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山師海底へ - 書評 - 太平洋のレアアース泥が日本を救う

出版社より献本御礼。

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太平洋のレアアース泥が
日本を救う
加藤泰浩

こういう本が単著として出ることも新書がベストなところ。これが「資源一般」とか「採鉱一般」とかとなると、一冊ではなく一章になってしまう。

読む前はなぜ「海底ごりごり 地球史発掘」(こちらも良書)のように PHPサイエンス・ワールド新書の方に入れなかったのかなと首をかしげたのだが、読了後納得。たしかにこれだけ政治的だとサイエンスの枠にもおさまりづらい。


本書「太平洋のレアアース泥が日本を救う」は、以下のニュースの科学的、経済的、そして政治的な意義を、一冊の本としてまとめたもの。

南鳥島周辺でレアアースの泥 EEZ内で初+(1/2ページ) - MSN産経ニュース
日本の最東端の南鳥島(東京都小笠原村)周辺の排他的経済水域(EEZ)内の海底に、ハイテク製品に欠かせないレアアース(希土類)を大量に含む泥の大鉱床があることを東京大の研究チームが発見した。同様の泥は南東太平洋の公海上などで見つかっていたが、日本のEEZ内では初。国内の年間消費量の200年分を超える埋蔵量とみられ、採掘が実現すれば中国からの輸入依存を脱却できる可能性がある。

実はこれだけ見ても、一般人はそれの何がすごいのかわからない。そもそもレアアースって何だったけ?

本書はそこから解説してくれる。

目次
第1章 レアアースは日本の生命線
第2章 陸上のレアアース鉱床
第3章 レアアースショック―中国の巧妙な資源戦略と日本の対策
第4章 てんやわんやの報道大騒動
第5章 レアアース泥の発見へ
第6章 レアアース泥とは何か?
第7章 南鳥島のレアアース泥
第8章 レアアース泥は開発できるか?

本書の知見から重要な点を三つだけあげよう。

なぜレアアースか?

その前にレアアースとは何かをおさらいしておこう。

希土類元素 - Wikipedia
希土類元素、レア・アース(中国語: 稀土金属)は、スカンジウム 21Sc、イットリウム 39Y、ランタン 57La からルテチウム 71Lu までの17元素からなるグループである(元素記号の左下は原子番号)。周期表の位置では、第3族のうち第4周期から第6周期までの元素である。なお、希土類・希土とは、希土類元素の酸化物である。

要するに、周期律表の第三列にあるもののうち、全て放射性のアクチノイドを除いた元素のことである。「レア」とはいうものの、分量だけ見ればレアではない。一番多いセリウムに至っては、銅より多い。にもかかわらず「レア」なのは、第Ⅲ族の特徴と密接なかかわり合いがある。

ランタノイド - Wikipedia
ランタノイドは、4f軌道の電子が詰まり(占有され)始める元素のブロック(fブロック元素)で、セリウムから順に4f軌道に電子が1個ずつ詰まっていき、イッテルビウムで4f軌道が14個の電子に占有されて全て埋まる。この過程において最外殻である5d軌道と6s軌道の電子の詰まり方があまり変わらないため、ランタノイドの各元素は性質がよく似ており、このためランタノイドのほとんどは安定な原子価として3価をとる

要するに化学的性質がどれも似通っていて、単離しにくいのだ。これではそれぞれの元素の特色を生かした使い方はしづらい。単離できるようになったのは、比較的最近のことになる。

そしてなぜレアアースなのかという解答もまた、第Ⅲ族の特徴ゆえなのである。

ネオジム - Wikipedia
ネオジムの用途で特に重要なのは、強い磁力を持った永久磁石を生産するために使用されることである。ネオジム、鉄、ホウ素の化合物 (Nd2Fe14B) は、大変強力な永久磁石であるネオジム磁石となる

ここまではWikipediaにも書いてあることなのであるが、実はこのネオジム磁石、ネオジムだけでは温度特性が悪すぎて実用になりにくい。それが実用的になったのは、同じくレアアース、それも重レアアースであるジスプロシウムを添加したから。

P. 34
ところが、佐川さんの発明当初のネオジム磁石は、そのままでは耐熱性が低く、温度が上がると磁力が一気に低下してしまうという致命的な欠点がありました。佐川さんは「あなたの磁石はおもちゃにしか使えないよ。温度特性が最悪だよ」と発明当初いわれたそうです。気を取り直して研究に取り組んで、2~3ヶ月後に、軽レアアースのネオジムの一部を重レアアースのジスプロシウムで置き換えるとうまくいくことを見つけました。ジスプロシウムをほんのわずかな量添加し、ネオジムと置換させることで劇的に耐熱性が向上したのです。

これは永久磁石の例であるが、いずれの用途も技術革新があってはじめて用途が開拓され、用途が開拓されてはじめて資源となったのがレアアース。このあたりの事情がビタミンにも似ていることもあって、今では産業のビタミンとレアアースが呼ばれているのもむべなるかな。

なぜ中国か?

ところがこのレアアース、今ではほとんど中国産なのだ。存在量だけではレアでないのにどうしてこうなったのか?これが中国の国家戦略の賜物なのである。

意外と知られていないことであるが、鉱山というのは、ただそこに資源があるだけでは鉱山とは言えない。損益分岐点を超えてはじめて鉱山なのである。「儲からなければ鉱山ではない」のだ。儲からなくなるとどうなるか。資源がまだ残っていても廃山となるのである。

その点において、中国のレアアース鉱山は二重に有利となっている。一つはもちろん高品位なこと。そしてもう一つは環境負荷を先進国の鉱山よりも強くかけられること。この後者の部分がなんともすごい。

PP. 68-69
 前述したようにレアアースが粘土鉱物の表面に吸着されているだけなので、弱い酸をかけるだけで簡単にレアアースを回収できるのです。
 しかし、この長所が、逆に深刻な問題を引き起こしています。弱酸により非常に簡単にレアアースを回収できるため、その回収方法は極めて荒っぽいものとなっています。なんと、風化花崗岩の山全体に直接硫酸アンモニウムを流し込み、水を通さない新鮮な岩石(不透水層)に沿って流れ出たレアアースの抽出溶液を回収しているのです。

このあたり、マグネシウムの精錬が電気精錬法からピジョン法に「先祖帰り」したエピソードを彷彿とさせる。

安値で競争相手の鉱山を廃山に追い込んだ後、じりじりと価格を上げていく。

P. 76
「中東有石油、中国有希土。一定把我国希土的優勢発揮出来」

なんとこれ、鄧小平の言葉である。そして現在、レアアース情勢はこの言葉どおり推移している。

なぜ海洋底か?

ここまでの背景を理解して、やっと本書の本題が理解できる。なぜ海底4kmの泥が注目に値するのか?中国のレアアース独占を打破する鍵がそこにあるからだ。

前述のとおり、中国のレアアース鉱山は二重の優位性を持っている。高品位と環境軽視。しかし後者は日本としては採れないし、中国としてもいつまでもそうしていられないのはわかっている。しかし前述のとおり、「鉱山は儲かってなんぼ」。レアアース泥は本当に儲かるのか?品位はさておき、4kmもの海底の泥をどうやって地上にもってくるのか?

ぜひ本書でご確認を。

Dan the "Rare" Blogger

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