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ゆとり教育の勝利。 日本 3-0 エジプト

 オリンピックは新聞やネットで見てる限りはあんまり興味が湧かないが、テレビを点けると釘付けになる。テレビやクリエイティブの力は依然として凄いと再確認する次第である。オリンピックのサッカー男子代表もあれよあれよと勝ち上がって、遂にノックアウトラウンドだ。相手はエジプト。結果は既報の通りである。

 エジプト代表と言えば、ガーナを旅行していた時に、UEFAチャンピオンズリーグのアフリカ版をやっていて、ガーナのチームがエジプトのチームと戦っていた。印象はモロッコと同じだ。速く、強く、ラフで、完全に崩す事に拘らず、マークが居ても強引に打ってくる。サッカーはカオスでかつフラクタルなゲーム。可能性が低そうな強引な一発という初期値が巻き起こす、カオスな顛末は事前には予測できない。ブラジルでの蝶の羽ばたきが、テキサスでトルネードを引き起こす可能性だってあるのがカオスな系である。

 さて試合を見て、現代のサッカーにおける、そのカオスの初期値の大きな要素は足の速い選手なんだなと改めて感じた。日本のワントップは言わずと知れた永井。日本サッカーにおけるスピードスターと言えば、足は速いが足元はお粗末で、でも大変に有名な英雄である岡野が長らくその地位を占めたせいで、随分と評価されない称号であったが、永井は足元も使えて素晴らしい。永井がボールを追うから、慌てて出した縦ポンを、日本が拾って攻撃に転ずる。そんなシーンをこの大会、何度も目にした。この試合でも、永井が追い、エジプトはそれを嫌って低い位置でボールを回し、MFはボール貰いに下がり、それに合わせて日本はラインを押し上げた。それが波状攻撃に繋がり、その必然として永井が点を取ったのである。

 その後永井がエジプトのラフプレーで退場した後は、様相が激変した。エジプトは少し余裕が出来て、ボールが回り出した。そして、右に居た11番が大変足が速く、永井退場後のゲームは、この11番が全てを決めていたと言っても過言では無い。11番に何度も振り切られた徳永を見て、日本のラインは低くなった。そうすると間延びした中盤はラインを上げてきたエジプトの数的優位となり、ルーズボールはことごとく拾われ、楔の縦パスは囲まれて奪われるシーンが続出した。日本が敷いていた4-2-3-1の布陣は、2の両サイドにスペースがあり、ここに意図的に敵を追い込んで、ボランチと上下のサイドプレイヤーの3人で挟んでボールを取るのが一つのセオリーではあるが、余りにこのスペースが大きいと、相手は加速してボールを持てる為、11番はこのスペースを使って走り回り、徳永は全く付いていけなかった。カードを1枚貰ったのも、そのせいだ。この11番は大変厄介で、この11番抑えるには、このスペースを消して、4-3-3みたいな布陣に変える位しか僕には思い付かなかった。11番は右利きだったので、余り中に切れ込んで来ないから、中のプレイヤー減らしても大きな問題は出ないだろうという趣旨である。

 だが、幸運にも、この後のエジプトは自滅する。退場と引き替えに一点を防いだエジプトだったが、その後何故か11番を引っ込めて中のプレイヤーを増やした。これによって、走り負けなくなった日本は、ラインを徐々に押し上げ、中盤は日本の持ち物になった。仮に10対11でも、11番が居たら、ここまでライン上げて、広大なスペースを後ろに作るのは躊躇されたと思う。そしてずっとエキサイトしていた2番がその感情のままに引き倒したファウルからのセットプレーから追加点が入り、勝負は決した。

 僕は日本の時間帯とか、リズムが悪い/良い、という曖昧な結果論は嫌いだ。解説が原因無しにそういう言葉を口にする度、なぜそうなったのか、その原因を考えたくなる。そうでないと、サッカーには自チームの時間帯があるというのが所与となり、であるなら、その時間帯を待って、そこで点を決めればいいという、雨乞いみたいな話しか出来ないからである。さて、この試合において、その自チームの時間帯に見えるものは、一体何がもたらしていたのか。僕には、いわゆる「時間帯」は、序盤は永井、その後はエジプトの11番が、相手チームの最終ラインや守備的MFの位置やボール回しに与えた影響が形作っていた様に思える。それを敷衍すれば、足の速いプレイヤーがサッカーというカオスな系の初期値の一つ、という事になるである。男子と共に準決勝に進出した女子サッカーは、次はフランスとの一戦になるが、フランスもトミ(通称:お富さん)という足が超絶速いウィングがおり、トミにどうスペースを与えるかが、試合のリズムを決めるだろう。スピードに乗せちゃうとファウルで止めざるを得なくなるし、そうすると、セットプレーで187cmのCBとかがお出ましになる。高さ勝負を嫌って、なるべくセットプレーを減らそうと思えば、両サイドでスペースを与えられず、そうすると引き気味で左右に間延びしたMFのポジションになり、カウンターサッカーみたいな形にならざるを得ない。ブラジル戦はそういうサッカーで勝ったから、対応という点では余り心配はしていないが、ストレスフルな展開になるのは間違いないだろう。

 最後に、オリンピック代表は、世代的にはU-23、つまりゆとり世代である。香川や宮市、或いはジュビロの山崎とか、オリンピック代表に入っていないプレイヤーも含めて、この世代の日本人を見ていると、隔世の感を抱く。個性的な外観で、蹴る・止めるの基礎技術が高くてパスよりドリブルが目立つ。10年前だったら多かったお見合いが少なく、俺が俺がとシュートを強引に打ちにいき、リードしたら相手の事を意に介さず時間を稼ぎ、相手が倒れてても、ブーイング浴びるまでプレイを続けたりする。でも、意外にトップ下じゃなきゃ嫌だ、みたいな旧来の序列への拘りはなくて、各自持ち場で職人的にプレイする。そんな特徴を挙げてみると、もしかしたら、詰め込み教育から「総合的な学習の時間」に代表される様な、主体的に考え、創意工夫を活かす方向に振ったゆとり教育が、本来育成したかった日本人は、こういうイメージだったのかなと思った。別にオリンピックの男子サッカー代表が成功したから、ゆとり教育は成功したと単純に言う積もりは無いし、育成も含めた日本サッカーの全般の質が上がった事が大きいんだろうけど、同じ様な才能、練習量の筈ながら、昔の世代の日本人プレイヤーとは随分雰囲気が違うと感じないだろうか?もしそうなら、ゆとりの勝利。ゆとり教育が日本を救う。ほんとそうなってくれ。団塊の年金は、ゆとり世代の活躍に掛かっている。合掌。

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