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「監督だけをやるために生きてきたわけではない」元サッカー監督・風間八宏氏に聞く仕事哲学

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多くの熱狂を生むスポーツ・サッカーの舞台裏を取材する森雅史さんの連載『インサイド・フットボール』。今回は2012年から4年間川崎フロンターレを指揮し、その後名古屋グランパスで監督を務めた風間八宏氏にインタビュー。常に結果と責任を求められる「監督」という仕事に同氏はどう向き合ってきたのか。常にプロフェッショナルとして仕事に臨む風間氏の哲学をじっくりと聞きました。

風間八宏はサッカー監督の中でもユニークな存在感を持つ。就任すると最初に「止める」「蹴る」という基礎中の基礎を選手に要求した。相手にボールを渡さなければ守らなくていいと守備の練習をしなかった。相手チームには言及せず、ひたすら自分のチームの完成度を高めていった。

勝負の世界にいながら、勝敗を超えたところにある哲学を貫く。その独特の理論は選手の中にも信奉者を生んだ。2019年シーズン途中で名古屋グランパスを離れた今、次はどこに向かおうとしているのか。すべてに「風間節」で答えてもらった。

風間八宏氏 写真:神山陽平/Backdrop

「人のせいにしない」独自の指導論

——監督というのは、自分ではプレーできないので様々なストレスや困難なことがあると思いますが、一番困難だったのはどんなときでしたか?

自分の困難だったときを振り返ろうと思っても、自分に困難はないから。

なぜ困難がないと思うかというと、一番は人のせいにしちゃいけないと考えてるからなんです。何か物事がうまくいかなかったとき、それを人のせいにしたら何の解決にもならない。

人に出来ないことを押し付けたところで、永久に出来ないじゃないですか。それよりも自分にできることは何なのか。それを見つけて、そこに向かって全力を注ぐことに集中したほうがいい。結果的にはそこに戻ってくるんです。この話って、これまで選手に言ってきたことなんですけど、実は自分自身に言ってたんです。

それから人のせいにしていたら、自分の頭の中にダメだったことや、うまくいかなかった人のことが残っちゃうんです。だったら自分でできることを考えればいい。そっちのほうが実は楽なんですよ。そうやれば悩むことはないですね。

——うまくいかなかったというのも、色々なケースがあると思います。仮に試合で選手のプレーがよくなかったとして、そのときはどう考えていたのでしょうか。

たとえば今、試合が終わって負けてすごく頭に来てるとしますよね。そこで「何で頭に来てるんだ」って考える。たとえば、その原因はある選手が点を取れなかったことだとします。「なんだよアイツ、点取れないなんて」とイライラするのではなく、そこで「言葉を砕いていく」んです。その選手が「点を取れなかった」理由を考えて、そこからだんだん砕いていくと、もう次のトレーニングができる。「じゃあ明日はこういう練習をやろう」と思うんですよ。そうしたら、寝られるんです。

言葉で砕いていく作業は面倒くさいと思うかもしれないんですけど、結果的にそっちのほうが楽なんです。そうじゃなかったらゴールを入れなかった選手のことが頭に残ってしまう。しかも自分のやることは何も整理できてない。それが、砕いていったら、モヤモヤも無くなるし明日やることも決まってくるから、あとは寝るだけになる。整理をつけるようにしてからは楽になりましたね。余計なものが頭に残らなくていいので。

写真撮影:神山陽平/Backdrop

「監督だけをやるために生きてきたわけではない」

——監督は2019年のシーズン途中で名古屋グランパスを離れています。いま、またどこかで監督をやってみたいという気持ちはありますか。

監督を終えたとき「元気ですか」「大丈夫ですか」と……まぁあまり言われなかったですね(笑)。「次は何やるの」「どうするの?」っていうことは言われました。

「次はどこで監督をやりたいですか?」ともよく聞かれますが、監督というのは僕の中のひとつの仕事で、監督だけをやるために生きてきたわけではありません。そもそも、監督というのはやりたいからといってやれる仕事でもありません。その代わり仕事は何でもなめちゃいけないと思いますし、どんな仕事も全力でやるということはいつも考えています。

