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日本人77歳ノーベル賞学者「私が40年1つのことを研究するモチベーション」

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免疫の研究とがん治療への貢献で、2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞した、本庶佑・京都大学特別教授(77)。

地方の個人商店を、日本を代表するグローバル企業に一代で育て上げたファーストリテイリングの柳井正・会長兼社長(70)。

デジタル化、グローバル化によって社会が激変する中で、これからのビジネスパーソンはどう生きていけばよいのか。時代を切り開くふたりに聞いた。

グローバル化、AIの進化で何が変わるか

【本庶】研究の場合、世界初でなければ価値はゼロなんです。「日本では初めて」というのは意味がない。それはただのコピーですから、まったく意味がありません。

(写真左)京都大学特別教授 本庶 佑氏 (右)ファーストリテイリング会長兼社長 柳井 正氏

【柳井】日本で一番になっても生き残れないのは、ビジネスの世界でも同じです。銀座通りを歩いたら、海外のブランドばっかりでしょう。今や、世界中から企業が来るんです。僕らも世界へ出て行きます。インターネットで世界中の情報が1つになったために、世界と競争して勝たなければいけないのが、今のビジネスです。毎日、オリンピックをやっているようなものですよ。

【本庶】規模や売り上げだけではなく、クオリティやオリジナリティ、ユニークさが認識されて、価値として世界一になることが大事でしょうね。

みんなが世界一だと思う会社が世界一

【柳井】その通りです。みんなが世界一だと思う会社が世界一なんですよ。しかも、世の中の見方が変わってきて、将来にわたり社会にとって有益な会社でなければ認めてもらえなくなってきました。企業としての価値観や、行動の様(さま)が問われるんです。

それから、インターネットとコンピュータとAI(人工知能)のおかげで、誰でも瞬時にいろいろな情報を取り出せるようになりました。でも、まるでAIがすべてを解決するかのように言われているけど、そんなことはないでしょう。AIやコンピュータは計算機ですから、わかっていることはできるけど、わからないことはできない。

【本庶】柳井さんがそういう考えで、大変心強いです。

たしかに、テクノロジーの進歩によって、生命の複雑な現象を担う分子や細胞を解析できるようになりました。これによって生命科学が飛躍的な発展を遂げたのも事実です。

ですが、私も、AIでできることはまだまだ限られていると思います。

2018年、スウェーデンで開かれたノーベル生理学・医学賞の授賞式にて。 - 時事通信/AFLO=写真

【柳井】人の生命の設計図であるゲノムを構成するDNA配列が全部解析されても、人間にはまだじゅうぶんに解明できない部分がたくさんありますよね。

【本庶】そうなんです。生命現象に関しては、まだわからないことが多いんです。人間の体をつくっている細胞は1013個あります。その一個一個が、今の最新の解析では全部違うんです。そしてその一個の細胞の中に、たんぱく質や代謝物などたくさんの種類の物質が入っている。だから、人間はとても複雑で、AIでそれを再現するのは不可能でしょう。

たとえば「病気を治す」と言いますが、大部分はなんとなく治っているんです。お医者さんは、ひどくならないように協力しているだけで、結局は人間の復元力で治る。だから、どうして治ったか説明しろと言われても、説明できない(笑)。

【柳井】だから僕は、テクノロジーは人間が飛躍するためのプラットフォームであって、脅威ではないと思います。

インターネットに情報が全部集まっていて、スマートフォンに質問したら答えが返ってくる。すごく便利ですよ。スマートフォンでもタブレットでも、大学の授業をインターネットで無料で見られる。そういうものを、もっと利用しないといけないんじゃないかなと思います。

それと、コンピュータは計算しても、それを実行するのは人間ですよね。実行しない限り、何にもならない。それで実行したら、ほとんどの場合、コンピュータの予想とは違う答えが出るんですよ。計画と一緒で、計画してもその通りになることはない。先生は、実験されていて、どうですか。

【本庶】そうですね。AIに単純作業とか、誰でもできることをさせれば、効率的に早くできるようになる。そこはもっとAIに任せたほうがいいと思います。だけど、これは研究でもビジネスでも同じだと思うけど、非常に深い洞察力とか、未知の領域への挑戦は、やはり人間がやらなくてはいけない。

【柳井】そう思います。志や意志を持った人でないと、できないことだと思います。

しかし、どんなに努力をしても方向性が間違っていれば、目的地には到達しません。僕は、方向性を考えていない人が少なくないと思うんですよ。それは、自分の目の前の景色しか見えていないから。横も後ろもあれば、過去もあれば未来もあることをいかに知って、その中で自分がどういう役割を果たして、どこへ行くのか。

そう言う僕だって、若いときに知っていれば、今頃もっとうまくいったんじゃないかと思いますよ。

僕の転機になったのは、35歳のときに出会った『プロフェッショナルマネジャー』です。この本の中で、ハロルド・ジェニーン氏は「本を読むときは、始めから終わりへと読む。ビジネスの経営はそれとまったく逆だ。終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ」と言っています。

それまで僕も努力はしていたんですけど、なかなか成果が上がらなかったんです。よく考えたら、どこに行くのか、決めていなかったんですよ。だから、成果を上げるためにテクニックを磨くということではなくて、自分がどこに行きたいのかを決める。それで、そこに至るための方法を、自分の置かれている立場で、いろんな人の意見をよく聞きながら、考える。それをやれって書いてあったんです。

