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【新型コロナウイルス】村中璃子氏が明かす「誰でもPCR検査」の弊害

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新型コロナウイルスの感染が欧米諸国でも急速に拡大している。WHOは3月16日の会見で「検査、検査、検査」とくりかえし、新型コロナの感染が疑わしい患者に対する積極的なPCR検査を呼びかけた。

感染拡大に伴う不安感が高まるなか日本では、症状のない人まで希望者全員にPCR検査することを求める議論もあった。3月6日からPCR検査は保険適応となり、厚労省は今月内にその検査能力が最大1日約7000件に達するとの見通しも示すが、15日までに実施された件数は1万3218件、保険適応となったのは329件だという。

「検査、検査、検査」は日本に向けられた批判ではないかと曲解する向きもあるが、本当にそうなのか。

WHOで新型インフルエンザ対策に携わった医師・ジャーナリストで、京都大学大学院医学研究科の村中璃子氏に考えを聞いた。

撮影・本田雄士

村中璃子(むらなか・りこ) 医師・ジャーナリスト。現在、京都大学医学研究科非常勤講師、ベルンハルトノホト熱帯研究所研究員。WHO西太平洋地域事務局で、鳥インフルエンザ、新型インフルエンザ対策に携わった経験を持つ。2017年に科学誌『ネイチャー』など主催のジョン・マドックス賞受賞。著書に『10万個の子宮 あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか』(平凡社)。

受ける側のメリットはないPCR検査

PCR検査の目的は、感染者を発見して隔離し、濃厚接触者を追跡して感染の広がりを把握することです。

「安心のため」に受けるものと勘違いしている人がいますが、感染の疑いもないのにPCR検査を受けることでかえって危険な場合もあります。

PCR検査の精度は決して高くはなく、陽性でも陰性と判定して感染者を見逃してしまう可能性は30%から50%もあると言われています。

本当は陽性なのに陰性と判定されて帰宅すれば、安心して家族に感染を広げる危険性があります。陰性なのに陽性と判定されれば、本当の感染者と同室で入院するなどの機会に本当の感染者からウイルスをもらってしまう危険性があります。つまり、PCR検査だけで正確に感染を判定することは不可能なのです。

Getty Images

PCR検査が有効となるのは、対象とする人を「感染の疑いのある人」に絞った場合です。

感染の疑いのある人というのは、発熱が4日以上続いている人、流行地への渡航歴のある人、濃厚接触者、クラスターが発生した場所にいた人などです。

たとえば、大阪のライブハウスに行った若い人で、咳や息切れがあり、CTでは肺炎像が見えるのに「陰性」の結果が出たとしたら、その結果は怪しいですよね。

そのような場合は、もう一度PCR検査を行います。

PCR検査は万能ではありません。そこで、臨床経過や行動歴などから感染の疑いのある人に対して2回実施することで、精度を補っているのです。

PCR検査で新型コロナ陽性が分かったからと言って、治療上のメリットがあるわけでもありません。ちょっとした熱や咳があるだけなら、いつもの風邪と同じように解熱剤や咳止めが出るだけだし、万が一、重症肺炎になっても人工呼吸器をつかった呼吸管理を行うなど、やはり同じです。

保険適応になったからといって気軽にPCR検査を受けられるようになったと勘違いした人もいるかもしれませんが、検査の対象者はあくまでも「感染を疑う人」。対象が変わったわけではありません。

MERS(中東呼吸器症候群)の経験からPCR検査体制が整っていた韓国では、広く浅く希望者全員にPCR検査を実施しましたが、検査した人の9割以上が陰性でした。



過剰検査が招く医療崩壊

それでも心配は残る、感染拡大を抑えるためには、やはり症状のない人まで徹底的に感染者を洗い出す必要があるという人もいるかもしれません。

それも一理あります。

しかし、対象者を限定しないPCR検査には弊害もあります。

高い検査キャパシティに任せて積極的なPCR検査を行った韓国では、医療者のマンパワーがPCR検査に割かれ、病棟で患者を診る医師が減りました。陽性が確認されれば、軽症でも入院させて隔離を続けた結果、病床はパンクしました。韓国では、入院できずに自宅待機を余儀なくされた人が500名ほどになり、そのうち4人が亡くなったという時期もありました。

