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「達海は僕の理想の人物像」人気サッカーマンガ『GIANT KILLING』作者に聞く、リーダーの条件

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多くの熱狂を生むスポーツ・サッカーの舞台裏を取材する森雅史さんの連載『インサイド・フットボール』。今回はクラブチームの監督が主人公という人気サッカーマンガ『GIANT KILLING』の作者・ツジトモ氏に話を聞きました。ビジネスパーソンにも人気の本作、果たしてツジトモ氏が考えるリーダーの条件とは……。

マンガ雑誌・週刊「モーニング」(講談社)で2007年から長期連載を続けているサッカーマンガ、「GIANT KILLING」(ジャイアント・キリング)。選手だけでなく、監督やクラブチーム内の様子を描いていることで、サッカーファンだけでなく、多くのビジネスパーソンからも好評だ。同作は3月に54巻が発売されるなど、その人気はとどまるところを知らない。新刊の発売にあわせ、作者のツジトモ氏に、作品に込めた思いを聞いた。

「GIANT KILLING」作者のツジトモ氏 写真:神山陽平/Backdrop

主人公は監督 異色のサッカーマンガがビジネスパーソンにもヒット

——この作品ではサッカークラブを取り巻く、多くの人物たちの人間関係が描かれています。多くのサッカーマンガでは選手の成長が主軸となっていますが、なぜ選手以外の人も描こうと思ったのですか

もともと、「監督を主人公としたサッカーマンガ」という企画があって、実際にとりかかるにあたって、サッカークラブの人たちを取材しました。そこで見たのは、勝負事に一喜一憂する、フロントやスタッフたちの情熱的な姿だったんです。

今でこそJリーグからの分配金がたくさんクラブに入るようになりましたが、連載が始まった2007年当時はまだ資金的に厳しいクラブもありました。それでも自分たちの仕事に誇りを持って熱心に打ち込む姿がかっこよくて、それでクラブを中心とした物語に自然となっていきました。また、学んでいくなかでJリーグの理念が素晴らしいということも改めて感じて、それを広めたいと思ったんです。

——主人公の1人はクラブチーム、ETU(イースト・トーキョー・ユナイテッド)監督の達海猛です。作中でも選手といい関係を築いていることもあり、「理想の上司」という人もいますが、どう思いますか

達海は僕の理想の人物像に近いんだとは思います。達海は一見、特に序盤では素っ頓狂というか、破天荒に見えるんですけど、基本的には普通の感覚を持った常識人なんです。ちょっと相手監督を馬鹿にして挑発するとか、そういうところはマンガっぽいのですが、実は最低限の礼儀はちゃんとわきまえていると思うんです。

主人公のサッカー監督・達海猛は刺激的な言葉で選手達を鼓舞する GIANT KILLING/講談社

達海で一番フィクションになっている部分というのは「ちゃんと全員を見ている」ということですね。本当は監督ってそこが一番難しいのですが、達海はできている。それが、一番マンガ的な、スーパーなところです。会社などで働いている人も、「目立たないところですごく頑張っている部分を誰かに評価されたい」という思いはあると思います。それをちゃんと見てくれたり、こうしたほうがいいと声をかけてくれるというのは、それだけで理想の上司だと思いますね。

——達海のセリフには、部下から見るとグッとくるような言葉がたくさんありますね

達海のセリフは、監督からこう言われたらやる気が出るだろう、こう言われたら自分を見つめ直すだろうと、選手側の気持ちに立って考えてみたり、どうやったら停滞気味のベテラン選手を生まれ変わらせられるのか、どういう言葉をかければ緊張気味の若手選手をプレッシャーから解放できるのか、それを、監督だったらどうするかとすごく考えます。

ただ、実際の選手や監督の心理は分からないので、選手も同じ人間だろうと開き直って描いたんです。そうしたら、あとで何人ものJリーガーに「選手の思うことがすごく描かれている」と言ってもらえてびっくりしました。

——達海のセリフで気に入っている言葉はありますか

何個かありますが、パッと思いつくのは物語の序盤で控え組の選手たちを率いてレギュラー組と戦うときに言った「スコアは常に0-0から! 誰に対しても平等だ」というセリフは、自分で「おおー、そうだな」と思いながら描きましたね。それから、よくいいと言ってもらえる夜1人で練習していた緊張しやすい若手選手の椿大介にかけた言葉(「そのまま行け。何度でもしくじれ。その代わり一回のプレーで観客を酔わせろ。敵のド肝を抜け」)なんかは、ポンポンとセリフが出てきて、ノリノリで描きましたね。

