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「感染者が出た」という情報発信は何のためか? 「リスクコミュニケーション」で大事なこと - 友森敏雄 (「WEDGE Infinity」編集長・月刊「Wedge」副編集長)

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新型コロナウイルス問題、日々多くの情報が更新されるが、情報発信において重要なこととは何か? 「リスクコミュニケーション」の観点から、川崎市医務監・川崎市看護大学学長の坂元昇医師に話を聞いた。


(Alex_Bond/gettyimages)

「感染症対策におけるコミュニケーションで、『加害者』と『被害者』という構図をつくってはなりません。この対立構造が生まれると、人々はパニックに陥り、犯人捜しに終始するようになります。だからこそ、情報発信には、詳細な情報と人権のバランスが大事になります」(坂元医師、以下同)


坂元 昇(さかもと・のぼる)1978年横浜市立大学医学部医学科卒業、大阪大学大学院医学研究科博士課程修了。フランス政府給費留学生・リヨン神経病院・リヨン大学病理学教室。ニューヨーク市立ベルビュー病院病理学部門勤務後、ファイザー製薬臨床統括部長を経て、川崎市中原保健所主幹。その後、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院AIDS感染症コース修了。

開口一番、坂元さんはこのように話してくれた。この背景には、2009年5月に新型インフルエンザに対応した際の経験がある(参考『インターネット社会における「情報開示」と「個人情報の保護」~2009年関東圏初の新型インフルエンザ患者発生の体験を通して~』)。

以下、経緯を簡単に振り返る。

09年5月、米国旅行から帰国した川崎市内の高校に通う生徒3人が、インフルエンザ陽性が出たことが判明した。坂元さんのもとには、保健所担当者から家族が疑似症段階での発表を拒否しているとの連絡が入る。事前の取り決めでは、疑似症でも発表を基本的に行うこととされていたが、

「正確で詳細な情報確保のため家族との良好な関係性を維持することが重要だと判断して、家族の思いを尊重しました」

その後、テレビで「米国帰りの高校生がPCRで陽性と発表」されたり、インターネット上に「このケースが川崎市内の高校に通う米国から帰国した生徒であり、川崎市内にも感染している高校生が住んでいる」と、書き込まれたりするようになった。

さらにネットでは「米国での公式行事に参加した日本の高校生たちが現地で派手なパーティーをやっており、その中にこの感染した高校生も参加していた」など、悪意に満ちた批判や中傷の書き込みが増えて行った。

記者会見では、マスコミから「患者の帰国後の成田空港からの移動経路についてリムジンバスの会社名や運行時間、座席の位置、乗車していた当該高校関係者の数と座席の位置関係、リムジンバスを降車後に乗った電車について乗車駅・降車駅、列車の運行時間や乗っていた号車番号と位置、降車駅から自宅までの交通手段、家族構成、家族の行動範囲」など、細部にわたり繰り返し質問攻めにあった。

「北米での感染が苛烈を極めている最中にわざわざ米国に勝手に遊びに行って、感染して帰ってきた不見識な高校生」というネット上での非難中傷が、マスコミや一般市民の心情に悪影響を与えていると感じたという。

こうしたなかで、追跡調査を行うべく、高校生が乗車したバス会社、タクシー会社へ問い合わせを行ったが、風評被害を恐れてか、「乗車させた記憶はない」などという回答が返ってきたという。

このように犯人捜しに陥ってしまえば、本当に必要な情報ですら、得ることが難しくなるのである。

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