- 2020年03月27日 11:15
「新型コロナ暴落」を尻目に中国・ロシアがゴールド爆買いに突き進むワケ
1/2ドルが安全資産として買われる非常事態
新型コロナウイルスの感染者の世界的な拡大を受けて株式市場が大きく下落。その一方でドルが買われるなど、市場構造に異変が起きている。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/claffra
市場が不安定化した場合、投資家は資金を米国債や金などに移すのが常識だった。また、FRB(米連邦準備制度理事会)が利下げを行うことで米金利が低下し、ドルが売られるのが通常のパターンであった。
ところが2月後半以降の株安の加速におけるドルの位置づけは、明らかに変わってきている。ドルがむしろ「安全資産」として買われるようになり、ドルが市場で不足する事態になっているのだ。
実はこうした状況は、2008年の金融危機の際にも見られた。しかし、今回の新型コロナウイルスの感染拡大に端を発した株安は、その背景が金融危機の際とは大きく異なる。そのため当時とは単純には比較できないものの、株価の下げ方については、そのスピードは当時よりもはるかに速いのが実態である。
「GMのコロナショック版」
当時と今回の株安局面で決定的に違うのは、金融機関が資金不足になっているわけではない点である。むしろ、心配なのは一般企業である。各国政府による移動制限などで、消費が著しく落ち込んでおり、これが様々な業種に悪影響を与えている。
とくに各国政府が国内外で移動制限を加えていることから、航空業がきわめて厳しくなっており、航空機大手ボーイングの資金繰りが懸念されている。リーマン・ショックの際には、米自動車大手のゼネラルモーターズ(GM)が破綻したが、これになぞらえて、現在のボーイングを「GMのコロナショック版」などと揶揄する声も聞かれる。
収入が途絶えた企業は資金不足となり、倒産の危機が迫っている。しかし、今回のショックは、各国による財政出動により回避されるだろう。むろん、ウイルスの死滅やワクチンの開発、そして何より感染拡大の防止こそが根本的な解決策であることは言うまでもない。
秘匿性のある安全資産としての「金」人気
さて、不安定さを増す金融市場だが、各国の中央銀行が金利を引き下げていることから、世界中の国債利回りが低下している。その結果、金利のつかない金への注目度は近年にない高まりを見せている。
金には安全資産としての魅力もあり、現在のような金融市場の混乱期には、金市場は資金の逃避先としても扱われることになる。金には国籍がなく、どこでも同じ価格で換金できることから、これまでも現金の代替先として扱われることが少なくなかった。
金には所有者にとって秘匿性があり、保有しておくことで資産保全において安心感を得ることができる大きなメリットがある。また、換金性が高いため、いつどこでも現金化が可能である。だからこそ、金は資産家や富裕層に人気があるわけである。
現在は資金不足になった投資家の換金売りにより金価格は高値から下げているが、最終的にはそれほど大きく下げることはないだろう。というのも、各国政府・中銀にとって、金はきわめて魅力的だからである。
中・ロを中心に進む「金の爆買い」
そう感じるのには理由がある。近年、これらの公的機関は着実に金保有を増やしているという事実があるのだ。その中でもとくに目立っているのが、中国とロシアである。
金の調査機関であるワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、2019年末時点のロシアの金保有高は前年比158トン増の2271トンとなっている。また、中国は同95トン増の1948トンで、世界の公的機関の中でそれぞれ6位と7位に位置付けられている。

このほかに金保有高を増やした国としては、保有高10位のインドが34トン増の633トン、14位のトルコも159トン増の412トンに増やしている。また、15位のカザフスタンも35トン増の385トンとし、23位のポーランドも100トン増の228トンとしている。
米国債を売って距離を置きたいワケ
2019年の金価格は平均で前年比9.8%上昇したが、それでもロシアと中国は金保有高を増やしている。それだけ、金を保有したい理由があるのだろう。
両国は米国債の保有を減らしているが、この行為は米国との金融面の関係を断ち切ろうとしているように見える。しかし、米国から厳しい制裁を受ける両国が、基軸通貨であるドルを発行できる米国と距離を置こうとするのは当然であろう。
その一方で、米財務省が発表した1月の国際資本収支統計によると、国別の米国債保有残高で2位の中国の保有額は、前月比87億ドル増の1兆786億ドルとなっている。中国の保有額が7カ月ぶりに前月比で増加に転じたことは興味深い。
中国は、米国から関税による制裁を受けており、それにより経済が疲弊している。米国に自国の経済を揺さぶられるのは、世界一の大国になる野望を抱く中国からすれば許せない行為であろう。ドルという基軸通貨を利用して揺さぶられれば、さらに困ることになる。
そのような事態を避けるためにも一定額の米国債を保有しながら、中国が逆に米国を揺さぶることができるように、万が一のために外貨準備高も一定額を保有しつつ金保有を増やしているといえる。

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