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新型コロナと思いがけない世界大戦

今回の新型コロナウイルスの一件は「戦争」に例えられるという考えを、私はここ数週間ほど主張しておりますが、また今回も戦争にたとえて考えてみたいと思います。

とくに今回は、WHOをはじめとする世界の保健機関や国々が、SARSの流行以来、次のウイルスのアウトブレイクは短期に封じ込められる、という誤った想定をしていた可能性を指摘したいと思います。

そのためには、まず19世紀から20世紀にかけての、プロイセン/ドイツ帝国の状況を思い浮かべていただきたいのです。

19世紀のプロイセン王国といえば、現在の東ドイツからポーランドの西半分に位置する、ヴィルヘルム国王率いるドイツ語を話す欧州の有力国の一つでした。

ところがナポレオン率いるフランスやロシア帝国などの圧力により、欧州では国民の優秀さにかかわらず、今一つ力を発揮できない状況にありました。

そこでプロイセンのエリートたちの間では「ドイツ語圏を主導してドイツ帝国を作ろう」という野望が芽生え、ライバルであるオーストリア=ハンガリー帝国と、ドイツ語圏における覇を争うことになりました。

その時にきっかけをつくったのは宰相ビスマルクとモルトケ将軍のコンビです。彼らは共にデンマーク戦争(64年)、普墺戦争(66年)、そして普仏戦争(80-81年)を戦い、パリを砲撃中に郊外の王宮であるベルサイユ宮殿でプロイセンをリーダーとしたドイツ帝国の建国を宣言(1871年)してしまいます。

この少し前に、史上まれにみる「決戦」が起こりました。プロイセン軍が、敵であるフランスの君主であったナポレオン三世を、「セダンの戦い」というたった一日で終わった劇的な戦いで、約10万の兵と共に、なんと捕獲してしまうことになったのです。

ナポレオン三世は退位させられてフランスは第三共和政に移行しましたが、民衆はパリが包囲されてもゲリラ戦まで続けて戦い(パリ・コミューン)、フランスの正規軍に掃討されてから、第三共和政政府は誕生したばかりのドイツ帝国とようやく講和します。

この劇的な「セダンの戦い」による鮮やかな勝利や、それ以前のプロイセンの一連の短期戦は、それがあまりにも鮮やかであったために、その後の欧州の各国の軍人たちが理想とする戦争の「モデル」となったわけです。

ところがこの理想的なモデルが、その後のドイツやそれを見習った欧州の国々を苦しめることになります。

なぜなら欧州のすべての国が、短期で片付く「セダンの戦い」を見習ったために、それが失敗した後の長期戦を考えたり、備えることができなくなってしまったからです。

その典型的な例が、すべてのプレイヤーが短期決戦を考えて、結果的に泥沼にハマってしまった第一次世界大戦(1914〜18年)です。

さて、新型コロナの話に移ります。

今回のアウトブレイクの前に、世界的な疫病の流行といえば、SARS(2002年)と新型インフル(2009年)、そしてMERS(2012年)を覚えている人もいるでしょう。

この3つの疫病は一時的に世界に流行しましたが、SARSはその翌年、新型インフルも季節性に移行、そしてMERSは中東地域だけでほぼ封じ込められている状態だといえます。

つまり人類はこの伝染病に、完全ではないが、それでも「短期間で勝利した」と言えます

ただしこの「短期で終わった」というのは危険でした。といいますのも、これは人類の感染症対策にとって、プロイセン軍による「セダンの戦い」のような「短期決戦」だったからです。

おそらく次も短期に封じ込める、と思ったWHOを始めとする世界的な保健機関や、各国の保健当局は、今回の新型コロナでも「勝利」できると油断していたのかもしれません。

ところが去年に中国の武漢で発生したのは、まさにドイツにとっての第一次世界大戦のような、実に長期戦を強いられる、粘り強い相手との長期戦でした。

短期決戦で封じ込めることができるという目論見は虚しく外れ、新型コロナウイルスは予想以上の感染力を発揮し、出元の中国だけでなく、日本や韓国、そしてその対応をバカにしていた欧州やアメリカの当局者までを、ことごとく圧倒していったのでした。

つまり単なる局地戦の決戦で封じ込められると思っていた戦いが、いつの間にか世界に広がり、まるで第一次世界大戦のようなパンデミックへと様相がかわってきてしまったのです。

もちろん新型コロナがそのまま第一次世界大戦だというメタファーは、感染症は自然災害に近いという意味から、不適当に感じる人もいるかもしれません。

しかし今回のウイルスの拡大のスピードと規模、それに国際社会全体に対する影響を考えると、これを「普仏戦争」ではなく「第一次世界大戦」にたとえるほうが、いくつもの示唆をわれわれに与えてくれるものだと私は考えております。

このような前提を踏まえると、これから戦いは長期化することがわかります。

われわれは第一次世界大戦の時に兵士たちが合言葉にしていた「クリスマスまでに戦争は終わる」はありえず、数年間はかかる(第一次世界大戦の時は4年3ヶ月)、という覚悟で臨む方が適切なのかもしれません

「縁起でもない話はするな!」

というお叱りも受けそうですが、このようにあえて最悪の事態を想定しておくことのほうが、われわれの今後の生き残りを考える上で大切なのではないでしょうか?

(代々木体育館)

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