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K-1の強行開催が東京五輪、日本スポーツ界に飛び火 - 新田日明 (スポーツライター)

猪突猛進の結果が悪影響を及ぼす流れは避けられそうもない。キックボクシング団体K-1のビッグイベント「ケイズフェスタ3」が22日、さいたまスーパーアリーナで開催された。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で日本政府が大型イベントの自粛要請を促しているにもかかわらず、主催者側は大会実施を強行。来場者全員へのマスクと飲料水の配布、サーモグラフィーやアルコール消毒液の設置、会場の扉を開けっ放しにして常時換気を義務付けるなど、さまざまな予防策を講じることで異例の決断に踏み切った。

(Masisyan/gettyimages)

当然のように政府と自治体からは猛反発を受けた。大会開催前から西村康稔経済再生担当相と埼玉県・大野元裕知事は主催者側に自粛を要請。しかし受け入れられず、当日会場にまで駆け付けた大野知事が報道陣の取材に怒りを露にする場面も見られた。

主催者側は県側からの指示により、観客全員の住所、氏名、連絡先を把握したというが、残念ながら何ひとつ不安材料の解消にはならない。これらの個人情報がもし今後必要になることがあれば、おそらくK-1は存続の危機に立たされるだろう。

いや、もうすでにK-1は「強行開催」というパンドラの箱を開けてしまった。

この日のビッグイベントには約6500人もの大観衆が集まった。会場は通常の収容人員より少なくするため座席数を減らす措置も行われたとのことだが、それでもリングへ近づくほどに大勢のファンが密集。リングサイド周辺では完全な〝ぎゅうぎゅう詰め〟になっていた。アリーナという屋内施設での大型イベント。しかも熱戦が繰り広げられた中、途中からマスクを外して大声を上げながら熱狂するファンの姿まで散見された。

奇しくも常夏の国・タイでは、この格闘技の試合開催が感染拡大の要因とされ、深刻な事態へとつながっている。22日にタイ保健省は新型コロナウイルスの感染者数が前日比で188人も一気に増え、599人に達したと発表。ここまで他国と比べて感染を抑え込んでいたと思われたが、今月中旬から首都バンコクを中心に急速な蔓延が始まった。

タイの格闘技・ムエタイが行われる屋内施設「ルンピニー・スタジアム」と「ラジャナムダン・スタジアム」などで大規模なクラスター感染が発生したことが、大きな引き金となっているのだ。

すでに各会場でのムエタイの試合は当面の間、中止(現在のところ起源は3月末だが、延伸される可能性が高い)とされているものの感染者の足取りが不明なこともあって事態の鎮静化は一向に図れていない。ムエタイ絡みの感染者数は今後も大幅に増えるとみられており、タイ政府は22日からバンコクにおいて商業施設や娯楽施設の営業を3週間禁止する異例の通達を行うなど危機感を強めている。

タイに比べれば、確かに衛生面などでは日本のほうが上と言い切れるかもしれない。「事前に予防策を講じたのだからK-1とムエタイの条件は同じじゃない」と言い張る人も、きっといるだろう。しかしながら屋内施設でキック系格闘技の試合を開催しているという点を見ても明らかなようにムエタイとK-1のイベントの共通項は危険過ぎるぐらいに酷似している。

密閉空間で熱狂的なファンが肩を寄せ合うほどに接近しながら座り、時に声を張り上げて応援を繰り返す――。こうした行為について専門家から再三に渡って飛沫感染(たとえマスクをしていても危険度は〝ゼロ〟にならないことは、あらゆる医療機関の研究でも実証済み)などのリスクが増大すると警告されていても、K-1の主催者は聞く耳を持たなかった。

K-1の関係者はムエタイとのホットラインもあるだけに、現在のバンコクで何が起こっているのかについても事前に分かっていたはずだ。それを承知で強行開催に踏み切ったのだから〝確信犯〟であり、余程の覚悟があったのだと推察する。

ただし1ミリも賛同はできない。今回の強行開催を「パンドラの箱」と前記したのはK-1が世界中から総スカンを食らう可能性も高まってきたからだ。バンコクで行われたムエタイの大会のようにK-1の来場者からの感染が今後、発生すれば主催者側は責任問題を問われることも十分考えられる。

もし運良く誰一人として感染者が出なかったとしても「万々歳」というわけにはいかない。すでに無観客での試合開催や大会の中止、延期など自粛を余儀なくされている各方面のプロ・アマスポーツ団体からもK-1に怒りを募らせる関係者が続出している。

「K-1の暴走は日本スポーツ界のモラルを崩壊させてしまった。一刻も早くファンの方々の前で試合を開催したいのは、どの競技の主催者側も同じ。これでもしも感染者が出るようなことがあれば、今まで我々が強いてきた努力もすべて水の泡になってしまいます。こんな最悪のタイミングで、しかも屋内で6000人以上もの観客を集めてイベントを強行してしまうなど言語道断。政府、そして自治体から自粛要請を無視して開催を決行した事実は我々としても到底看過できない」とJリーグ関係者も顔をしかめていた。

東京五輪にも余波

延期論が強まり、開催可否について今後1カ月程度で判断される見込みとなった東京五輪にも余波が広がるとの指摘もある。実際、JOC(日本オリンピック委員会)の内部からは「K-1の強行開催は世界中のメディアでも報じられ、驚くべき早さで各国からひんしゅくを買っている。これによって完全に日本は『ウイルスに対して警戒心が低過ぎる』というレッテルを張られ、延期論どころか、中止論にも拍車をかけてしまうことになりかねない」という恨み節も聞こえてきているほどだ。 

ちなみにK-1は資金繰りで苦しい運営を強いられている側面があり、今大会がキャンセルになれば経営的にもかなりのピンチに追い込まれるとのウワサも格闘技界で飛び交っていた。そうかと言ってK-1側の肩を持つつもりなど毛頭ないが、強行開催は批判覚悟で背に腹は代えられなかったのかもしれない。

プロレス界でも台所事情の厳しい弱小団体が同じく強行開催をほのめかし、エンタメ界ではメジャーの宝塚歌劇団が同じく22日から公演を再開させたという事実もある。こうした背景を鑑みれば、やはり大型イベントの開催について「慎重な対応が求められる」という抽象的な言い回しで判断を主催者任せにしている日本政府の曖昧な姿勢も責められるべきだろう。 

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