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「この人たちが死んでくれればどうにかなる」日本国民が信じたロジックが「特攻隊」の背中を押したあの時代 著者は語る 『特攻隊員の現実』(一ノ瀬俊也 著) - 「週刊文春」編集部


『特攻隊員の現実(リアル)』(一ノ瀬俊也 著)講談社現代新書

「80年前の戦争だから、評価も研究も一段落しているというわけでは決してありません。私の研究の根底にあるのは、果たして史料を読み解く努力は十分になされているだろうか、という問いです。特に特攻隊ということになると、世間的には手放しの賛美だったり全否定だったりともっぱら両極端な見方で終わってしまう。一方、アカデミズムでも思考停止の状態が続いていました。史料に心底向き合っていない現状は、悲しく寂しいものだと思ってきました」

 いまさらなにを、か。よくぞやってくれた、か――軍事史を研究している一ノ瀬俊也さんの新著を一体どう受け止めればいいだろう。毀誉褒貶、悲喜交々。あの戦争から随分経った今でさえ、日本人の心と記憶から引きはがせない特攻隊の真実を追った一冊だ。

「特攻隊は、当時の指導層が唱えていた一撃講和論の手段のひとつとして計画されたのではないか、という仮説を立てて検証しました。敗色濃厚な時勢で、アメリカに強烈な反撃を加えれば、有利な条件で講和に持ち込めるという議論において、その強烈な一撃になるのが特攻隊による戦果である、というものです。後の歴史を知っている私たちからすると、狂った考え方に映るかもしれませんね。ただ、歴史研究で大事なのは、後の時代からの価値判断ではなく、当時の人々の考え方を知ることです。史料を読めば、軍人たちが妄想に取りつかれたわけでも、あえて誤った道を選んだわけでもないことがわかる。つまり、計画を実行するのに妥当性のあるロジックが確かにあったのです」

 意味があると思われたからこそ実行された。しかし敗戦を知る現代からすれば無謀な作戦に見える。

 この認識のズレが、時に悲劇に、時に喜劇にもなる特攻隊の現実だ。

「特攻隊という作戦が残酷であったことに異論はありません。本の中で当時の人々の日記や回想を引用しましたが、軍人はもとより国民、メディアも結託して『この人たちが死んでくれればどうにかなる』という考え方があったのは事実です。新聞ラジオは特攻隊の戦果を華々しく報じ、国民も大本営発表を信じて特攻隊の背中を押す。メディアはウケを狙い、また国民が気持ちよくなるような記事を書く。フィクションの世界では美談にされがちですが、飛び立つ前の隊員たちの身の回りの世話をした女学生という存在も、軍部の計算で用意された側面もあった。軍部の立てた特攻隊の論理に日本中が賛同していたわけで、いわば共犯関係だった。特攻隊員の中には強く志願した者もいますし、仕方なく任に就いた人もいます。個々の心情はあれど、俯瞰して見れば、国中が信じ切っていたロジックに付き合わされた人間たちだったと思います」

 敗戦から75年。当時を知る人は数えるほどになり、史料は年を追うごとに散逸する。残された史料を熟読することを重視する一ノ瀬さんにとっては、厳しい状況が続く。

「私が研究の道を志した30年ほど前でさえ、軍事研究というのはある種のキワモノでしたから(笑)。今回は、既存の史料をあらためて読み直した部分もありますが、ネットオークションにたまたま出ていた特攻隊員の手紙を競り落として入手した新史料もあります。このようなケースはほとんど僥倖で、刻一刻と史料は失われています。率直に、歴史研究の危機と言っていいでしょう。それでも特攻隊研究に一石投じられたかなと思っています。発見されれば嬉しい史料ですか? それはやはり昭和天皇が特攻隊をどう見ていたか、でしょうね。御簾の奥の奥に眠っているという噂だけは聞こえてきますけど(笑)」

いちのせとしや/1971年、福岡県生まれ。九州大学大学院比較社会文化研究科博士課程中退。現在は、埼玉大学教養学部教授。『近代日本の徴兵制と社会』『米軍が恐れた「卑怯な日本軍」』『戦艦武蔵』『皇軍兵士の日常生活』など著書多数。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年3月19日号)

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