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入学準備も困難… コロナウイルス流行拡大がシングルマザー家庭の生活難に追い打ち

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「非正規8割 就労収入100万円以下9割 貯金ゼロ23%」――。

そんなくだりが一際目を引く冊子が手元にある。タイトルは「(認定NPO法人)しんぐるまざあず・ふぉーらむ リポート2020.2」。同法人が2019年に実施した「新入学お祝い事業」の受給者を対象とした調査結果がまとめてある。

シングルマザー家庭の生活実態は、想像よりはるかに厳しい。新型コロナウイルス・ショックは当然のこと、普段から経済的に苦しいシングルマザーたちを襲った。季節は春。減収、臨時一斉休校に加え、新入学・新学期の準備がある。新型コロナショックで玉突き的にできた「長い春休み」は、彼女たちの暮らしを一変させている。【フリーライター・小林ゆうこ】



コロナで採用取り消しに、新入学準備ができない

春から高校に進学する娘を持つ東京都内在住のシングルマザー・Sさん(38歳)は、3月から予定していた飲食店のパート勤務採用を、直前になってキャンセルされたという。新型コロナの影響で店の営業が思わしくなく、パート従業員は必要なくなったと電話で告げられた。

「東京都では公立中学・高校の授業料は無償化されているにしても、入学となれば、制服、カバン、ジャージ、教材や定期券代などで10万円近くかかります。生活費の埋め合わせにと、時給のよいパート先に移ることにした矢先でした」

それなら新しいパート先を探そうとハローワークに行ったものの、募集はなかった。

「入学準備をどうすればよいか、時間ばかりが過ぎていきます」と、Sさんは途方に暮れる。

休校による昼食代1万円の支出に苦労

認定NPO法人「八王子つばめ塾」事務局長の小宮位之さん

「突然の一斉休校でしたからね。まるで急ブレーキをかけて止まった車のように、あちこちに不具合を起こしたと思います」。そう語るのは認定NPO法人「八王子つばめ塾」事務局長の小宮位之さん。

「子どもたちにとっては3学期末に学校で習うはずの単元がすっぽり抜けてしまったし、子どもを無料塾に通わせる親御さんにとっては、休校のため給食に頼れない20日間の子どものお昼代、その1万円の支出が苦しいという声が多くありました」

経済的な理由で有料の塾に通えない中高生のために、脱サラで無料学習塾を開設して7年。八王子市内6教室で70人の生徒をボランティアや大学生の協力で教えている。塾生の半数近くが母子家庭の子どもたちという。

「私が無料塾を始めたのはリーマン・ショックから4年後の2012年でした。経済的に困窮するひとり親家庭にとっては、いまの新型コロナはその第2波のように見えます」

つばめ塾では、寄付された食料品を塾生たちに無償提供している。この1年間に手渡した総量は、お米595キログラム、パスタ247キログラムに及び、3月には臨時贈呈し、返済不要の奨学金のための追加寄付を募っている。希望する塾生は多く、保護者からは感謝の声が絶えないという。

「シングルマザーは典型的なワーキングプア」

コロナ禍で困窮するのはシングルマザーばかりではないが、彼女たちの生活は、今後ますます厳しくなっていくだろうと、『女性と子どもの貧困〜社会から孤立する人たちを追った』(大和書房刊)の著者でノンフィクションライターの樋田敦子さんは指摘する。

「日本のシングルマザーは、典型的なワーキングプアです。就業率は約81.8%(平成28年の厚生労働省調査)で世界一ですが、正規職員として働く人は約44%で半数以下、非正規雇用もほぼ同数」

そう現状を説明し、続けた。「平均収入は年に223万円で、貧困率も世界一。一生懸命に働いても生活は苦しいまま。日本という国は、つくづくと女性にセカンドチャンスを与えない国だなと感じます。いま真っ先に雇用止めに遭っているのは、非正規社員やパートのシングルマザーたちではないでしょうか」

樋田さんがこれまで取材で出会ったシングルマザーのなかには、料金が払えないため水道を止められ、公園で子どもと一緒に水を汲んだという人や、貧困に悩むあまり精神を病み、生活保護から抜け出せない人もいたという。著書には、様々な事情から虐待したり子どもを殺めたりする母親が何人か登場する。

