記事

「資本主義」という社会経済システムに限界が近づいてきている - 「賢人論。」第112回(中編)新井和宏氏

1/2


世界最大の資産運用会社ブラックロックで数兆円の金融資産を運用してきたスゴ腕ファンドマネージャー新井和宏氏。新井氏は、ドキュメンタリー番組「ガイアの夜明け」やNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも出演するなどメディアからも注目を集める気鋭の実業家だ。中編では、そんな新井氏が現在の日本社会をどうみているのかお話を伺った。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

「きれいごと」と揶揄されても国内ファンドの中では運用実績第1位になった

みんなの介護 2008年、新井さんが鎌田さんらと創業した金融ベンチャーの鎌倉投信株式会社は、そのユニークな投資方針で業界の大きな話題になりましたね。まず2011年にテレビ東京系列の「ガイアの夜明け」で取り上げられ、2015年には新井さん個人としてNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」でも密着取材されました。

新井 私たちの投資のスタイルが注目されたのは、これまで理想的とされてきた投資手法の完全に“真逆”をいっていたから。

私たちは企業を評価する際、預金・不動産・売上高・利益率など、目に見えるデータを第一に注目することをやめました。代わって注目したのが、「社風・企業文化・経営者の資質・社員のモチベーション・美意識・社内外に築かれた信頼」などの「見えざる資産」です。

こうした見えざる資産を長年にわたって蓄積している会社は、間違いなく「いい会社」であり、社会に必要とされる会社といえます。鎌倉投信では、そんな「いい会社」を財政面で応援するために、「いい会社」だけを選んで投資しようと考えました。

しかし、「いい会社」が持っている「見えざる資産」は、有価証券報告書、財務諸表を見てもわかりません。

そこで私たちは、気になる企業に足繁く通って経営者や社員の人たちと交流を深め、自分の五感をフルに使って「いい会社」かどうかを確かめることにしました。

みんなの介護 おそろしく時間と労力がかかる手法ですね。

新井 はい。かつて私が“神”のように信奉した、BGIの科学的で客観的な手法とは真逆の手法ですね。客観的なデータではなく、あくまでも自分自身の主観を重視するようにしたのです。

そうやって、自分たちの主観を信じて選んだ「いい会社」だからこそ、その会社を最後まで信頼しようと思いました。「いい会社」であれば、時代の潮流に流されることなく、着実に成長していってくれるはず。だから私たちは、将来的な株式市場の動向や為替の変動などを予測することもやめました。

「先を読まない」ファンドマネージャーなんて、投資ビジネスの世界からすれば、あり得ない存在なのですが…(笑)。

こうした鎌倉投信の運用方針については、業界内から「きれいごと」と揶揄されたり、「運用がうまくいくはずはない」と冷ややかに見られてきました。にもかかわらず、鎌倉投信の「結い2101」は2013年と2019年、国内ファンドの中で運用実績第1位に輝いています。

この事実を見る限り、私たちの運用方針は間違ってなかったといえるのではないでしょうか。

「経済成長だけは無限に続いていく」と、誰もが何となく信じ込まされてきた

みんなの介護 鎌倉投信の運用方針については、新井さんの著書『持続可能な資本主義』(ディスカヴァー携書)にも書かれていますね。この本の中で個人的に気になったのは、「世界中で資本主義が息切れしている」という記述です。これはどういう意味ですか。

新井 一言でいえば、「資本主義」という社会経済システムもそろそろ限界に近づいてきた、ということですね。

日本経済は長らくデフレと低成長が続いていますが、これはもはや日本だけの現象ではありません。いまやどの先進国でも経済成長率は伸び悩んでおり、政府と中央銀行がいくら金融・財政政策を講じても、世界的な格差と貧困の拡大に歯止めがかかりません。

さらには、これまで頼みの綱だった新興国の経済までも、成長率に急ブレーキがかかってしまった。こうなってくると、資本主義というシステムそのものが限界に近づいているのでは?と考えざるを得ません。

みんなの介護 なるほど。新井さんご自身は、資本主義の「息切れ」をいつ頃から感じ始めたのでしょうか。

新井 リーマン・ショックが起こる少し前の2006年あたりから、ですかね。リーマン・ショックまでは予想できませんでしたが、投資の現場で「ん? なんか変だな」と感じることが増えてきました。どう考えても普通ではあり得ない、たとえばサブプライムローンのように不自然な金融商品に依存するようになるとか。

今思えば、リーマン・ショックは起こるべくして起こったのですが、考えてみると、世界経済は市場の期待が膨らんだりしぼんだりするごとに、「バブルが膨らんで、はじけて」を繰り返してきました。

古くは1920年代にアメリカの株投資ブームがはじけて世界恐慌が起こり、近いところでは1980年代の日本で地価高騰とバブル景気の崩壊があり、90年代にはタイの不動産バブルがはじけてアジア通貨危機が起こり、ITバブルの崩壊では多くのITベンチャーが倒産に追い込まれました。

私たちが資本主義という経済システムを選択している以上、バブルの発生と崩壊は、いわば宿命みたいなものなのでしょう。

みんなの介護 資本主義というシステムそのものが抱えている、ときどき発作を起こす持病のようなものなのかもしれませんね。

新井 資本主義のもうひとつの弱点は、「無限成長論」が当たり前のように信じてられていることです。私たちの地球は1個しかないし、資源も有限のはずなのに、「経済成長だけは無限に続いていく」と、誰もが何となく信じ込まされてきたのではないでしょうか。

しかし、ちょっと考えてみれば、「そんなのあり得ない」とすぐにわかりますよね。

地球も有限、化石燃料などの地下資源も有限。なのになぜ、経済だけが無限に成長できると考えてしまうのか。「そんなことあり得ない」と、本来はすぐに気づくはずなのですが…。

あわせて読みたい

「資本主義」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    渋谷で「一揆」補償巡りデモ行進

    田中龍作

  2. 2

    電通らが甘い汁を吸う給付金事業

    青山まさゆき

  3. 3

    コロナが炙り出す質低い大人たち

    毒蝮三太夫

  4. 4

    宗男氏 共産党議員に厳しく対処

    鈴木宗男

  5. 5

    元自民議員 安倍政権長く続かず

    早川忠孝

  6. 6

    報ステ視聴率危機? テレ朝に暗雲

    女性自身

  7. 7

    「北九州第2波」の表現は大げさ

    木走正水(きばしりまさみず)

  8. 8

    木下優樹菜が復帰できない事情

    文春オンライン

  9. 9

    検察庁前で開催「黒川杯」に密着

    SmartFLASH

  10. 10

    元慰安婦団体なぜ内部分裂したか

    文春オンライン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。