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香川で全国初ネット・ゲーム依存対策の条例が可決 依存症支援者は「根本的解決にはならない」と指摘

18歳未満のインターネットやゲームの依存症を防ごうと、ゲームの利用時間を1日60分(休日90分)までとする目安を盛り込んだ全国初の条例が18日、香川県議会で可決、成立した。4月1日から施行する。

条約ではスマートフォンの利用については中学生以下が午後9時まで、それ以外は午後10時までとする目安を設置。罰則は設けていない。

ゲームやスマホの利用時間を制限することは、依存症の防止につながるのか。自身もギャンブル依存などを経験し、現在はゲームを含む依存症患者の支援を行う一般財団法人ワンネスグループの共同代表を務める三宅隆之さんは「根本的な解決にはならない」と指摘する。

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世界保健機関も病気と認めた「ゲーム依存症」ってなに?

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世界保健機関(WHO)は2019年5月、条例の目的となったゲーム依存症に当たる、「ゲーム障害」を国際疾病に正式認定した。

・ゲーム時間や頻度を自ら制御できない
・日々の生活のなかでゲームを最優先する
・生活に支障をきたしても続ける

などの状態が12カ月以上続き、社会生活に重大な支障が出ている場合に診断される可能性があるとされている。

三宅さんによると、18年のワンネスグループへの電話やメールによる依存症の相談件数は、全体で約2500件。そのうち8%がゲーム依存症に関するものだった。しかし、19年には全体(計約2800件)のうち、25%まで増加したという。

三宅さんは「国の実態調査や報道などによってゲーム依存症の存在が周知され、家族など周囲の人間が気にかけるようになった」と背景を説明する。相談のうち、7割が中高生の家族から、3割は当事者からのものだという。

「香川県の条例は根本的な解決にはならない」

香川県の条例に関して、三宅さんは「60分というひとつのラインを示すことは大事。基準に照らし合わせて、ゲームにのめり込んでいる子どもの状態を客観的にみることができる」と評価。しかし、「時間を規制するだけでは、根本的な解決にはならない。ゲーム依存症を防止するための課題は他にある」と指摘する。

ゲーム依存症患者やその家族の相談を受けるなかで、三宅さんが実感したのは「ゲームに依存する背景には、社会や学校での生きづらさがある」ということだ。

「依存症患者のほとんどが、社会や学校で挫折を経験し、『自分は周囲に受け入れてもらえない』という思いを抱えています。一方、ゲームのなかではそういった挫折感を覚えることがなく、秀でたプレイをすればゲームコミュニティで賞賛されることもあります。社会生活では苦痛を感じているからこそ、『ゲームのなかには自分の居場所がある』と思ってしまうのです」

そのため、ゲーム時間を規制したりゲーム機を取り上げたりするなどの対症療法をしても、心理的、社会的な課題が解消されないままでは、根本的解決にはならない。三宅さんは「生きづらさを抱えたままの人からゲームを取り上げると、アルコールやギャンブルなど別の依存症に陥ってしまう可能性もあります」と警鐘を鳴らす。

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ゲーム依存患者の家族「私たちは被害者。問題はない」

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ゲーム依存症の防止や治療のために必要なのは、当事者が抱えている問題を心理的、社会的に解決することだ。その過程で重要になってくるのが、家族のあり方を見直すことだという。

三宅さんは、相談にくる家族や親子は「コミュニケーションがうまく取れていないケースが多い」と指摘する。

「あいさつや表面的な会話などはできても、社会や学校で感じるしんどさや辛さ、寂しさなど、子どもが『誰かに聞いてほしい』と思う悩みを家族に話すことができていない場合が大半です」

しかし、相談をもちかける親のなかには「ゲーム依存は病気だから本人の問題。私たちに問題はなく、むしろ被害を受けている」と口にする人もいるという。

「ゲーム依存からの回復には、まず家のなかでの居場所や安心感を作っていくことが大切です。不安定な環境に置かれたなかで、時間規制などのルールだけを設けてもうまくはいきません。親側のほうこそ支援が必要だとされるケースもあります。ゲーム依存症を機に、子どもとの対話をしっかり行い、家族ごとに納得できるルールを探る試みが重要です」

依存か熱中か ゲーム依存症を見極める人材は香川県にいるのか

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1日60分、休日は90分というラインがあれば、「自分、あるいは自分の子どもがゲーム依存症ではないかと不安を覚える人は増加する」と三宅さんは推測する。

「件数が増えたとして、現在の香川県の相談窓口に、ゲーム依存症か否か正確に見極め、適切な対応ができる人材がいるのでしょうか」

三宅さんがそう話すのは、ゲーム依存症かどうかの判断は「非常に難しい」からだ。ゲーム依存症に関しての社会理解が進んでいないなかで、利用時間だけを基準に、依存症ではないかと周囲が過剰反応してしまう場合も多い。「例えばeスポーツ(スポーツ競技としてのゲーム)の熱中や努力を依存症と捉えてしまうと、才能の芽をつんでしまう結果になります」

「自治体にはまず、ゲーム依存症に関する正しい知識を広める努力が求められます。そのうえで、依存症かどうか正確に見極め、基準時間を超えているから『問題ですね』で終わらせるのではなく、医療・心理・社会的なアドバイスを適切に行える人材を育てていくことが急務です」

マスコミは「依存の怖さ」を伝えるだけでなく、脱却したケースの報道を

正しい知識を広めるためには、メディアの報道も重要になってくる。三宅さんは「ゲーム依存症の怖さ、深刻さを伝えるだけで終わるメディアも多い」と指摘する。

「『なぜ依存症に陥ったのか』という背景を丁寧に取り上げ、ゲーム依存症の実態と社会的な要因の両面を正確に伝えることが重要です。ゲーム自体は悪いものではありません。それなのに感情的に捉え過剰反応してしまうと、『危険に思えるものは規制してしまえ』と実効性のない仕組みが生まれてしまうことになります」

「eスポーツなど時代の変化に沿って、新しい文化も生まれています。さまざまな視点や可能性を広げていくなかで、問題を抱える人が一部にはいるという認識を持って、解決のためには何ができるか、探っていく姿勢がこれから必要とされるでしょう」

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