記事

私たちが目指すべきなのは、「お金」の代わりに「共感」が資本となる共感資本社会 - 「賢人論。」第112回(後編)新井和宏氏

1/2


2008年の創業時から鎌倉投信の運用責任者を務めてきた新井和宏氏は、設立10年目の節目となる2018年8月に円満退社。「社会を豊かにする」ベンチャーの資金援助と人材育成のための新会社eumo(ユーモ)を設立した。鎌倉投信のファンドマネージャーという独自に立ち位置で社会と関わってきた新井氏は今、目の前の超高齢化社会をどのように見ているのだろう。これから私たちが幸せに暮らしていくために何か必要なのか、胸に秘めていたアイデアの一端を語っていただいた。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

多様性を認め合うことが社会の大前提。「競争」ではなく「共創」です

みんなの介護 先ほど(中編)、資本主義は息切れしているというお話になりましたが、どうしてこのような状況に陥ってしまったでしょうか。格差や貧困の問題はなぜ発生したのですか。

新井 格差や貧困の問題は、最近になって新たに発生したわけではありません。むしろ、資本主義にもともと内包されていた問題だと見るべきですね。資本主義のベースである市場経済を推し進めていけば、どこかのタイミングでかならず、格差や貧困の問題は発生するはず。

今の状況をより正確にいえば、1990年代以降のグローバル経済の進展と急激なIT技術の進化によって、これまで見えてなかった資本主義の問題点が一気に顕在化したのだといえます。

考えてみれば、資本主義がカンペキなシステムだなんて、誰も言っていません。18世紀以降の歴史の流れの中で、社会主義や共産主義より少しだけマシだった、というだけの話です。私たちは、資本主義というものを過信していたのかもしれません。

みんなの介護 では、問題解決のために、何をすればいいのでしょうか。

新井 資本主義に構造的な問題があるにしても、現在の経済システムをすぐに別のシステムに入れ替えることはできません。格差や貧困の問題が解決する方向へと、システムを少しずつ修正していくほうが建設的です。

そこで今、私たちが提案しているのが「共感資本社会」の実現です。

ならば、「共感資本社会」とはどんな社会なのか。ここでまず重視されるのは多様性です。人の生き方や価値観がこれだけ多様化している時代、まず人々の多様性を認め合うことが社会の仕組みづくりの大前提になるでしょう。

ところが、人や企業を評価する基準は旧態依然のまま、多様化できていません。ほぼ“一様”ですね。学生は「偏差値」で評価され、社会人や企業は「利益」で評価され、国は「GDP」で評価される。このように基準をひとつに単純化すれば、人々はより競い合うようになります。

しかし、これから私たちが目指すべきなのは「競争」ではなく「共創」です。だとすれば、人々が同じ土俵で競い合うことのないよう、評価基準も多様であるほうが望ましい。

そして、ある人はAさんに共感し、ある人はBさんに共感する。その辺は曖昧なままでいい。要は、貨幣に換算できない価値をお互いに認め合っていければいいと考えています。

みんなの介護 キーワードは「共感」なんですね。

新井 はい。たとえば、京都大学総長の山際寿一先生は、ヒトとゴリラ・チンパンジーを分ける境界線は、他者に共感できる力を持っているかどうかだと語っています。また、マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏も、AI全盛の時代になれば、人が人に共感する能力が今まで以上に重要になると述べています。

大阪大学大学院教授の堂目卓生先生はもっとストレートに、「これからは共感資本主義の時代だ」と発言されていますね。堂目先生は『国富論』を書いた18世紀イギリスの経済学者アダム・スミスの専門家ですが、アダム・スミス本人が「人々が互いに共感する結果として経済が生まれた」と書いている。

人間同士共感し合うことで、分業という働き方が生まれ、そこから経済が発展していったわけです。

だとすれば、経済活動においても、もっと共感が重視されてもいいはずですね。私は、「お金」の代わりに「共感」が資本になる社会をつくっていきたいと考えています。

人間同士の関係性が分断されると何事もお金で解決しなければならなくなる

みんなの介護 「お金」の代わりに「共感」が資本になるとは、どういうことでしょうか。

新井 そうですね。たとえば、地方に住んでいた若者が、地域のコミュニティに嫌気がさして、都市部で一人暮らしを始めたとしましょう。

都会で一人暮らしをしていれば、確かに人間関係の煩わしさからは解放されます。生活態度をうるさく注意する親はいないし、何かと世話を焼きたがる近所のおばさんもいない。その代わり、隣に誰が住んでいるかわからないという、きわめて孤独な生活が始まります。

病気になっても、おかゆを作ってくれる母親はいないし、必要なものを買ってきてくれる家族もいない…最悪の場合、孤独死するケースも出てくるでしょう。

人と人の関係性が「分断」されている都会では、隣人やコミュニティに頼れない分だけ、何事もお金で解決しなければならなくなります。そして、一度そちらの方向に踏み出してしまうと、お金ですべて解決するのが当たり前になる。

そうなったとき、便利で快適な生活を送るためには、もはや「お金を増やす」という方法論しかなくなってしまいます。それがはたして、幸せな人生といえるでしょうか。

みんなの介護 そういえば昨年、「老後資金2000万円問題」が物議をかもしましたね。

新井 「老後資金2000万円問題」があれだけ騒がれたのは、私たちがいかにお金に依存しきった生活を送っているかという、さみしい現実を目の前に突きつけられたから。

しかし、何でもお金で解決するといっても、やはり限度がありますよね。日本人の平均寿命が延び、人生100年時代を迎えた今、老後の暮らしの支えは、もはや個人の財布ではどうにもならないところまで来ているのかもしれません。

あわせて読みたい

「日本社会」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    GoTo見直し 協力体制みえず幻滅

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    GoTo停止の是非を論じる無意味さ

    木曽崇

  3. 3

    医療崩壊を煽る報道に医師が怒り

    名月論

  4. 4

    松本人志のGoTo巡る案に賛同続々

    女性自身

  5. 5

    みんなで隠蔽した近藤真彦の不倫

    渡邉裕二

  6. 6

    新井浩文が語った「性的武勇伝」

    文春オンライン

  7. 7

    宮迫&中田&手越共演で「TV崩壊」

    かさこ

  8. 8

    コロナ禍で缶コーヒー離れが加速

    文春オンライン

  9. 9

    政府の問題先送り まるで戦時中

    猪野 亨

  10. 10

    欧州の学者 日本と差は「民度」

    WEDGE Infinity

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。