【本庶】研究もよく似たところがありますね。一生懸命実験したり、論文もたくさん書くんだけど、結局何がしたいのかよくわからない人がいる。常に誰かと競争をして、勝つことしか考えていなくて、自分としてこういうことを成したいとか、自分の中に明確なクエスチョンがないと、迷走しちゃうんですよ。

【柳井】結局、一人一人の人生は全部別個にある。その人の人生は、その人じゃないと生きられないんですよ。だから結局、自分は何をやりたいのかっていうのは、根源的な質問ですよね。すごく大事なことだと思います。

師との出会い、世界との出会い

【柳井】先生が、免疫の研究に取り組まれたきっかけは何ですか。

【本庶】これは一生をかけてもいいと思うテーマに巡り合えたのは、31歳のときにアメリカのカーネギー研究所へ行ってからでした。

当時から免疫や抗体(体内に侵入した病原体と結合して体内から除去する分子)については知られていたんですが、研究所のドナルド・ブラウン教授が、抗体の多様性の問題を解くことが技術的に可能であると指摘された。到底できないと思っていたことが、「いや、チャレンジしたらできるかもしれない」と。そういう大きな視点を示してくれたのは、非常に大きかったですね。そこから免疫の研究にのめりこみました。

【柳井】大きなピクチャーを示してくれたわけですね。

【本庶】グランドビューというか、それはものすごく必要なんですよ。柳井さんにとっての師とは誰でしょう。

【柳井】やっぱり僕らの業界で、世界的な大企業になったところですね。一番最初は、英国の小売業大手「マークス&スペンサー」だったし、その次はアメリカの製造小売業大手「ザ・リミテッド」や「GAP」です。「ザ・リミテッド」は最短で1兆円企業になった。その当時、香港の工場で製造して、ジャンボジェット機でオハイオ州のコロンバスに製品を送っていたんですよ。それぐらい革新的なことを、1980年代初頭にやっていたんですよね。

2019年、ユニクロのインド1号店をオープン。海外進出が加速する。 - 時事通信/AFLO=写真

今だったらZARAを運営するインディテックスとかH&M、それにスポーツメーカーのNIKEやアディダス。アマゾン・コムなんかもそうですよね。そういった、世界中の優れた企業が先生ですね。

【本庶】柳井さんは山口県の宇部市でお父さんの事業を継いで、ここまで発展させてきたわけですが、世界に目を向ける転機はどこにあったんですか。

【柳井】若い頃からアメリカの文化が好きだったので、年に何回か行っていたんですよ。商売のインスピレーションが湧いたのは、アメリカの大学の生協なんです。

【本庶】ほお、どこの大学ですか。

【柳井】UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)やハーバード大学ですね。何校か行ってみて気づいたのは、商業の匂いがしないことでした。セルフサービスで、学生にとって必要なものだけを売っているでしょう。「こういう商売のやり方がいいな」と思って、「雑誌を売るように服を売りたい」というのが、最初のユニクロの成り立ちです。

それと、香港でもインスピレーションがありました。当時は、欧米のメーカーの東南アジアにおける生産拠点でした。ある工場で、ロンドンストライプのシャツをGAPの1店舗が500枚オーダーしたと聞いて、そんなにたくさん売れるものなのかと驚きました。

そこから、大量に作って大量に売るという商売を日本でやってみたいと思ったんです。今の業態を始めて、宇部から東京へ出るまで30年かかりました。東京から海外に出て行くまでは、3年でした。東京の人は東京の価値に気づいていないけれど、やはりビジネスの世界では、東京は世界に通じているんですよ。

異分野の人間と交流せよ

【柳井】僕が一番心配なのは、日本人があまり勉強をしなくなったことです。勉強しても紋切り型です。

【本庶】私は初等・中等教育に一番の問題があると思っているんです。小学校に入学すると、どの子も「はい、はい」って手を挙げるのに、卒業する頃には挙げません。型にはめてしまったせいで、周りを気にするんですよ。だから大学生になっても、ほとんど質問をしません。これは非常に大きな問題です。

私の研究室は、半分以上が外国からの留学生です。中国、韓国、インド、中東のイランやオマーン。極めて国際的で、チャレンジ精神があるからみんな優秀です。

オマーンというのは人口467万人くらいの国ですけど、一時期は2人も来ていました。私がノーベル賞をもらったときの報道で、その学生が一緒に写真に写っていたんです。それを見たオマーン政府はすごく喜んで、ストックホルムまでの旅費を出して、その学生を授賞式に参加させました(笑)。

【柳井】インドやベトナムや中国の若い人は、欧米の大学で本気で勉強していますね。その人たちが、これから世界のリーダーになっていくんじゃないですか。

【本庶】なぜ私の研究室に日本人が少ないかというと、彼らは大学院に入るとき、先生に一生面倒を見てもらおうと思っているわけ。就職の世話とかね。年を取った先生はいつ死ぬかわからないから、若い先生がいいんです(笑)。外国人は違います。あそこの研究室へ行ったらいい研究ができるし、そこで修業を積んだらさらにチャンスが広がると考える。

【柳井】我々も、以前は先進国の人材だけだったけど、今は世界中で人が採れる時代になりました。新興国の社員は、やはりハングリーで勉強しようという気持ちが強い。日本人の社員は、彼らと競争しないといけません。

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