名古屋グランパス時代の風間氏 2017年から2019年9月まで指揮を執った Getty Images

——最初に川崎フロンターレの監督に就任したときは、確かに急な監督就任だったので驚きました。Jクラブの監督をやってみようというきっかけは何だったのでしょう。

それまでもずっと「Jチームの監督をやる気ありますか?」と聞かれて「ない」って断っていました。でも川崎で監督をお願いされたときはちょっと違ってたんです。オファーをいただいて話を聞いたら、庄子春男取締役強化本部長が「自分たちは点を取れるチームだけど、攻撃っていうのがわからない。だから上から下まで攻撃的なチームというのを構築してほしい」と言ってくれたんです。それはすごく心に響いて、面白い話だと思いました。

——メディアや大学の仕事を途中で辞めて監督に就任しましたよね。

ちょっと生意気を言わせてもらうと、監督という漠然としたものではなくて、面白いもの、やるべきだと感じるものに対して一生懸命やりたいという考え方です。それで「挑戦してみます」と言ったんですけど、そのときはフジテレビにも出ていたし、筑波大学の准教授でもあった。庄子本部長に「そこに話をしなければいけない」と言ったら、「2つをやりながらでもいい」と言ってくれたんです。そうしたらフジテレビも筑波大学も、仕事をしなくていいから監督をしっかりやってくれとサポートしてくれたんです。

——監督になって実現したいと思っていたことは何でしたか?

それまでにJリーグや日本サッカー協会の理事もやらせていただいたんですけど、そこで思っていたのは、「勝ってもお客さんが入らない」という現象が起きていたことでした。

その反対の極論が「負けてもお客さんが入る」ということだと思うんですが、そのためには何が必要か。やはり面白いサッカーをすることだと思います。サッカーって見るほうからすれば「娯楽」のひとつなんです。いくら戦いだって言ったって、映画やミュージカルよりも面白くなければ見に行かない。自分がそうなので。

2012年4月から2016年まで指揮した川崎フロンターレ時代。超攻撃的なサッカーは多くのサッカーファンを魅了した。Getty Images

——エンターテインメントとしてのサッカーに目を向けたのですね。

だからお客さんに楽しんでもらいたいというのがまずあって。勝手なこっちのイメージかもしれませんけど、自分たちの中で面白いものを提供できれば、お客さんは入ると思ったんです。「選手や自分たちのようなサッカーをやってきた人間でも面白いと思えるようなサッカーが出来れば、お客さんは入るよね」というところから始めたんですよ。

もちろんお客さんを入れるというのはグラウンドの上だけのことじゃないですよね。事業、営業とも一緒にやらなければいけない。グラウンドと事業が一体となって「面白いもの」を突き詰めていったら、お客さんにも楽しんでもらえるはず。そう思ってました。

——川崎と名古屋グランパスで実際に指揮を執ってみて、自分の理想は実現できましたか?

僕が川崎に行った最初のころの選手たちというのは、能力はあるんですけど、それをたくさん隠している状態でした。そこを選手それぞれに引き出してもらった。それでみんなの目がひとつになっていって、驚きのあるプレーがどんどん見られるようになっていったと思います。

名古屋の監督に就任したときは、J1昇格が最低のノルマでしたが、その上で志すスタイルを作り出すこと、豊田スタジアムを満員にすることを目標にスタートしました。選手たちの頑張りで多くのお客さんが入り、本当のファミリーの形が見えた1年目だったと思います。それからは、自分たちのスタイルをJ1の中でどう構築していくかということに専念していきましたが、全員が本気になって作った満員のスタジアムの光景と、躍動する選手たちの姿は脳裏に焼きついています。

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