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”感染爆発前夜”にテレビが伝えるべきこと

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 筆者は「テレビ報道」が専門である。

 テレビ局で働いていた頃にはテレビのニュース番組、情報番組、ドキュメンタリーで何をどう伝えるべきか四六時中考えていた。

 大学の研究者になった今もテレビ各社の番組を日々注視しながらそれぞれの番組が何をどう伝えているのか、記録を取りながらウォッチしている。テレビ現役の頃から同業他社や同じ会社でも他の番組が筆者が取材するテーマをどのように取材して放送しているのか気になって仕方ない。

 いわばテレビ報道といえる人間に属するのかもしれない。それゆえ新型コロナをめぐるテレビ報道もほとんど細かく視聴している。

客観的にみて現在の日本は”感染爆発の前夜”である。

 都知事の言葉を借りてやや控え目に言うならば感染爆発するかどうかの瀬戸際である。

 そんな重大なタイミングでメディアとしての存在意義が問われている。

 そんな状況に際してテレビ報道が何を伝えているのかに注目した。

 2020年3月27日(金)

 首都圏の自治体トップがそろって週末の外出自粛を呼びかけた週末直前の金曜日だ。

 テレビ報道は何を伝えたのかをウォッチしていてみて2つの大きなトレンドがあることに気がついた。

 民放とNHKはともに危機意識がにじんだ報道をしているが、力を発揮させる重点がやや違う。

 比べてみると筆者が現役のテレビ報道マンだった頃とあまり変わっていない。

 組織力と人材の能力や発想の仕方の違いから以下の傾向でテレビ報道が行われていた。

(1)”映像重視”の民放

 民放の場合、報道現場の人間構成も様々である。とびきり優秀な人間もいれば必ずしもそうでもない人間もいる。

 取材する人間や番組を制作する人間の立場もテレビ局の正社員もいれば制作会社からの派遣社員、フリーに近い人までそれぞれ雑多だ。

 それゆえデコボコが大きい。当たり外れも大きい。

 どちらというと組織だった均一なパフォーマンスは苦手で、ゲリラ戦でライバルと闘うイメージだ。

 ゲリラ戦だから一発勝負だ。

 それゆえテレビ報道も街中で「いい映像」を撮れたかどうかの一発勝負に賭ける。

 テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』が”民放”のテレビ報道の代表的な例だ。

 この日、同番組が伝えたのは東京都知事が「外出自粛」の要請を行った25日の深夜の高田馬場の駅前の様子を撮影した映像だ。

 肩を組んで合唱する若者たち。

 駅前で大縄飛びをしてぴょんぴょん飛び跳ねる若者たち。

 高田馬場駅の近くはマンモス大学や小規模の大学などがある。

 身を寄せ合って話し合い、小突き合ったりしている。

 ボカシが入っていて顔まではっきりとわからないものの映像の内容は伝わってくる。

 泥酔して路上で眠っている若者。

 寝込んだ状態で腕をひっぱられる男子学生。

 男子学生に抱きかかえられて上半身を起こされる女子学生。

寝転びながら「濃厚接触」する若者たち。

 もしもこの若者の中に仮に新型コロナウィルスをもった人間がいたなら、その場にいた少なくとも数十人の若者たちにウィルスが広がるだおうと思わせるに十分な映像だった。

 知事が「外出自粛」を呼びかけても気にせずいつもと同じように飲み歩いて騒ぎをする若者たち。

 いかにも青春という光景。平時であれば微笑ましい光景なのかもしれない。

 ただし平時であるのならば・・・。

 『羽鳥慎一モーニングショー』では、VTRの映像を受けて、岡田晴恵・白鴎大学教授が不安を口にしていた。

(岡田晴恵教授)
「この疾患(新型コロナ肺炎)が御せないというのはサイレントキャリアがいっぱいいるからなんです」

(羽鳥慎一キャスター)
「症状が出ていない人が・・・?」

(岡田教授)
「だからこの(東京都で新たに明らかになった感染者の)数字にサイレントキャリア(の数)が上乗せされて、そのサイレントキャリアが自覚なく(ウィルスを)運んじゃうところが怖い」

