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「バズるレシピ」のルーツはグッチ裕三!?ネットが生み出す新しい家庭料理の文化 - 稲田俊輔

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「ネットでバズるレシピ」が生み出す新しい家庭料理の文化

Photo by S O C I A L . C U T on Unsplash

ネットでバズるレシピに対しては、もちろん一部で批判の声もあります。「めんつゆとごま油さえ入れればいいと思ってるんじゃないの?」みたいな感じで揶揄されることもしばしば。特に普段から料理に慣れ親しんでいる人たちにとっては、そこまでしてめんつゆや顆粒コンソメなどで「うま味」を強調しなくても、というようなある意味まっとうな意見もよく聞かれます。私も個人的にはそのような意見には一理も二理もあるとは思います。

ネットでバズるレシピに限らず、スーパーで市販されているような惣菜や冷凍食品、中華合わせ調味料や鍋スープの素なども、かつては外食だけのものだったインパクト重視の味わいに置き換わっていっています。このままでは、一口目のインパクトこそ穏やかだけど、素材重視で一生飽きずに食べ続けられるような本来の家庭料理の味わいは、継承されずにこのまま廃れていくのではないかという不安を感じなくもありません。

ネットでバズるレシピの発信者として代表的なひとりに、通称「料理のお兄さん」リュウジさんという料理家の方がいらっしゃいます。最初は独自にTwitterで発信を始めた方ですが、本来の(という言い方も変ですが)料理家としての技術や素養も充分な方だとお見受けします。この方のレシピを拝見していると、確かに、そこまでしっかりとした手順や食材で作る料理ならあえてそこにめんつゆや顆粒コンソメなどで「余分な」うま味をブーストしなくても、と感じることもあります。

しかし同時に僕はそれにも確たる理由があると思ってもいます。レシピというものはそれがどんなに優れたものであっても、最終的には作る人次第。ちょっとした火加減や調味料の計量のブレで最終的な仕上がりは大きく変わってしまう可能性があります。そこにおける「うま味」の役割というのは、多少作り手の加減がブレてもそれはそれでそれなりのおいしさが担保されるという点なのです。

料理に慣れていない人が塩だけで味付けすると、そのちょっとした加減でそれはとても味気ないものになったり過剰にしょっぱすぎたりということが簡単に起こってしまいますが、そこを顆粒コンソメで味付けするならば、多少それがブレてもそれなりにおいしく仕上がります。グッチさんレシピにおいて特徴的なすし酢や塩昆布などの使い方もまさにその役割を担っていました。単に「現代の日本人は強いうま味に慣れすぎてうま味中毒になっている」というだけの話で片付けるべきではないと私は思います。

ある人がネットで見かけたおいしいレシピも、実際作ってみてうまくいかなかったら、その人はもう二度と挑戦しないかもしれません。そういう意味でも、リュウジさんをはじめとする発信者たちは、失敗しようのないレシピを次々と発表しています。そして、作り手が失敗しないからこそ、それは「作ってみた」体験としてさらなる発信につながるのです。

つまり、再現性のある情報が受け手の共感を生み、それが拡散の動機となった結果「バズる」という現象が生まれます。そしてまた新しいレシピが生まれ続け、それを見た人がまた挑戦する。そういった幸福なループが、人々の自炊のハードルを下げ、発信者と受け手双方が料理をエンターテイメントとして楽しむ新しいタイプの料理文化を生み出しているといえるのではないでしょうか。

写真AC

リュウジさんといえば、最近面白い動きがありました。シンプルなチャーハンに味の素を使用するレシピをリュウジさんが発表したところ、少なからぬ人から「そんな体に悪そうなものは使いたくない」という批判があったそうです。リュウジさんは猛然とこれに反論しました。

味の素、つまりグルタミン酸ソーダが健康被害を及ぼすという説に関しては、現在では学術的にはほぼ否定されています。リュウジさんは「自分のような料理に精通する人間こそ、そういう誤解と戦って、ファクトを伝え続けねばならない」と、そのことを強く訴えたのです。

こういった形でいわゆるフードファディズム(食が健康に及ぼす影響を科学的な立証に関係なく過大に評価すること)と戦うという行動は、「バズるレシピ」文化が生み出した思わぬ余禄といえるのかもしれません。


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