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勝間本に見る、おカネを払う対象としての本の機能低下 -iPad発売と、出版の今後-

前回のエントリで、本が人々からおカネを取りづらくなっていること。なかでも、「ご利益を提供する」と謳うことでおカネを得ていると書いた。今回はもう少し「ご利益提供型コンテンツ」を掘り下げてみたい。

「ご利益提供」のなかでも、自己啓発で最も代表的なベストセラー作家は勝間和代さんだろう。この半年で出した本は、実に12冊!2週間に1冊は出しているという、超・ハイペースだ。

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勝間式「利益の方程式」 ─商売は粉もの屋に学べ!─作者:勝間和代
出版社/メーカー:東洋経済新報社
発売日: 2008/04/04
メディア:単行本(ソフトカバー)
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本が売れないというなかで、なぜ勝間本は売れているのだろうか。売れている理由の一端を実は勝間さん自身が明かしている。普通は売るための手段というのは絶対に明かさないものだが、実にあっけらかんと語っている。それは「利益の方程式」という勝間和代さんの2年前の著作にあった。まず、自己啓発本が買ってもらうために、どんな心理に訴えているのかということ。やや長いが引用すると−
顧客価値について例外なく、高い単価を得ることができる市場があります。それは何かというと、自分の持っているとても大きな課題を解決したいという根源的なニーズ、すなわち「コンプレックス市場」です。(中略)コンプレックス市場とは、たとえば薄毛、肥満、英語、しわ・シミ取り、豊胸、金儲け、出世、恋人探し、子どもへの教育などがその典型です。しかも、このようなコンプレックスの多くは加齢による不可逆な変化だったり、あるいは生活習慣の改善など一定の努力を伴うものだったりするのですが、多くの消費者は辛いこと、苦しいことが苦手なため、あるいは加齢のような自然現象を認めたくないため、多くの消費をこの市場に落とすことになります。

(中略)コンプレックスの解消に対してカタルシスを与える、あるいはコンプレックスの解消に対して簡単な方法で解決策を提供すると、爆発的なヒットも生まれます。新書で言いますと、たとえば女性の品格 (PHP新書)下流社会 新たな階層集団の出現 (光文社新書)がなぜあんなに売れたのかということを思い出してみると、わかりやすいかもしれません。

(太字は原文ママ)

自己啓発本は、コンプレックス市場。それを、当事者自身があっさり明かしている。そして縮み続ける書籍市場で、自己啓発本の存在感が増しているというのは、おカネを払ってもらう対象として、本が増毛剤やダイエット食品と同じ範疇に入ってきたということを意味している。紙か電子か、国産ブックリーダー待望などど言っているあいだに、すでにおカネを払ってもらう存在としての機能が本から失われてきているのだ。

ただコンプレックス市場であっても、出版業界にとって、それが延々と続く鉱脈であればいいとも言える。自己啓発本で食いつなぐという発想もあるだろう。だが、自己啓発本の隆盛も長くはなさそうだ。やはり「利益の方程式」に、自己啓発本が縮みゆく市場であることを示唆するかのような記載がある。
団塊の世代や団塊ジュニアの世代の特徴は、その前後の世代に比べて、一学年当たり20〜40%ぐらい人口が多いことです。(中略)団塊世代や団塊ジュニア世代を起点としたマーケティングはヒットにつながりやすいという利点があります。

たとえば、私の書籍はメインターゲットをロスト・ジェネレーションと呼ばれる、現在30歳前後の就職氷河期を過ごした団塊ジュニア世代とそのすこし下の世代と位置付けています。そして、その世代の問題を解決するということを念頭に置いて、いつも語りかけをしているつもりです。

団塊ジュニアというのは1971〜74年生まれの、現在30代後半から40歳手前の世代だ。年功序列はとっくに終わり、少し上には大量のバブル世代が覆いかぶさり、昇進もままならない。右肩上がりの成長は終わり、会社も自分も先行き不透明。上の世代の生き方がロールモデルとして機能しない、いわば答えなき世代だ。けれど、バブルの残滓に触れたことがあるだけに、今の20代のように最初から諦められるほどわけでもない。そんな迷える世代の「コンプレックスの解消に対して簡単な方法で解決策を提供する」。それが自己啓発本なのだ。

だが、団塊ジュニアが「簡単な方法で解決策を提供する」ことに飛びつくも長くはない。なぜなら、団塊ジュニアが40代に突入する数年後には、答えが出てしまうのだ。40代になる頃には会社での昇進も、自分の天職可能性も、すべて見えてしまう。あと数年で、団塊ジュニアにとって簡単な方法ではコンプレックスは解消されなかったことがはっきり明らかになってしまうのだ。

世代だけではない。自己啓発本のブームがそんなに長くないと勝間和代さん自身が認識しているであろうことは、勝間さんの最近の行動、著作からも推測できる。「利益の方程式」では、商品の普及の段階ごとに、顧客をイノベーター(冒険的で最初に革新的な商品を使う人たち)、オピニオンリーダー(自ら情報を集め、判断を行える人たち)、アーリーマジョリティ(既に採用する人たちに相談して追随的に採用する人たち)、レイトマジョリティ(情報について疑い深く、流行っているからという、世の中の普及状況を見て模倣的に採用する人たち)、ラガード(最も保守的で最後に採用する人たち)の5段階で分ける有名な手法を紹介している。そして、レイトマジョリティの攻略法について、次のように書いている。
複数の人たちから推奨を受け、かつ、著名なメディア等が取り上げて、薦めてくれることが安心感につながります。


最近のバラエティなどでの勝間和代さん自身のテレビ露出の急増は、まさに「著名なメディア等が取り上げて、薦めてくれること」を目指しているように見える。

さらに、多くの人に受け入れられやすいように、本のタイトルも微妙にシフトしてきている。3年前のブレイク当時のタイトルが、無理なく続けられる 年収10倍アップ勉強法無理なく続けられる年収 10倍アップ時間投資法お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践 (光文社新書)のように、結果がはっきりしたご利益を前面に打ち出している。だが、最近のタイトルは不幸になる生き方 (集英社新書) (集英社新書 547C)女に生まれたら、コレを読め ~○活必勝法~結局、女はキレイが勝ちのように、結果が明らかに見える効能よりも、生き方という、より努力を必要としない、受け入れやすい「コンプレックスの解消に対して簡単な方法で解決策を提供」しているのだ。

本を読んだ結果、実際に年収が10倍になる人など、(当たり前だが)まずいない。それでもなお、いかにメディアのなかで消費される自分を延命するか。知名度を高め、一気に売れるだけ売っておくか。自分自身を商品として認識し、その消費サイクルを自覚しているように見えてしまう。

勝間和代さんは本の売り方について、まさに確信犯だと言える。それは、ダイエット、エステサロンと同じ売り方だ。勝間本の成功、それはおカネを払って得る娯楽、あるいは情報の取得手段として、本が著しく受け入れられなくなっていることの証だろう。勝間本のヒットは、機能低下している出版業界にとっては、福音ではなく、実はアダ花と言えるのではないか。

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