PCR検査の対象や入院基準を見直すことでこの状況は急激に改善されたようですが、医療キャパシティの限界を意識し、最初からPCR検査の対象を絞ることで、病床や病棟スタッフなど「救命のための医療リソースを残しておく」という日本のやり方は理にかなっているのです。

PCR検査のキットや機器を増やしたところで、検体採取する医者や検査を行う技師の数、検体を採取できる病院や検査を実施できるラボの数が増えるわけではありません。風評被害を恐れた宅配業者はいずれも検体の運搬を拒否。実際には保健所や検査会社のスタッフが検体を回収にいくなどして対応しており、効率よくPCR検査が実施できる態勢を急に整えることは難しいでしょう。

それでも今、日本ではPCR検査の実施件数は増えており、地域によっては、病床や病棟スタッフなど救命のための医療リソースがひっ迫してきています。

感染が拡大しているためです。

Our World in Dataによれば、3月17日現在、人口100万人当たりの各国のPCR検査実施件数は1位から順に中国32万件、韓国28万6千件、イタリア14万8千件。日本は1万6千件と桁違いに少ないのは事実です。

検査対象を絞っていることが理由であればいいのですが、日本医師会は3月18日、医師がPCR検査が必要であると判断し保健所に検査を依頼したものの断られたケースが、26都道府県で290件あったと公表しています。

日本のPCR検査のキャパシティを上げることは疑いようのない緊急の課題ですが、医療資源は有限であることを意識し、その使い道の優先順位をますますつけていく必要があります。

共同通信社

WHOの「検査、検査、検査」

ではWHOはなぜ「検査、検査、検査」と言ったのでしょうか。

PCR検査は、感染者を隔離し、感染者の濃厚接触者を検査して追跡することで感染を「見える化」し、感染者がどこにいるのかを把握することを通じて「感染の連鎖を断ち切る」ために欠かせないものだからです。

次の図をご覧ください。



何らかの介入(イベントの禁止、渡航制限、移動制限、学校閉鎖など)を行った場合と何の介入もしなかった場合の流行曲線、医療キャパシティの3者の関係を示した図です。

縦軸は「1日の新規感染者数」、横軸は「最初の感染者が見つかってからの日数」で、青とグレーの面積は、介入を行った場合、行わなかった場合それぞれの最終的な感染者数です。

抗体を持つ人が社会に増えていくにつれ、集団免疫効果により流行は収束していきます。

だから、介入をしてもしなくても流行曲線はピークアウトしていますよね。

ではなぜ、介入をする必要があるのかといえば、医療キャパシティの限界を超えて流行が爆発することを防ぐためです。

医療キャパシティの限界を超えるとは、患者数に対して、必要な医療スタッフ、病床、人工呼吸器が不足するという意味で、いわゆる医療崩壊の状態です。

よく「介入により流行のピークを遅らせて、時間稼ぎをする」という言い方を耳にします。しかし、医療スタッフや病床などの医療リソースは、一朝一夕に増やすことはできません。

ここでは青もグレーも同じ面積になるように図を描いてもらっていますが、正確には、「仮に最終的な感染者は同じだとしても、流行のピークを下げることで時間稼ぎをしながら流行をコントロールすれば医療崩壊を防げる」ということが、お分かりいただけるのではないかと思います。

もちろん、実際の流行曲線はこんなきれいな正規分布になるわけではありません。

集会の禁止やテレワーク、学校閉鎖や入国制限などの介入でいったんは流行がピークアウトするかもしれませんが、人口の多くはまだ抗体を持っていない状態ですので、通常の生活に戻せばまた感染者が増えてくる可能性は否めません。日本で流行が収まっても、他の国で流行が始まれば、渡航者の流入による再感染が始まる可能性もあります。

となると、実際の流行曲線は次の図のように波型を描いていくことが予想されます。(それも多分、こんなにきれいなカーブではなく)


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