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緊急事態のあり方

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【告知】 令和2年4月1日、新著「国益ゲーム」発刊です。内容説明はリンク先にありますが、付言すると「誰にも阿る(おもねる)事をしていない本」です。そして、いわゆる「政治家本」でもありません。

 今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案の成立を通じて、「緊急事態宣言」というものに注目が集まりました。私は重大な事態において一定の権利制限をしなくてはならない事があり得ると思っています。まず、そこは押さえておきます。ただ、それは「徹頭徹尾、法に基づいてやるべき。」という考えです。ザクッと憲法に書けばいいというものではありません。

 まず、憲法に緊急事態宣言によって、行政府の裁量で法に基づかず人権を止めるというのは、言い直すと「時間的な制約から国会が邪魔だ。」という事です。憲法による緊急事態宣言とは「議会スルー」のためのツールだというのは、諸外国の憲法学では比較的常識とされています。日本の憲法議論の中で、いつも不思議だなと思うのがここです。一部の議員が「緊急事態の時、俺達は邪魔な存在だからスルーしてくれ。」と熱く訴えているように見えるのですね。何故、安全保障法制の際は「Think the Unthinkable(考えられない事を考える)」で法に穴を作らせてはならないという発想になり、憲法議論になるとバスケット条項に投げようとするのでしょうか。議会人であれば普通は「法律で徹底的に何処まで可能かを議論しよう。」というふうになるはずです。

 こういう法制度が比較的整っているフランスのケースを見てみたいと思います。あの国では、緊急事態(état d'urgence)、大統領大権(pouvoirs exceptionels du président)、戒厳令(état de siège)は分けて考えられます。 緊急事態というのは法律に定めがあり、大統領大権(憲法16条)、戒厳令(憲法36条)は憲法に定めがあります。

 緊急事態は、第四共和政末期の1955年に法律が作られています(フランス語Googleによる(かなり雑な)日本語訳)。当時はベトナムのディエンビエンフーでの敗北、アルジェリア情勢の混迷等への政治の無力が目立っていました。読んでいると、時代の雰囲気を反映してか、移動制限、自宅軟禁・行政拘留、関係団体の解散、イベントの禁止、武器の放棄、検閲等が定められています。これだけでも結構強烈な印象があります。しかも、議会の承認手続きはありません。議会に与えられているのは「延長を認めるかどうか」の権限であり、そのための情報提供を求める権限のみです。

 2015年のテロの時は緊急事態が宣言され、令状無しの家宅捜索や拘留を数千件行いました。当時は左派オランド政権でしたが、途中、別個のテロ事件が起こったといった事情があり、議会は何度も緊急事態を延長しています。結局、3年近く継続して、大統領が交替後、現在のマクロン大統領が終止符を打ちました。この間、国内やEUから何度も人権の観点から問題視されたものの、フランスは止めませんでした。この間、私は結構動きをフォローしていたのですが、結論として「使い出がいいんだろうな、これ」と思いました。令状無しで軟禁、捜査、拘留、滞在禁止等をやれるとなると、公権力からすると使い出が良いはずです。上記にも書いた通り、テロ等への対応のための必要性があった事は否定しませんが、「手放したくない便利なツール」に転化していた面があると思います。

 なお、憲法16条に定めのある大統領大権については、1961年に一度だけ発動されています。アルジェリアでのクーデターを受けて、ド・ゴール大統領が発動しています。何をしたかというと、緊急事態の延長を議会に諮らない、拘禁期間の延長、自宅軟禁の対象拡大といった内容でした。ここでも明らかな通り、議会スルーのツールとして使われたのです。この大統領大権については、特に左派系からの批判が強く、過去に何度も憲法改正で廃止する議論がありましたが、今でも残っています。ミッテラン大統領、オランド大統領といった左派政権でも廃止には至りませんでした。

 そして、憲法36条に定めのある戒厳令は現在の憲法下では発動された事がありませんが、とてつもない内乱とか戦争の時に発令され、軍が警察機能や司法機能を担うのが特徴的です。いわば「軍政」になるという事です。

 この憲法による「大統領大権」や「戒厳令」については、憲法規定を踏まえて、ある程度は「こんな事が出来る」という法整備が行われていますが、相当にザックリしています。憲法に緊急事態宣言を書き込むというのは、そういう事じゃないかと思うのです。日本で緊急事態宣言を憲法に書き込むという事は、とてもザックリとした法に基づかない人権制限の権限を行政府に与える事になるのだと思います。

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