ツジトモ氏もお気に入りのワンシーン。若手選手の椿大介にかけた言葉はファンの間でも人気だ GIANT KILLING/講談社

魅力的な監督描く ツジトモ氏が考えるリーダーの条件

——達海以外にいろいろな監督も出てきますね。また違ったリーダーとして描かれていると思うのですが、ツジトモさんが考えるリーダーの条件は何だと思いますか

優れたリーダーは、適切な目標を本人に気付かせてあげられる能力があるような気がしてます。人は自分で気付かないと身にならないですから。言葉とかでヒントを与えて、選手が自分で思っているところよりも可能性があるということを気付かせてあげられるのがいいリーダーだと思います。

そういう意味ではこの人のもとでプレーすると成長できて楽しい、発見が多かったり、自分が思っていることを違う角度から見てくれたり、考えを整理させてくれる、そういう人はいい指導者のような気がします。自分のやることをハッキリさせてくれるというのも条件としてありそうですね。

色んなタイプの監督を描いてるつもりでいましたが、何人も描いているうちにこの人たちはそんなに違わないんじゃないかと思うようになりました。目指しているところはみんな一緒。誰もがチームを1つにして勝ちたい。違うのは置かれている状況や選手たちへのアプローチの仕方であって、その違いが面白い。一方で、監督たちには同志のような見えない絆みたいなものがあるような気がします。

——この作品ではクラブという「組織」が積極的に描かれていて、ビジネスパーソンにも人気ですが、なぜだと思いますか

たぶん、サッカークラブが勝てないときの感じは、組織で働いている人ならよく分かるからなんじゃないかと思いますね。「アイツがいなければうまくいくのに」と思いながら、本当にいなくなっても別によくならなくて、原因は1つじゃないと気付くとか、そういうときに何を大事にしなければならないかとか、立ち返るところがあるかとか。全体のモチベーションが下がっているときにどうすればいいのかなどは、どの仕事もあるんじゃないかと思います。

それは僕のマンガがそうだと言うより、サッカークラブというのがいろいろな組織をぎゅっと濃縮したようなものだからだと思います。監督という上司が代わってチームが変になる、選手が監督よりも力を持つ、勝ちながらでも若手を伸ばさなければいけないなど、たぶんどの組織でも似たようなことがあるのではないでしょうか。それがサッカークラブではうまくいってるかどうかが結果に見えて分かるから、組織図としてモデルにしやすいんじゃないでしょうか。

作業部屋にはサッカーグッズがズラリと並んでいた 写真:神山陽平/Backdrop

若手や控えの選手にもフォーカス

——達海と並ぶもう1人の主人公、若手選手の椿大介は迷いながらも成長する若手として描かれています

いろいろなJリーガーが読んでくれたときに、みんな「椿の気持ちが分かる」と言ってくれてびっくりしました。よっぽど椿よりすごい選手たちのはずなのに、緊張する、できるはずなのにできない、そういう経験をみんな持っていると。選手はそうやって緊張しているのを表に出さないようにしているんでしょうね。

椿はすぐに緊張するのですが、そこで心が折れないから、たぶんみんなから嫌われないんだと思ってます。チキンだけど、逃げ出すヤツではない。波はあるけれど、一応戦おうとしている感じで、人としてもネガティブではない。そこはちょっと気を付けています。

——作中では、控え選手たちにもフォーカスすることが多いですね

現実にはあり得ないかもしれないのですが、僕は達海を試合に出ていない選手から「どうせ自分は使われない」と思われながらも、「一緒にやれてよかった」と思われる監督として描くというのを目指しています。達海から指導を受けたら、他のチームに行ってもここでの経験を活かせて頑張れるようにということを考えています。

——達海に誰かモデルはいましたか

これという人はいませんが、連載の準備をしていた頃にスター選手が指導者としてチームに戻ってきたら面白そうと思ってイメージしたのはピクシー(ドラガン・ストイコビッチ)ですね。その後、現実になってまさにマンガみたいな結果を出してしまいましたが。そこである意味開き直りましたね、マンガは現実にはまるで敵わないと。

それと、ペップ(・グアルディオラ監督)登場以前でまだキラキラしていたジョゼ・モウリーニョ監督。メディアに悪態つきながらも選手を守っていたりと、ちょっとワルっぽいヒーローに見えて、達海を作る上で結構影響を受けていると思います。そもそも襟を立てているのは当時のモウリーニョのイメージです。あと達海はイギリス帰りなので、それをちょっと出したくてミリタリージャケットとネクタイという「モッズ」的な要素を入れました。

主人公・達海のモデルの1人となった2004年頃のジョゼ・モウリーニョ監督。コートの襟を立てチームの指揮をする姿は印象的だった Getty Images

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