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就職活動過程における「やりたいこと」の論理 - 妹尾麻美 / 社会学

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1.仕事を語る語彙

就職活動で自己分析が定着してからおおよそ20年が経とうとしている。この間に、「キャリア」という言葉も普及した。「自らのキャリアや目標を考えて仕事を選択する」という考え方は若者のみならず、30代・40代の人々にとってもある程度「当たり前」のこととして受け止められている。

キャリア形成時、就職活動時、転職時、「やりたいこと」という言葉は仕事を語る語彙としてよく用いられる。この言葉で仕事が語られるとき、仕事に対する熱意や意欲と捉えられ肯定的に評価されることもあれば、仕事に対するわがままや享楽的な志向とされ否定的に評価されることもある。

しかし、こうした価値判断を行う前に、そこで語られている「やりたいこと」はどのような特徴を持ち、その特徴がどのような背景から生じるのかを明らかにすべきだと思うのである。そこで、本稿では就職活動過程において大学生が語る「やりたいこと」にどのような特徴や背景があるのか、を示していきたい(注1)

(注1)この方針は、フリーターにおける「やりたいこと」の論理を明らかにした久木元(2003)を参考にしている。

2.就職活動前半に語られる「やりたいこと」

さて、少々前のデータにはなるのだが、2012年に筆者が実施したAさんへの聞き取り調査データをみていきたい(注2)。むろん、たった1名の語りが就職活動を行う大学生全員に当てはまるわけではない。ただし、Aさんのデータは、主に人文・社会科学系を中心とし、事務・営業職を目指す「標準的な就職活動」(注3)を行う大学生に起きうる可能性が高い事象が数多く現れている。また、Aさんが語る「やりたいこと」をわたしたちも理解できるとするならば、それは単にAさん個人の意識に還元してしまえるようなものではなく、それ自体「動機の語彙」として考えるべきものであろう。

(注2)プライバシーに配慮し、意味が通るようにするため、最低限の加工を施した。

(注3)ここでの「標準的な就職活動」とは、3年生から4年生のある時期に就職ナビサイトに登録、説明会に参加、エントリーシート・履歴書を提出し、選考に進むといった一連の活動を指す(濱中2007)。

では、Aさんについて紹介したい。彼は中堅私立大学の社会科学系学部に所属する学生で、2013年卒業予定であった。2013年卒の活動は大学3年生12月に採用情報の解禁がなされ、4年生の4月に内々定の解禁がなされた。2013年卒はリーマンショックの後、落ち込んだ就職内定率が上向き始めたころであり現在よりは厳しい状況であった(厚生労働省・文部科学省2019)。

Aさんは大学2年時にキャリア教育の授業を受講しており、3年時の12月から就職活動を開始した。Aさんの感覚では、「1日1社っていうペースで、週に4、5回はずっと」という。2012年3月時点で説明会に10社から20社ほど参加し、エントリーシート・履歴書を各5〜6社程度に提出していた。筆者は2012年3月、4月、7月の3回、彼に聞き取り調査を実施している。

1回目の調査時、Aさんは第1志望のX社(商社)の選考に落ちた直後で、かつY社の内定を得ていた。ただし、Y社は「1回の面接で通ってしまった」と述べ、Y社の募集人数が多いことから「そっから振り落とそうとしてるのかなっていう。不安もあるんで。」といわゆるブラック企業である可能性を疑っていた。

まず、筆者はAさんにX社を受けようと思ったきっかけを聞いてみた。

人と関わるのが結構好きで接客とかいろいろアルバイト経験もあるんで。人にものとかを提案するのがちょっと興味がありまして。商社というか、営業系をやりたいなって。

このとき、「人にものを提案する」「営業系」をやりたいと述べていた。志望の業種や会社について聞くと、Aさんは以下のように答えてくれた。

そうですね、社風とか活気とかを重視していて(略)「企業見学させてください」って12月ごろにお願いして、企業さんどうやら12月と1月は結構暇だってことだったんで、そこで見学して自分で肌で感じてみて。で、そのなかで、一番自分のやりたいなって思う、社風といいますか、そこで働きたいなって思ったところを重視してます。

業種や企業の選択に関して見学を行いつつ、直感にも近いかたちで「やりたい」と思ったことを判断していた。

だが、Aさんは「やりたいこと」として語られた営業職と一見両立しないことも同時に述べていた。たとえば、営業職の内定(Y社)を得ても、就職活動を続ける理由について以下のように返す。

A:そうですね、やっぱりいろいろ見て、自分のやりたいことやりたいものを選びたいってのがあるんで、まだ続けるつもりです。

筆者:そのやりたいことってのは?

A:ん、そうですね。Y社は自分のやりたいといいますか、自分の志望して選んでるわけではなかったので、やっぱり、自分がこれ行きたいって思えるところに一番いける、まだ結果が出てないのでそれを見つけたいです。

こうしてY社は「行きたいって思えるところ」ではないとAさんに却下される。

さらに、Aさんに志望動機について確認すると「営業職でなくてもよい」というのである。

A:自分のやりたい業界ってのは、営業職であったりだ、とかなるんですけど、選考していく中で営業じゃないとこもところどころぶつかるんですけど、それに対してはそうですね。深い話じゃないですけど、どこでも使えるような志望動機を、自分の中でつくってあるんで、それを応用してます。

筆者:入った会社で人事やってくださいとか、全然営業じゃない仕事やってくださいっていわれたら、もしそうなったらどうする?