 岡田教授の説明のときに図解のためのボードがうつし出された。

 実際に人がウィルスに感染してから行政側に報告があるまでに2週間弱かかることを示す図だ。

感染→(平均約5日間)→発症→(平均約8日間)→行政に報告

「平均約2週間前に感染明らかに」

 高田馬場駅の近くで深夜に肩を組んで泥酔していた若者たちがもしサイレントキャリアだったとしたら、感染者として行政側が把握するまで2週間近く後までかかるということになる。考えながら映像を見ると非常に怖いことだ。万が一にも感染者が出た場合にも泥酔しているので本人たちにも正確な記憶はないだろう。

 むやみやたらと接触し合っているので、仮に集団を特定できたとしても他の感染者の把握はかなり困難かもしれない。  

 若者たちの深夜の様子を撮影した映像はゲリラ的な取材を日々行っている民放のワイドショーらしいものだった。

 『モー二ングショー』はこうした映像を重視した報道で「外出自粛」などの要請に従うこともない若者たちの生態を克明に映し出した。

(2)”データ重視”のNHK

 一方、NHKの報道は礼儀正しく、組織的なパワーでやってくる。

 民放が氏素性が雑多なゲリラ部隊だとするならば、NHKは組織的な正規軍というイメージで民放のようなデコボコ感はなく、個々の人たちの能力も平均以上の人たちが集まっている印象だ。

 『ニュースウォッチ9』は記者たちが全国的な状況を調査したデータを元に”データ・ジャーナリズム”と言われる手法で新型コロナへの対応で使える病床の数をグラフ化して伝えていた。データ・ジャーナリズムというのはデータを元にしてそれまで知られていなかった事実を伝える調査報道だ。

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 この日、NHKが番組の中で示したのは、全国の都道府県が新型コロナウィルス患者用に確保している病床の数(黄色)とそのうち使用している病床の数(黄色)だ。

 NHKが各都道府県に取材して入手したデータだという。

 報道で明らかになったことは大都市圏で病床の空きが少なくなっている現状だ。

中でも東京ではすでに空きがゼロ

 140床を確保していたが、入院が必要な患者はきのう時点で223人で不足していた。

 足りないため、一般の医療機関の協力でなんとか病床を確保している現状だという。  

 しかし、その一般の医療機関も新型コロナウィルス患者のために提供できる病床は限られていて、NHKが取材した昭和大学病院では感染症に対応した病床あわせて35床のうち新型コロナウィルス患者の受け入れ可能なのはわずか1床に過ぎないという。

(昭和大学病院・二木芳人教授)
「全部をコロナの患者さんのために使ってしまうことはできない。
ほかの高度の医療を必要とする患者がたくさんいるわけで
そういう方々への医療も崩壊させてはいけない」

 そうした現場の声も取材して放送している。

 さらに今後に向けて不安を残すのが以下の数字だった。

 現在、全国で確保されている病床の数は4800床あまり。

 一方、感染拡大時を想定した厚労省の推計データを元にピーク時に入院が想定される患者の数を単純集計すると約22万9500人'''。

厚労省は全国で同時にピークを迎えることはないなどと説明するが、病床の数は圧倒的に足りないのだ。'''

 東京では前述したように140床を確保していたもののすでに満床。

 ピーク時には入院が必要な患者は約2万1000人と推計されている。

 都ではホテルの活用などで病床を確保しようと検討していることが伝えられた。

 感染爆発がギリギリの状態だと都知事が表現した状況になっているのに、病床の数が圧倒的に不足する恐れが出ている。

 このままではイタリアで起きたように医療崩壊という事態になって多数の死者を出しかねない。

 そうした恐ろしい実態を「データ」で伝える調査報道だった。そのデータをCGのグラフで表示するビジュアリゼーション(映像化)も高いスキルを示すものだった。

 こうした組織的な調査報道はNHKのように記者などの質がそろっていて数も多く、しっかりしたテレビ局でないと実現させることは難しい。

 民放で働いた経験が長い筆者の実感でも、民放ではかなり無理なことだと考える。

組織的な調査で「データ重視」のNHK

      X

ゲリラ的な「映像取材」で決定的な映像を狙う民放

 それぞれアプローチは違ってもそれぞれの得意技を生かした取材手法で「感染爆発」を阻止できるような報道をしてほしい。

 感染爆発の瀬戸際とされる週末がいよいよやってきた。

※Yahoo!ニュースからの転載

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