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わざわざ検査をしたのに、医者が本格的な治療を後回しにするワケ

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なぜ医者は「様子を見ましょう」といって、さっさと本格的な治療に移らないのか。病理医の市原真氏は「患者からすると不安が増幅されるかもしれないが、決して怠慢ではない。一部の病気は、本質的に、時間をかけないとわからない。医療とは詰将棋のようなものだ」という――。

※本稿は、市原真『どこからが病気なの?』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。

Doctors discussing with senior man while using digital tablet※写真はイメージです - iStock.com/Nikada

時間をかけない限り正解にたどり着かない

患者が病気であると診断することは、「未来を予測し、備えて行動をすること」である。

たとえば今、痛みや苦しみがあるとして、それが将来消えてなくなると予測できれば、治療をしなくていいという行動を選択できる。

あるいは逆に、痛みがどんどん強くなるだろうとか、苦しみの先に生命の危機があるだろうと予測するならば、診断はとりあえず後回しにしてでも早く処置をする。

これらはいずれも、「すぐわかる病気」に対する対処であり、「すぐ動いた」例である。

では、逆に、「なかなかわからない病気」に対しては、医療はどう対処しているのか。まず、医者目線から話をしよう。

一部の病気は、本質的に、時間をかけないとわからない。一握りの有能な医者ならすぐわかる、という意味ではなく、どんな医者がみても、時間をかけない限り正解にたどり着かない病気があるのだ。

医者が言う「様子をみる」とは?

たとえば、咳喘息という病気がある。

この本は病気をひとつひとつ丁寧に解説する医学書ではないので、詳しい説明は省くが簡単にイメージだけ書いておく。

咳喘息は、咳の発作があるときに患者はとてもつらい思いをするけれども、咳がないときには検査をしても異常が見つからない病気だ。そして、患者が病院を受診するのはたいてい、症状がないときだ。

医者は、毎日のように咳で苦しんでいる患者に、まずは詳細な聞き取りを行う。夜間に呼吸が苦しくなりましたか、以前からこのような症状は出ていたのですか、季節による変化はありますか、咳をするときどんな音がしますか、タンは出ますか、何かお薬を飲んでいますか、アトピー性皮膚炎にかかっていますか……。

患者はそれに答えていく。

その後、聴診をして肺や気管支の音を聞いたり、ときにはレントゲンをとったり、呼吸機能検査を追加したり、血液検査をすることもある。

けれども、診察室で発作が起こっていない場合、決定的な証拠はなかなか見つからない。咳がひどくて夜中に救急車を呼んだけれど、病院についたときにはもう治まっていた、なんてこともある。

ビシッと診断を決めてくれればいいのに……

そういうときに、医者は、このような言い方を用いて、初回の行動を選択する。

「お話をうかがう限りでは、おそらく咳喘息でしょう。この吸引する薬を使ってみてください。使い方は看護師から説明しますので、守ってくださいね」

そして、さらにひと言、こう付け加える。

「もしこの薬を使ってみて、よくなったら、咳喘息です。引き続きうちに通ってください、薬を出しましょう。ただ、この薬が効かないようだと、他の病気の可能性があります。その場合は別の治療を行いますので、この薬が効いても効かなくても、またうちにかかってください」

この「効いても効かなくてもまた受診してくれ」というセリフに、私自身は誠意を感じるのだが、それは事情をわかっている医者目線で見ているからかもしれない。患者目線からすると、きっとこのセリフの受け止め方は異なるだろう。

(なんだよ、咳喘息じゃないかもしれないのに、咳喘息の治療を始めるのか。ビシッと今日診断を決めてくれればいいのに。しかもまた病院来なきゃいけないのかよ……)

患者はもう少し、「早くわかる医療」を望むはずであり、医者のチンタラした対応にはたぶん不満だと思う。無理もない。わざわざ病院にかかったのに、その日に解決しないというのだから……。

時間の経過を診断や治療に利用する

でも、これは、咳喘息「疑い」の人に対するおそらく一番誠実な診療である。

発作がないときに診療している限り、どうしたって情報が足りない。だから、咳喘息の可能性が高いとわかった時点で、あたかも見切り発車のように咳喘息の治療を開始して、それが効くかどうか様子をみる。

効果があれば、当初の読み通り、咳喘息と診断確定して、引き続き同じ治療を続ければよい。もし薬が効かなければ、それはそれで、「咳喘息を否定する」という診断ができる。次に病院に来たときには、他の病気に対する検査を追加したり治療を選びなおしたりすればよい。

「病気がわからない」のではなく、「行動すればいずれわかる」
イラスト=うてのての

この場合、医者は、薬が効いても効かなくても一歩前進だ、と思っている。時間をかけて手順を重ねればいずれわかるだろうと踏んでいる。「病気がわからない」のではなく、「行動すればいずれわかる」という考え方である。

医療というのは、時間軸を利用して行うべきものなのだ。時間の経過を、診断にも、治療にさえも利用する。薬を使ってみて、それが効いたかどうかを判断基準に採用することは、情報を集めにくいタイプの病気に対する行動を適切に選び取っていくための知恵だと考える。

ところがこれはあくまで医者の考え方であって、患者からすると違和感がある。「喘息の治療が効かないとわかるまで他の検査をしないなんて、怠慢ではないか?」

「とりあえず効くかどうかわからない薬を投与するなんて、人体実験じゃないか?」

「見切り発車はやめろ」

気持ちはわかる。でも事情をわかってほしい。

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