A:それはそれでいいんじゃないって思いますけど。その会社をさらによりよくするために、自分が会社を勢いづけるってことができるのであれば。

筆者:じゃあ、自分が営業やりたいっていうよりも、この会社やったらいいかなみたいな基準で?

A:ま、そうですね、人事部とか上の人が「あなたはこれに向いてる」って言ってくれるのであれば、そういう判断してくれたのであれば、しっかりそれに対してやっていきたい。

このように、営業に必ずしもこだわっておらず、採用された会社の判断を受け入れる態度を見せているのだ。

ここまでみてきたAさんの語りをまとめよう。彼は、①「営業系がやりたい」と考えつつ、いくつかの会社を訪問している。そのなかで、②「一番自分のやりたいなって思う、社風といいますか、そこで働きたいなって思ったこと」を考えている。だが、「やりたいこと」として語られた営業と一見相容れないような発言も見られる。③営業職で内定を得たにもかかわらず「自分のやりたいことやりたいものを選びたい」ため就職活動を継続していることや④企業の判断があれば営業じゃなくても構わないといった点である。

これを見る限り、ここで語られている「やりたいこと」は彼のキャリアを示すものとも、仕事に対するわがままとも異なる。

やや複雑なこの語りに説明を加えていきたい。ここで語られる「やりたいこと」には2つの特徴が挙げられる。1つ目は、「やりたいこと」は就職活動過程で見つけるもの、ということである。Aさんは「営業」と職種を絞ってはいるものの、それ以上明確な業務内容や職種については語っていない。就職活動過程で見つけた関心について「やりたいこと」と語っている。さらに、「営業」以外の職務でも構わないとさえ述べており、採用された会社の判断を受け入れるという態度を持っている。Aさんにとってこの過程は「自分がこれ行きたいって思えるところ」を見つける活動なのだ。

では、なぜAさんはそれを探そうとしているのか、これは単なる「やりたいこと」探しではないように思われる。「できれば、入ったからには一生定年なるまでしっかり働きたいなって」という彼の別の語りにヒントがある。彼は「そこで働くっていうご縁があった(略)せっかくこんなにたくさんある企業の中で、私という人材を見てもらえたのであればやっぱり。ちゃんと貢献したい、期待に応えたいっていう気持ち」と述べ、内定を得た企業で定年まで働こうとしていた。

Aさんは、就職活動過程で「やりたいこと」を発見し、それが評価されれば、一生働き続けられると考えている。すなわち、この過程で見つけた「やりたいこと」であれば一生続けられる、というものである。これが「やりたいこと」の2つ目の特徴である。

3.「やりたいこと」が語られる背景

こうした「やりたいこと」を語るAさんに対し、将来像や業務内容が明確ではないとみる人もいるかもしれない。また、興味・関心でそれが「コロコロ」変わると非難する人もいるかもしれない。よく考えれば「短期間に決めたものを一生続ける」ということ自体、両立しないように思われる。しかし、このことはAさんの「気持ち」に還元するような問題ではないだろう。そこで、この「やりたいこと」の論理を就職−採用活動という社会の仕組みの問題として考えてみたいのだ。

就職−採用活動について順を追ってみよう。

活動の前半、ナビサイトへの登録や説明会への参加が行われる。大学生は説明会に参加し、企業を探そうとする。企業は母集団形成に関する活動を行う。Aさんは「企業さんどうやら12月と1月は結構暇だってことだったんで」と述べている。この時期、企業は大学生に門戸を開く。企業は大学生からのより多くの応募を集めるため情報を提供している。就職ナビサイトに情報を載せる、採用HPを立ち上げる、魅力的な説明会を開催するなど「人集め」を行う。大学生からみると、多くの情報から志望する企業を選択することとなる。

次に、選考へと移行する。履歴書・エントリーシートによる書類選考やSPIなどの試験、複数回の面接となる。このとき、企業は複数の応募者から採用予定人数に絞り込む作業を行う。大学生は自らの就職先候補を複数社選定し、上記の作業が課せられる。1社につき複数回の選考となるので、複数社に応募していればかなりの作業量になる。つまり、この時期、彼は毎日のように自己PRや志望動機を語っていたと推測できる。

2014年に実施された調査において、企業が採用で大学生に求めるものの上位3つは「人柄」「その企業への熱意」「今後の可能性」となっている(リクルートキャリア2014)。志望動機や企業への熱意を企業が大学生に求めるとき、「うちの会社でやりたいことはなんですか?」と聞くことは多いにあるだろう。こうして、大学生は「やりたいこと」を個々の企業に合わせ、ここに入りたいという興味や関心を答えることになる。

だが、Aさんのように志望していた企業に落ちること当然もある。AさんはⅩ社に再受験の申し出も考えていたほどであり、諦めきれていない。しかし、「それでアカンかったらあきらめつくかなって。じゃあ、もう縁なかったんやし、それやったら、自分と縁があるところを少しでも多く探そう。そこはポジティヴに。」と切り替え志向も持っている(注4)

(注4)むろん、企業が落とす理由は「定員を締め切った」「能力が足りてなかった」などいろいろと考えられる。しかし、大学生にその理由が明確に伝えられることはないため、わからないまま活動を続けることになる。また、落ちた理由がなんであれ、本人の考えた「志望動機」や「やりたいこと」は企業に合わせたものであれば落ちた後、宙吊りにされる。

たとえ失敗したとしても採用活動が落ち着くまでナビサイトには情報が一定程度あり、「まだまだ採用実施中」など煽るような文言すら登場する。彼らにとって、切り替えて、あらたに「やりたいこと」を見つけるほうが合理的なのである。

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