「いまは誰もが〝コロナ鬱〟ですが、シングルマザーたちはもともと地域で孤立している人たちもいる。今後、精神的に追い詰められる人が増えるのではと心配しています」

ノンフィクションライターの樋田敦子さん

コロナによる職場混乱でネット炎上、背景に自己責任論

一斉休校の真っ只中だった3月中旬、ネット上でちょっとした炎上騒ぎがあった。

「休業した子育て世帯への1日8330円補償」や「休業したフリーランス・自営業者への1日4100円補償」といった新型コロナによる休業対策に加え、「子育て世帯へ一律3万円給付・案」が浮上、メディアが伝えた直後のことだった。

その火元は独身で働く女性たち。「独身者にゼロ補償は不公平だ」との怒りが巻き起こり、その応酬は、「国民分断差別支給だ」といった極論にまで発展した。ともかく独身側の意見は次のようなコメントに集約される。

「一斉休校中の子どもの世話で仕事を休む母親たちのシワ寄せを、カバーするのは、私たち独身の同僚なのに、なんで補償がないの?? 」

このコメントを見て、知人のシングルマザー(40歳、スーパーのパート勤務)は言った。

「母親と独身では立場が違うので、意見の食い違いはよくあることだけど、やはり日常的に独身の同僚がシングルマザーを見る目は、どの職場でも厳しいものがあります。離婚したのは自己責任でしょ…という風潮があるみたい」

その自己責任論もまた世間の誤解や偏見から生まれていると、彼女は言う。

「シングルマザーが離婚した理由の多くは、暴力とか生活費を渡さないなどの夫によるDV。そこから逃れて子どものために自立したいというのが実情でも、世間の目にはワガママな母親としか映らない。離婚した女へのペナルティーのようです」

児童手当に上乗せを 支援団体は訴え

3月12日(木)、シングルマザーの当事者団体や支援団体が都内で記者会見を開き、「子どもひとりに3万円の臨時給付金を」という政府への要望を発表した。

会見では、冒頭でも紹介したNPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむから、新型コロナにまつわる会員向けアンケートの結果も示され、半数近くのシングルマザーから「収入が減る見込み」という回答があったという。理由として挙げられたのは、「自宅待機命令」「シフトの変更」「勤務時間の減少」など。

赤石千衣子代表は語った。

「補償の届かない方がいるという危惧を持っている。困っているところに直接届く施策の方が効果は高いと思う。給付金については、中学生以下の子どもを持つ家庭に支給されている児童手当(1万〜1万5千円)に上乗せして欲しい」

同席したNPO法人キッズドア(東京都)の渡辺由美子理事長は、新学期の時期ならではの特殊事情を指摘し、給付金の早期支給を訴えた。

「新入学、新学期を迎える春は、子育て家庭にとってもお金が必要な時期。既存の制度を使うことで、スピーディーに支給することが可能だと思う」

Getty Images

米の緊急配送に嬉し泣きも

支援団体が早期の支給を訴えるのには、実は大きな理由があるようだ。

子育て家庭に支給される手当には、子どものいる家庭にもれなく支給される児童手当と、ひとり親家庭に支給される児童扶養手当がある。児童扶養手当については昨年秋から、支給月が年3回から6回になったものの、それが奇数月となったため、4月には支給されなくなってしまった。

児童手当の支給は2、6、10月とこれまで通り年3回だが、こちらも4月の支給はない。手当が期待できなくなって迎えたこの4月に、新型コロナショックが追い打ちをかけたというわけだ。

しんぐるまざあず・ふぉーらむでは、「一斉休校を乗り切るcomeプロジェクト」と銘打って、全国にいるシングルマザーの家庭1000世帯あまりに、1袋2キログラム入りのお米を緊急配送したという。

「ママと子どもたちの大変な春に、お米をお送りします」と記したプリントを同封して。あるシングルマザーから寄せられたコメントについて、関係者たちのSNS上で、こんなやりとりがあった。

「お米を送った感想にお礼とともに『じゃあ今日は雑炊じゃなくていいねー』と子どもが言いましたというのがあり、つい泣けてくる今日。現在のことだ。戦時中じゃない。怒。」

「本当に、ご飯が十分に食べられない子どもがいるような社会はおかしい」

まさに、それがシングルマザーの現実。一刻も早い現金支給を求める政府への要望が、決してオーバーな物言いではないことを窺わせる感想だ。嗜好品やお菓子などではない、お米を買うお金にも事欠くシングルマザーは、他にも何万人といる。



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