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「障害」ということ、「自立」ということ──映画『インディペンデントリビング』から見えるもの - 熊谷晋一郎×田中悠輝

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家族にだけ責任を負わせない──「自立生活」という第三の道

熊谷 あともう一つ、映画を見ていて思わず涙ぐんでしまった場面がありました。それが、知的障害と精神障害があり、さらにはてんかんの発作も抱えながら自立生活を目指している女性が、彼女を心配する母親と衝突する場面です。

田中 彼女はこれまで母親と同居してきて、彼女の生活についての責任の多くをお母さんが一人で背負ってきてしまったんですよね。一対一でずっと2人だけで向き合って、それゆえに衝突が絶えなくて「やるかやられるか」みたいな、緊張した関係性が続いていた。

そこで幸いだったのは、夢宙の仲間がその「閉ざされた」家族関係の中に入ってきてくれたことです。関係が一対一ではなくて三角形になり、母親が一人で責任を背負わなくてよくなったことで、少しずつ関係性が変化していきました。

熊谷 自立生活運動を描くときには、「脱家族」という視点がどうしても欠かせません。家族制度自体が健常者向けにできている面があるので、障害を持つ人が自立しようとすれば、そこから抜け出さなくては生き延びられない。しかし、その「抜け出す」プロセスは、しばしば困難を伴います。

障害のある人の家族にだけ介護の責任を負わせようとする家族主義は本当に危険だし、逆に差別的な言説を生み出す原因にもなりかねないと思っています。障害者の側から見れば、家族にしか頼れない生活は、悪意はなくとも家族に「支配される」暮らしをもたらします。逆に、家族の側から見ても、家族主義は過度の介護負担と機会費用の損失をもたらし、大きなストレスを与えるものです。さらに、そうした抜き差しならない関係には、常に暴力の影が忍び寄ります。

田中 映画の中でも、事故による脊髄損傷で車いす生活になった男性が一人暮らしをしている家に、お兄さんが差し入れを持って訪れる場面があります。でも、実は以前、男性が実家で母親の介護を受けて暮らしていたときは、お兄さんはほとんど弟と話をすることもなかったんだそうです。それが、男性が自立生活に移行したら、時々遊びに来るようになった。家族の間には、そういう独特の力学が作用するんだと思います。

昨年、元農水事務次官の男性が「引きこもり」の息子の家庭内暴力に悩んだ末、息子を殺害するという事件がありましたよね。それについての報道を見ていたときに、父親に同情し、擁護する声の多さに驚きました。

熊谷 「子どもがあんな状況なら殺してもしょうがない、親がかわいそう」──1970年に、障害のある子どもを育てていた母親が追いつめられてその子を殺害するという事件がありました。母親に同情する世論が高まり、減刑嘆願運動まで起こるのですが、昨年の事件に対するメディアの反応は、そのときをなぞっていましたね。

田中 「親が追いつめられて子どもを殺す」という構造はいまだに続いていて、さらには障害のある人以外にも広がっているように思います。

でも、一方で70年の事件があった後、ILは80年代からずっと自立生活という「第三の道」を示し続けてきたわけですよね。家族がすべての責任を負うのではなく、殺し殺されるのでもなく、親も子もそれぞれ好きにやっていくという道を取ったほうがいいんじゃないの? というのが、この半世紀で見えてきたことだったはずです。メディアはそういうことをこそ伝えるべきだと思うし、そういうオプションが現実的なものとしてあるんだという希望が、もっと認知されるべきだと思います。

熊谷 その意味でも、『インディペンデントリビング』から学べることは多いと思います。スクリーンに映し出される自立生活センターの光景などを見て、誰もが最初に思うのは、こんなにも「支えてくれる」人がいるのか、ということだと思うんです。「大丈夫かな」と気に掛け合ったり、困りごとを相談したり、制度だけではない部分も含めた、血縁の家族とはまた違う支え合いの場。ああいう雰囲気の中でなら、子育てもしやすいだろうと感じる人も多いのではないかと思いました。

田中 「自立」という言葉は、経済的・身体的といった狭い意味で語られがちですが、実はILにおいては、そんな考え方はとっくに覆されていて。自分で服を着るのに2時間かかるのなら、介助者を使って15分で着替えればいいよね、ということが、ずっと言われてきたわけですよね。

そしてそれは、実は「健常者」にとっても同じなんじゃないかと思います。誰にでも苦手なことはあるんだから、苦手なことは誰かに頼めばいい。そう考えることができたら、すごい生きやすさにつながるんじゃないか。映画を見ながら、そんなことも考えてもらえたらと思います。

作品紹介

『インディペンデントリビング』

3月14日(土)より東京・ユーロスペースにて公開中、ほか全国順次
<新型コロナウイルス予防対策としてインターネット配信も実施中>
公式サイト: https://bunbunfilms.com/filmil/
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=pTnmMiu1Jb4&t=1s

物語の舞台は大阪にある自立生活センター。ここは障害当事者が運営をし、日常的に手助けを必要とする人が、一人で暮らせるよう支援をしている。先天的なものだけでなく、病気や事故などにより様々な障害を抱えながら、家族の元や施設ではなく、自立生活を希望する人たち。自由と引き換えに、リスクや責任を負うことになる自立生活は、彼らにとってまさに“命がけ”のチャレンジだ。家族との衝突、介護者とのディスコミュニケーションなど課題も多く、時に失敗することもある。しかし、自ら決断し、行動することで彼らはささやかに、確実に変化をしていく  

2019/日本/98分/カラー/DCP/ドキュメンタリー
※バリアフリー上映(日本語字幕つき/音声ガイド[UDcast方式つき])

熊谷晋一郎(くまがや・しんいちろう)
東京大学先端科学技術研究センター准教授/医師

新生児仮死の後遺症で、脳性麻痺に。2001年に東京大学医学部医学科卒業。その後、千葉西病院小児科、埼玉医科大学小児心臓科での勤務、東京大学大学院医学系研究科博士課程での研究生活を経て、2015年より現職。障害や病気を持った本人が、仲間の力を借りながら、症状や日常生活上の苦労など、自らの『困りごと』について研究する「当事者研究」が専門。著書に「発達障害当事者研究」(綾屋紗月との共著)、「リハビリの夜」(いずれも医学書院)など多数。
田中悠輝(たなか・ゆうき)
「インディペンデンリビング」監督

2013年から福岡県北九州市の認定NPO 法人抱樸(ほうぼく)で野宿者支援にかかわる。2015年に東京に戻り、翌年4月自立生活センターSTEPえどがわで重度訪問介護従業養成研修を修了し、ヘルパーとして働く。同年6月鎌仲ひとみ率いる「ぶんぶんフィルムズ」のスタッフとなる。その後、映画『インディペンデントリビング』の撮影開始。2017年から認定 NPO法人自立生活サポートセンター・もやいでコーディネーターとして勤務。2018年から日本初の市民(NPO)バンク「未来バンク」理事。

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