7月12日に投票が行なわれる東京都議会議員選挙の結果如何によって、多少の日程のズレは生ずるだろうが、我々、衆議院議員の残された任期は9月10日までだ。いよいよ天下分け目の総選挙まで秒読み段階に入った。
今回の総選挙は、「政権交代」を賭けた戦いになる。ただ、政権交代は手段であって、目的ではない。政権交代によって何が変わるのか。政権交代によって何を変えようとしているのか。政権交代が現実味を帯びているからこそ、民主党はしっかり国民に説明しなければならない。
究極の目的は、国民の自信と誇りを取り戻し、「やりがい」「生きがい」「安心」を国民が実感できる政治を行うことにあると私は思う。
では、そのために何を変えるのか。ポイントは以下の3点だ。
(1) 税金の使い道を変え、国民の生活を変える
(2) 国と地方の関係を変え、地域主権を確立する
(3) 現在の「戦略なき国家経営」を変え、10年先、20年先のあるべき国家ビジョンを定め、その実現に政府を挙げて取り組む
(1) 税金の使い道を変え、国民の生活を変える
日本は今、幾つかの重要な課題を抱えている。一つは急速に進む少子長寿化。二つ目は人口の減少(2005年に人口は減少傾向に転じた)。三つめは、国と地方が抱える莫大な長期債務(GDPが約500兆円の日本にあって、財投債を含めて長期債務は900兆円以上あると言われている)。4点目が相対的に下がり続ける学力(3年に一度行われるOECD加盟35カ国の学習到達度調査「PISA」では、科学、数学、読解力とも世界における順位が下がり続けている)。さらに、1.37しかない合計特殊出生率、約40%の食糧自給率、約18%のエネルギー自給率(原子力を含む)も深刻な課題だ。これらを合わせて考えると、日本が特に力を入れなければならない政策分野は、自ずと定まってくる。医療・介護・年金といった社会保障の安定・充実、少子化対策(子育て支援も含む)、教育、食糧自給率、エネルギー自給率の向上などだ。
特に社会保障の充実を行なうと、経済におけるお金の回り方も変わってくる。約1500兆円あると言われる個人の金融資産の内、60歳以上の方々が65%以上持つとも言われているが、老後の不安が強いため、なかなか消費に回らない。仮に年金・介護・医療が充実してくると、そのような方々に消費の意欲が生まれ、経済にもプラスの影響が出てこよう。
しかし、これらの政策を行おうと思えば財源が必要となる。増税、借金(さらなる国債の発行)も選択肢だが、まず、歳出の中身を徹底的に見直すことによる「ムダの削減」が重要だ。それでは、どうやって歳出の見直しをすめるべきか。取組むべき主な分野は3つある。
① 国の財源・権限をできるだけ地方に移譲する「地方主権化」
② 天下り、公益法人、特別会計といった「官の既得権益」にメスを入れる
③ 公共事業(特に道路と河川)の見直し
「地方主権化」については後述する。「官の既得権益」に関してだが、現在、国の公益法人は約4500あり、そこで天下り生活を謳歌している官僚OBは2万5千人以上にのぼる。そして、これらの公益法人に流れている補助金は年間約12兆1千億円だ。民主党が政権を担えば、天下りはすべて禁止し、公益法人もゼロベースで見直す。公益法人の財布にもなっている特別会計は一般会計と統合し、透明性を高める。これだけでも相当のお金が浮いてくる。
公共事業も、かなり減ったとは言え、まだまだ無駄が多い。民主党が訴えた道路特定財源の一般財源化は「歳入の一般財源化」という麻生総理(恐らく官僚の入れ知恵だろうが)の理解不能な「レトリック」によって骨抜きにされているので、本当の意味での一般財源化を行い、教育や社会保障、省エネ・環境対策などに使えるようにしなければならない。
また、全国140ヶ所以上で建設が行われている大型ダムや河口堰の建設計画も、一旦すべて店卸しをして、進めるべきか白紙撤回するかを精査する必要がある。
税金の無駄遣いを徹底的に無くし、本当に必要な政策分野に使い道を変える。これこそが、政権交代の大きな意義の一つなのだ。
(2) 国と地方の関係を変え、地域主権を確立する
明治維新以来続いてきた中央集権体制を、地方主権に変えるというのは口で言うほど生易しい話ではない。霞ヶ関の権限を地方に大幅に移す話なので、霞ヶ関の強い抵抗も予想される。しかし、国の権限、財源を基礎自治体に移譲することは、以下のような4つの大きなメリットがある。
① 地方主権化は究極の行政改革。現在、日本の行政構造は、国、国の出先機関(地方整備局、農政局など)、都道府県、市町村の4層構造からなっているが、国の出先機関は基本的に不要であり、基礎自治体に出来る限りの権限・財源を委譲すれば都府県も仕事はほとんどなくなる。河川管理など広域で行う必要性のある行政ニーズは、緩やかな道州制を作って行えば、2.5層から3層構造に簡素化することは可能だ。そのことによって、人員の大幅な削減と意思決定スピードの向上が期待される。
② 地方主権化は、地域の潜在力のふたを開けることにつながる。現在、地方自治は「3割自治」と言われるように自主財源に乏しい。国からの交付税、使途の決められた交付金、国による起債の認可、事業の許認可も絡む補助金など、言わば「箸の上げ下ろし」まで国が関与している状況だ。国による、これらのコントロールを地方から解放すれば、思い切った地方自治が行えるようになるだろう。そうすれば、首長が予算編成時に霞ヶ関や国会議員の事務所に要望に行く必要もなくなるのだ。
③ 地方主権化は、行政サービスへの住民参加をさらに広げることにつながる。公の仕事は、何もすべて行政がやる必要性はない。地域のボランティアやNPO,民間企業に任せてもいいはずだ。国によるコントロールがなくなれば、地域ごとの特性、ニーズにあった住民参加型の行政運営を、行えるようになれる。特に、これからは長寿化が進む。仕事をリタイアされた方々や子育てを終えた方々に、今までの経験、知識、ノウハウ、人脈などを活かして、教育、農業、間伐、観光案内、介護、ホスピスなどに参加してもらえれば、行政のサービスは安価で、より充実したものになるだろう。
④ 地方主権化は、国のやるべき仕事を絞り込み、より戦略目標を持った国家経営をやりやすい環境を作ることにつながる。
(3) 現在の「戦略なき国家経営」を変え、10年先、20年先のあるべき国家ビジョンを定め、その実現に国家を挙げて取り組む。
日本に国家戦略があれば、これほどの借金大国にはならなかっただろう。また、安全保障はアメリカに過度に依存し、食糧自給率やエネルギー自給率、合計特殊出生率が、これほど低くなるまで放置をしてこなかっただろう。あるいは、農業の問題があるからと言って、本来、日本のような国が最も進めるべきであるFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)を後手に回してはこなかっただろう。大切なことは、10年後、20年後に、例えば今、列挙した問題を、どの程度まで改善するかという具体的な数値目標と達成年限を国民に示すことである。政治がリーダーシップを発揮して、国民を鼓舞し、目標に導いていく「決意」が問われている。それを政権交代によって実現したいと思う。
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- 2010年06月22日 00:00