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「日本の現行法体系では外出やイベント開催の禁止は困難」 - 吉田哲 (Wedge編集部員)

新型コロナウイルスの影響で国と埼玉県が自粛要請したにもかかわらず、格闘技イベント「K-1 WORLD GP」がさいたまスーパーアリーナで開催された。これはたとえ新型インフルエンザ等対策特別措置法による「緊急事態宣言」が出されたとしても、イベントを止めることはできなかった。「日本の現行法体系によって強制的に外出や集会を禁止することはできない」。内閣法制局長官や最高裁判所判事を務めてきた弁護士の山本庸幸氏は指摘する。

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新型インフルエンザ等対策特別措置法については、「緊急事態宣言」に関する「私権の制限」が話題となった。これに対し山本氏は「罰則の部分を見ても、『特定物資を隠匿し、損壊し、廃棄し、又は搬出した者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金』と『立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をした者は、三十万円以下の罰金』のみ。ほとんどのことは要請しかできない」と指摘する。

感染症拡大防止に向けての移動制限に対してヨーロッパや東南アジア諸国では罰金や禁錮といった罰則が設けられているのに対し、日本の特措法はそうした条項がない。諸外国と同様にすべきかどうかは議論が求められる。しかし、山本氏は「どのような罰則を付けても、守らない人は必ず出てくる。事実、道路交通法違反による反則金を払わない人が違反者の1割もいる」と現状を解説する。罰則で人は動くのか細かい検証が必要のようだ。

補償と合わせた「中止命令」は可能なのか

強制力や罰則がないものの、再三の要請を受けても格闘技イベントを〝強行開催〟した主催者側には資金繰りが苦しく運営を強いられている部分もあったという。こうした状況に対し、責任関係があいまいな「要請」ではなく、法整備を講じて「命令」という形にし、イベントの中止や延期への補償が必要であるという声も出ている。

これに対し山本氏は「これは地震や台風などの天災のようなものだから、皆でその負担に耐えるのが基本である。それでもこれは放っておけないという事案が必ず出てくるので、国や地方自治体が『補償』するというよりは、『救済』することを考えなくてはいけない」と主張する。

「現行憲法には『緊急事態条項』が設けられていないが、これは基本的人権の尊重と旧憲法時代の反省からである。したがって、公共の福祉の観点からどこまで個人の行動を制約するかということが問題となる。その点から、新型インフルエンザ等対策特別措置法による緊急事態宣言で危機を呼び掛けることは一つの施策だ。個人の危機意識を高めていくしかない」としている。もっとも、「今の程度の脅威であれば禁止はできないと思うが、更に事態が進んで致死率が高くなり急速かつ広範囲な蔓延となれば、公共の福祉の観点から、禁止ができないわけではない。ただ、これは憲法学の未踏の分野ではある」とも付け加える。

「地方分権」の下での公衆衛生行政

新型コロナウイルスに対しては、北海道の鈴木直道知事が「緊急事態宣言」を出し、大阪府の吉村洋文知事が大阪と兵庫の往来自粛を呼びかけるといった国の要請に伴わない〝独自〟の判断が起きている。「これは公衆衛生の最終責任者を都道府県知事としている地方分権の本来の趣旨に沿った望ましい動き」と指摘する。

「1993年に『地方分権の推進に関する決議』が衆参両院でなされ、これに基づいて地方分権改革一括法が成立した。それ以来、感染症への対応行政も、都道府県知事らが責任をもって行うことになった。国は技術的な指導はしているものの、基本的には地方公共団体の裁量の下で行われることになった」と解説する。

事実、感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)では、感染症患者の就業制限や入院措置、建物への立ち入り制限、交通の遮断などは全て都道府県知事が実施主体となっている。

ただ、今回の感染症の全世界的かつ急速な拡大といった緊急事態に対しては、国と地方が一体となった措置が必要となる。「公衆衛生の方向性をどのようにしていくかといった折り合いをつけていくのが国の仕事。組織の枠組みや、ガイドラインを作成するといったことが求められる」と強調する。

日本版「CDC」は機能するのか

こうした感染症への危機対応への注目が高まる中で、議論が沸き起こっているのが、米国などで政府とは別組織として感染症対策の陣頭指揮をとる疾病対策センター(CDC)の〝日本版〟の設立だ。

「現在の日本の政治状況や行政機構の常からすると、果たして実効性のある効率的な組織ができるか疑問」と指摘する。「国や地方は財政改革のために国公立病院の独法化や統廃合、保健所の整理を進めている。そういった状況で十分な予算と人員が確保できるのか、またこれら既存の機関との調整をどうするのか、難しい問題がある。それらをうまく解決して設立したとしても、組織として世間から評価され、理想とする運用を果たすことができるようになるには10年はかかるだろう」

また、現在は感染症の拡大という危機に直面していることから、多くの国民が必要性を強く感じているものの、非常事態でない時の運用も課題だという。「優秀な人材を雇い続けるには、それなりの待遇も必要になる。国から予算を出し続けることが有用であるのか、という声は出てきてしまうだろう」。活用されない〝ハコモノ〟にならないよう気を付けなくてはならない。

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