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「バズるレシピ」のルーツはグッチ裕三!?ネットが生み出す新しい家庭料理の文化 - 稲田俊輔

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2月にTwitter上で「サイゼリヤのプリンに卓上の塩をかける」という食べ方がちょっとしたブームになりました。

投稿したのは、和食店からインド料理まで幅広いジャンルの飲食店を経営する「円相フードサービス」の専務・稲田俊輔さん。別の投稿では、「昨今の“ネットでバズるレシピ”的なもののルーツを辿るとグッチ裕三先生に行き着く」と指摘しています。

飲食店の経営に携わりながら、レシピ本を手掛け、また積極的にTwitterで情報発信を続ける稲田さんに、グッチさんと現代のTwitter文化に共通するものは何かを紐解きながら、ウケるレシピの生み出し方、さらにはネットで「バズる」コンテンツの考え方について説明してもらいました。

ネットでバズるレシピの条件とは

昨今「ネットでバズるレシピ」といわれるものがSNSを中心に度々話題になっています。身近な食材や調味料の組み合わせで簡単に、かつ誰でも失敗なく作れて、完成写真とレシピを見るだけで味がイメージしやすいことが「バズる」ための必要条件であるようです。

「無限に食べられる」「ご飯が何杯でも食べられる」「震えるほどうまい」などと少々大袈裟な表現とともに紹介されることが多いのですが、しかし確かにどのレシピも基本的には誰にでも好まれるようなはっきりとした濃い味で、それこそヤミツキになる、一口で「うまい!」という印象を与えられる料理です。

そんなレシピを可能にしているのが、めんつゆやポン酢、オイスターソースなどのそれだけで味がととのう、うま味たっぷりの調味料や、ごま油やバターなどの油脂類。そこに卵やチーズでボリューム感やこってり感を演出するパターンもよく見られます。

そういった「バズるレシピ」の数々を見ていると、私はそこに、時に直接的に、時に間接的に、グッチ裕三さんが過去に発表してきた数々のレシピからの強い影響を感じるのです。いや別に発信者がグッチさんの過去レシピを剽窃したというあらぬ疑いをかけているわけではなく、はっきりした旨味を持つ便利な市販調味料や食材を縦横無尽に活用して、インパクトのあるわかりやすいおいしさを手早く作り出す、という新しい家庭料理の文化が、グッチさんから現代のネット民に連綿と受け継がれ、共有されているということです。

グッチさんこそが「ネットでバズるレシピ」の元祖、と私が主張しているのはそういうことなのです。

作りやすさ、インパクトとエンタメ性 グッチ裕三レシピは夜の街の匂い

共同通信社

グッチ裕三さんといえばビジーフォーでのバンド活動やソロシンガーとして40年以上第一線で活躍するミュージシャンでありながら、料理本を執筆したりテレビの料理番組、グルメ番組にも度々出演する料理家としても知られています。

グッチさんの料理は、とにかく手早く簡単で、かつ誰もが一口食べた瞬間「おいしい!」と笑顔になるような、とてもわかりやすくインパクトのあるおいしさが特徴です。

そんなグッチさんのレシピを見ると私は、ある種の懐かしさを伴う既視感のようなものを感じます。それは1990年代くらいまでよく見られた「レストランバー」といわれる飲食店の業態です。繁華街の雑居ビルに店を構え、洋酒が並ぶバーカウンターを擁しつつお酒のおつまみだけにはとどまらない食べ応えのある料理を提供していました。

これは半ば勝手なイメージですが、店主は料理学校を卒業して割烹やレストランで修行するといったような専門職的なルートというよりは、居酒屋やバーでの豊富なアルバイト経験を経て開業したようなタイプ。それこそグッチさんではありませんが元ミュージシャンであったりアート系の仕事をしながらだったり。逆にいえばそういう「素人の強み」みたいなものを生かして酔客相手に安く手早く出せてなおかつ確実に喜ばれる料理を提供していた、そんなイメージです。

そういったお店の料理は、半分素人料理とはいいつつも、家庭料理とは確実に一線を画した華やかさやケレン味のような魅力を備えていました。それでいてフレンチや和食などの専門レストランの料理ともまた違う、親しみやすくわかりやすいキャッチーな側面があったのも特徴でした。

グッチさんの料理の、例えば塩昆布やすし酢、めんつゆやポン酢、ベーコンやチーズ、といった「それだけでおいしさが担保されている」調味料や食材をふんだんに使いつつ、見た目も華やかに仕上げるという部分は、どこかそういうかつてのレストランバーの料理を彷彿させるものがあります。そしてそこには、食べた人に驚きを与え、一口でそのトリコにしてしまいたい、というような強いエンターテイメント志向が通底しているように感じます。

材料のひとつひとつを下ごしらえし、ダシを引き、醤油やみりんなどの基本調味料をバランスよく加減して作られていたのが伝統的な家庭料理。そうやって出来上がるものは、外食のおいしさとはベクトルの異なる、穏やかで食べ飽きないおいしさですが、ネットでバズるレシピに象徴されるような新しい時代の家庭料理は、味の方向性が限りなく外食に近いものになっていると感じます。

世帯人数が減る中、忙しい現代人にとって、少量を手早く作れてなおかつそれが外食の味に遜色ないインパクトを持つレシピは、もはや福音といっていいのかもしれません。レシピを発信する側も、やりすぎなくらいに大袈裟な言葉でそれを一種のエンターテイメントとして昇華させています。それはかつてのレストランバーや創作居酒屋からグッチさん、そして現代のネット料理家さんたちへと広がっていった文化であり、それが今、時代のニーズを見事に捉えているといえるのではないでしょうか。

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