にあった藤堂藩の支藩です。藩祖の藤堂高虎のことを調べてみると、「七度主君を変えねば武士とはいえぬ」と述べているのです。明治以降に流布した「武士道」は、新渡戸稲造が提唱したことで広まったものですよね。

呉座 そうですね。新渡戸はクリスチャンですから、キリスト教的な価値観も反映されています。ところが、実際に戦国を生き抜いた高虎は、浅井長政、豊臣秀吉、徳川家康と次々と主君を変え、「転職」しまくっています。ステレオタイプな「武士道」に縛られるのは間違いです。

「文藝春秋」4月号に掲載の「『なぜ?』を問わない歴史教育の愚」では、日本中世の魅力以外にも、学校教育における歴史の授業の問題点や、「史実」と「物語」を混同した「歴史小説」の読み方の是非について語り合っている。

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(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2020年4月号)

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